26僕は甘、私は拾
いくら行こうとしても入れずに僕たちはそこで待っていると、壁からアプロディティスの顔が出てくる。
「堪忍なぁ。準備ができたさかい、入っとくれやす」
なんの準備をしていたんだと僕たちには見えておらず、中に入らせてもらうと何ここというくらいだった。僕と莉耶に菊太は観客席に座らせてもらい、他にも観客席にはディアヴォロスやエクリプス人が座っている。
わけわからんぞと思いながらも目の前では縦八から横八マスがありそれぞれ配置についていた。そして上を見ると檻に入っているのは、甘ちゃんだ。
桜庭課長が駒を動かし相手は昏希。桜庭課長の駒にはなぜか海さんの他にアプロディティスとディアヴォロスに銅和さん。昏希の駒にはどっから連れてきたのかネオリオ社の社員と忌々しい金神銀次に水神潤が揃っていた。
僕たちはただ見ていることしかできないのかと開始の合図が入り先手は昏希。一度星音とやったけれど今回はただのチェッカーで全員の配置がわかるようになっていた。
桜庭課長ってこういうゲーム得意だったっけと観ていたら、蝕夜が隣に来てなぜかポップコーンを頬張りながら観戦をする。
「ほう、あやつはいい腕をしているな。さすがは昏希」
「兄君、なぜこちらに?」
「アプロディティスが最終決戦をすると聞いてな。参ったのだよ。てっきりアプロディティスがやるのかと思えば、妹を育ててくれた捕食人間の恩人に託すとはな。いい度胸をしている」
はぁと落胆してしまうほど蝕夜はただ単に、僕に会いたかったからなのではと感じてしまった。
観ていくと桜庭課長が苦戦始め昏希は楽勝にディアヴォロスを取っている。このままだと昏希が勝利になってしまう。
「これは昏希の勝利が見え始めている。一刻も早く何かをやらなければすぐ終わりだ」
やはり蝕夜もそう思っていたのか。桜庭課長の駒は残り五駒で昏希の駒は十駒。ここで巻き返せるような感じはなさそうだ。どうやって動くと桜庭課長を観ていると蝕夜がいきなり立ち上がる。
「招かざる客が現れたようだ。僕は一旦退散するが、銭湯準備は整えておくように」
すっといなくなってしまい招かざる客とは何者なんだと悩ませながら試合を観戦するも何も敗北が決まってしまった。甘ちゃんが入っている檻が昏希のところへと行ってしまう。
それからアプロディティスも海さんも銅和さんだって昏希に捕まったままだ。案外あっさりやられる桜庭課長で昏希は楽勝という顔立ちでいる。
「弱い。余を楽しませてもらえるかと思ったがそうでもなかった。お主の仲間とらを返すがアプロディティスはこちらのものにさせてもらう。その代わり此奴をやろう」
突き出したのはなぜか金神銀次であり、金神銀次が驚愕し昏希を見た。
「なぜだ?なぜ私を裏切る!」
「すまぬが余は昏有兄上の命により指示に動いていただけのこと。一つ言い忘れていた。アステル幹部はディアヴォロスを食さない善のネオリオ人だけが入れるものだ。こっそり食している者は罪と確定している。金神、お前は何体、いや何十何百とディアヴォロスを食していると報告が上がっている以上、ここで裁きを受けてもらう」
バラの剣を取り出し瞬殺で金神を刺し、こう言った。
「お前は捕食人間となりディアヴォロスに覆われる身となれ」
動転し待ってくれと金神が言うも、ディアヴォロスがいい匂いだと喋り始め、バラの剣を抜く昏希はさあショータイムだと囁く。金神は助けてくれと言いながら逃げて行くも、まだここはアプロディティスが作り出した場所だから逃げることすらできない。
こんなあっさり金神に天罰を与えるとはさすが僕の弟と褒めたいが、甘ちゃんとアプロディティスは解放をしてくれないだろう。
「それでは昏斗兄上、また会おう」
「アプロディティスをどうするつもりだ!」
「それはお楽しみ。潤、しばらく昏斗兄上たちと遊んでて。余はまだやらねばならないことがある」
「了解。気をつけてな」
うむと甘ちゃんとアプロディティスを連れて去ってしまい、アプロディティスが作った場所が消え洞窟の中に戻った。昏希は何を考えているんだと水神潤は水の精霊を出して足止めをする。
桜庭課長が暴走しなければいいけれど、なぜか冷静でいる桜庭課長だから心配はいらないだろう。
「昏希が逃げ切るまでにどれくらい時間稼げるかな」
「昏斗、俺たちで止めておくからお前の弟を追え」
「だけど」
「いいからさっさと行け!」
海さんが珍しくこんなこと言うだなんて思わなくても、海さんの合図で僕はバラの剣で水の精霊を斬り昏希が逃げた方角へと走る。
菊太が匂いを嗅ぎ分けながら進んで行くと出口の先にはなぜか蝕夜が傷だらけでいたのだ。手には宝石を握っている。
「兄君、大丈夫ですか?」
「平気だ……。それより義弟昏斗よ、これを預かってくれないか?」
「これってまさかスコヤディ?」
「うむ。僕がそれを持っていると暴走してしまう。布で隠してくれ」
ハンカチでスコヤディを包むと蝕夜にできた傷が消えていき、僕はわかってしまったような気がした。これはディアヴォロスを消滅させる武器となってしまうこと。これは影神に持ってもらったほうがよさそうだ。
「僕は少々疲れた。家に帰って休むとしよう」
「アプロディティスが」
「アプロディティスは元々父親に恨みを持った奴だ。終えたことでどんな人生を歩むのかはアプロディティス。例えネオリオ人に戻ってしまおうが、構わない」
蝕夜はさらばと僕に伝えていなくなってしまい、アプロディティスがどうなってしまおうともこれでよかったのか。とにかく昏希は甘ちゃんの実家である金神の本家へと向かったはずだ。僕はペンを取りバイクにして甘ちゃんの実家へと急ぐ。
今までは菊太が匂いで辿れないって言ってたけど、今は甘ちゃんの居場所が突き止められるらしくカジノ街の南部へ進み金神家を確認とれた。
玄関の前ではすでに車が止まっておりチャイムを鳴らさずに潜入し、こっちだと菊太が案内してくれる。
行ってみるとこの部屋はなんだと言うぐらい大きな鳥籠があって甘ちゃんがいた。
「甘ちゃん!」
「昏斗!お願い!昏希くんを止めて!」
「どこにいる?」
「……わからない」
「菊太、アプロディティスの匂いは?」
「こっちだ」
甘ちゃんを置いては行けずこじ開けて甘ちゃんを救出し、菊太について行きここだと扉を開ける。そこにアプロディティスがぐったりと倒れていて、行儀悪くテーブルに座っている昏希。
「案外、早かった」
「昏希、アプロディティスに何をした?」
「何って余は何もしてない。目を覚ますのを待っている。それにもう此奴はアプロディティスではない。ネオリオ社金星アプロディロの指揮官、金神蓮として迎える。だから邪魔はしないでもらいたい」
そう来たかとアプロディティスいや金神蓮が起き上がって昏希が立ち上がった。
「具合はどう?」
具合を確かめる昏希に金神連は昏希の胸ぐらを掴んで、憎しみを抱いている。
「なぜ妾を元に戻した!妾は弟を置いて元には戻りとうなかった!昏斗、今すぐ妾を元に戻せ!」
「弟はもう死亡が確定していると昏有兄上から聞いている。あの時点で弟は死んだ。月日蝕夜が繋ぎ止めてくれている命は所詮悪魔そのもの。元に戻したとしても、弟は死ぬ運命。だから前を向けと昏有兄上からの伝言」
ふざけはってと昏希に一発殴り昏希が倒れてしまって、昏希は殴られた頬に手を当てながら立ち上がった。
「弟は死んでへん!生きとる!生きとるんや!」
また殴ろうとしても二度はやらせないらしく、金神蓮を地面に叩きつけ金神連を押さえながら上に乗っかる。
「いい加減にしてもらえますか?いくら足掻いても、弟はもうこの世には存在しない!なぜわかろうとしてあげない?お主はそれで満足だったかもしれん。だけど弟の気持ち、考えたことはあるのか!弟は一度死んだのを感じ取ったはずなのに、この世に止まっていなければならない理由。お主が弟を縛り続けているせいで解放しないからだ!」
昏希が怒る姿を見てなぜか僕と甘ちゃんは感心してしまうほど、昏希の言葉が心に突き刺さる。昏希は金神蓮から離れ僕と甘ちゃんのところに立つ。金神蓮は座り腕で涙を拭きながら彼岸と呟く。
「お主がちゃんと前へ進めるように、愛蘭いや甘露がいること忘れないように。甘露、兄上のそばにいてあげてほしい。昏斗兄上、ちょっと」
大丈夫かなと思いながら部屋を後にし、中庭に出て中庭にあるベンチに腰を下ろす昏希。僕も昏希の隣に座って話を聞いた。
「今までごめんなさい。敵視させ金神の思惑通りに進めるよう昏有兄上からの指示であった」
「気にしてないよ。まあ兄さんの作戦には驚かされることが多いって前世の僕がそう言っているから。あっ!本当に甘ちゃんって昏希の許嫁なの?」
「余はそう聞いている。母上もそう仰っておった。だが甘露が望むのならプラネットコード社で働いて構わないと言っている。それに甘露には特別な人がいるであろう?余はいつでも会いに行けるし、いずれ共に歩むから好きに旅をしてよい」
ならよかった。じゃあここもあの装置を使って平和を取り戻すか。
「ならここはもうあれを使っても平気そうだ」
「昏斗兄上、そのことなんだが」
「どうかした?」
「ここに滞在している間、余は真神家の別荘で暮らしていた。無論、展望台も無事ではあったのだが装置が破壊されておった。至急、影神に連絡をとり見せたのだが直せないと言っていた」
影神、それ僕に報告してほしかったとその続きを綴ってくれる。
「余の憶測なのだが新城心かもしくはセリニ・ネアが破壊したのではないかと考えている。先ほどもディアヴォロスの帝王である蝕夜と刃を振るっている新城心がいた」
「やはりセリニ・ネアが動き始めているということか。僕らが動き出しているからあちらも動き始めている。昏希、兄さんに伝言を頼める?」
「何を?」
「僕はまだこちらで調査したいことがあるから、そっちに行くのは当分ないけど必ず兄さんがほしい情報を持って帰る。それまでは持ち堪えてほしいと」
「うむ、心得た。では余は蓮を連れてネオリオ社へと向かう。昏斗兄上、また会える日を楽しみにしておく」
僕に手を振って昏希は行ってしまい、菊太が人間の姿になった。
「なんか腑に落ちないところがある。水星ヘルスミエと違ってなんかここふわふわし過ぎ」
「僕も違和感はあるけど、セリニ・ネアも動き出しているというのは事実らしいから、これは桜庭課長と桃花会長には報告する」
「早く甘露、迎えに行って昴たちと合流しようぜ」
そうだねと僕たちも甘ちゃんがいるところへ行くと嬉しそうな笑みを浮かべてありがとう昏斗と抱きつく。これで一件落着でいいんだよねと甘ちゃんの頭を撫でてバイク三人海苔にはならないからタクシーを呼びプラネットコード社へと帰還した。
甘ちゃんが戻って来たことで、桜庭課長がよかったと甘ちゃんにハグをしみんなも歓声をあげている。だが海さんだけは違ったようで、喜んでいる様子ではなかった。菊太もそれを感じていたらしく、菊太が海さんのズボンをくいっとやると珍しく海さんが動く。
第七捜査課室を出て廊下で海さんの言葉を聞いた。
「あれはただ単にアプロディティスを確保するためのチェッカーだったような気がする。それで勝った飼育員の弟は俺たちに邪魔な金神を突き出した」
「それは本人から聞きましたけど、何かあったんですか?」
「俺は昴の駒として動いていたが、まるで金神を処分するような手口にも見えた。金神が捕食人間にさせた理由も、あいつの思惑通りにことが進み、恨みを持ったディアヴォロスが金神を罰せられるように仕向けたのも、おそらく飼育員の兄貴が関わってたんじゃねえかって気がする」
言われてみればことが順調に進んでいたのは、兄さんの計画にまんまと僕らは利用されていたってことになるのか。それにあの装置が破壊された理由は、金神を逃さないために自ら壊したとしか言いようがない。
あの装置があれば誰にも食されず平和に過ごせるというのにそうしなかったのはまだ金星アプロディロに闇が潜んでいるからだろう。
「兄と接触ができるかどうかはわかりませんが、装置を作ってもらうよう影神に手配させます。そうしなきゃ金星アプロディロは平和を取り戻せず、捕食人間が地上に出られない」
「頼む。俺も一応琥珀と真珠に情報を提供してもらえるよう頼んでみるから」
「お願いします」
その後は戻ってきた甘ちゃんのためにパーティーをして、甘ちゃんはただいまと満面な笑みを出した。
⁑
丸い石を集め切った私たちはクレヴィー社に帰っている最中に、蝕夜から連絡が来てクレヴィー社には帰るなとあった。なぜかというと金星アプロディロを管理していたアプロディティスがネオリオ人へと戻ったらしい。それで今はクレヴィー社にネオリオ人が攻めている。
アプロディティスがいなくなってしまったら、どうなってしまうのだろうか。そうだ、あの装置があればこの世界を平和に取り戻せる。そう思った私は影神が教えてくれた別荘の場所を鈴哉さんに教えて連れてってもらった。
昏斗がもしかするとこの状況を読んで助けてくれるかもしれない。あの装置はなぜか昏の星である昏斗じゃないと使えないようになっている。
カジノ街にある北部にあり到着して、別荘にある展望台へと急いだ。
ガラガラと扉を開けてスイッチを押してみると装置が壊されており、これじゃあみんなを助けられない。どうしてここがバレてしまったのと装置を拾う。
「誰がこんなことを……」
「昏花姉貴、これ」
八雲くんが見せてくれたのはアダマスティン遊園地で売られているマスコット。これって昏斗たちとお揃いで買ったマスコット。
「昏斗が買ったマスコットの顔じゃない。だとしたら一体……」
「流彗はランドセルについてたし、僕もいつもの鞄につけてるよ」
「だとしたらあそこにいたのは星音ちゃんとそれから莉耶ちゃん……?」
「一度莉耶に聞いてみる」
鈴哉さんは莉耶ちゃんに連絡を取ってもらい、星音ちゃんを疑いたくはない。だけど全員のマスコットを昏斗が支払ってくれたから絶対に探しに来るはず。私は思い切って星音ちゃんに連絡を取ってみることにした。
すぐには出てはくれなかったけど、すぐ折り返してくれてどうしたのと星音ちゃんの声が聞こえる。
「星音ちゃん、昏斗がアダマスティン遊園地で買ってくれたマスコットなくしてない?」
『うん……なくしちゃった。どこ探しても見つからなくて……』
信じたくない言葉でも、ここで疑いをかけるのはどうかと思い見つけたから持っていくねと伝えて切った。
「莉耶に確認したけど、鞄についているそうだ。そっちは?」
「星音ちゃん、落としちゃったって。疑いたくはないけど鑑識に回せますか?」
「あの子ならやりそうな感じね。こっそりディアヴォロスを食せる店で見かけるもの。きっと食べられなくなってしまうのを恐れてここに来た。そうとしか考えられない」
「迂生も同感。星音は裏の顔がある。ディアヴォロスを食し続けているからこうなるんだ。星音には注意したほうがいいのかもしれない」
八雲くんの言う通り、星音ちゃんに注意したほうがいいのかもしれない。それに前世の私も嫌がっていたような気がした。特に昏斗には注意していてもらいたい人物。
だけど今、昏斗に伝えると敵が増えそうだから様子を見て伝えるしかなさそうだと私たちは一度私の家へと帰宅することになった。




