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私の右手の疼きが止まらない!  作者: 弱った毛根
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マルス -1-

僕はマルス。今日、14歳になった。


語るに足らない、どこにでもあるような農村の生まれ。

子供に恵まなかった両親のもとに生まれた僕は、農家の子供とは思えないくらい大事に育てられた。

そのせいかはわからないが、どちらかというと内向的に育った僕は、農村の子供達の基準でいうと貧弱な部類に属していた。


おそらく、いじめられていたのかもしれない。

もしかしたら、僕のただの被害妄想かもしれない。

直接の暴力を振るわれたわけでもないし、挨拶すれば挨拶は返ってきた。

ただ、遊びには誘われなかったし、みんなの話題にはついていけなかったりと、兎に角僕は村の同世代には馴染めていなかった。

一度でいいから、皆と狩りに行ってみたかった。


村の中では、頭はいい方であった。

でも、街の子供ならまだしも、農村の子供に学はあまり必要ではない。

元気に家の手伝いをしたり、狩りをして畑仕事以外で家を助けたりする方が何倍も喜ばれる。

畑仕事を手伝いながら、僕はただ流れていく代り映えのない日々を過ごしていた。


その日はたまたま、どうしても畑仕事をする気にならず、森に行ってみようと思った。

両親に危ないから行ってはいけないと言われていたため、僕は村のすぐ裏にある森にすら行ったことがなかったのだ。

同世代の子供達が狩りに遊びに行っている森。

漏れ聞こえてくる会話から、鹿や兎を狩ってくることもあれば、スライムやワーム、バットといった低級の魔物と戦うこともあるようだ。

大きな虫すら殺せない僕が、もし魔物に出会ってしまったらどうしようもないのだが、14歳を迎えたこともあり、その日は冷静に考えることができない状態であった。


森に足を踏み入れる。

何も考えずに来たため手ぶらであり、それが急に不安に思えてくる。

目についた長い木の枝を拾う。

武器のようなものを手に持ったことで不安を和らげ、森を進んでいった。


しばらく歩き続けたが、魔物どころか動物と出会う気配もない。

実はその時、森の中の魔物や動物は息を潜めて、それぞれの住処に隠れていたのだが、僕は、自分の体力がないせいで彼らが住んでいる領域まで足を踏み入れられていないのだと勘違いをしていた。


休憩を取りつつ半日ほど森を歩いたが、結局村と街を結ぶ街道に近づいてしまい、体力も限界を迎えていたため、街道を歩いて農村への帰路についた。

そして日も沈みはじめた時間に、漸く村を囲う壁が見える位置までたどり着いた。


意外と遠いところまで歩いたのだなと感じながら村に入った僕が見たのは、

半壊した村と、血、そして村の広場に積み上げられた死体の山であった。





一体、何が起きたのか全く分からない。

何がどうなって、この平凡な村にこんなことが起きたのだろう。


死体は、驚きの表情を浮かべているものや、怯えた表情を浮かべている。

死体なのにまるで生きているかのような現実的な表情をしているな、とどこかずれたことを考えていると不意に強烈な吐き気が込み上げてきた。

朝から何も口にしていなかったからか、嘔吐をしてもすっきりとした気持ちにはならない。


死体の山は、老若男女問わず、ごちゃごちゃと積み上げられている。

死鳥だろうか、はじめて見たが、黒くて長い尾を持つ鳥たちが死体をついばんでいる。

自分と同世代の、狩りが得意で魔物を倒したことを自慢していた少年の目玉が食いちぎられたところで、やっと死体の山を視界から外した。


死鳥を追い払って死体を埋葬する気にもなれず、ふらふらと自宅に戻った。

扉を開けると、夥しい量の血が。



家の中で両親は見つからなかった。


もしやとは思っていたが、両親もおそらく死んでいるのだろう。

あの死体の山に埋もれているのかもしれない。

しかし、あそこにはもはや近寄りたくもない。





両親が死んだ。

悲しみは深いが、あまりに非現実的な現実に僕の頭は混乱していた。


無理やり頭を働かせると、二つの問題があるように思える。


誰が、この惨劇を起こしたのか。

僕は、これからどうやって生きていくのか。


あまりの衝撃に前者のことを考える余裕がなかったが、まだ原因となるモノが村の近くにいてもおかしくないのだ。

しかし、不用心に死体の山の前で立ち尽くし、音も殺さずに家に向かい、長い間放心状態であったにも関わらず、何も起きていない。

なぜこうなったのかはわからないが、すでに目的は果たしたと考えていいのだろうか。

考えたところで、何も対策が思いつかない。


後者だが、このまま村に閉じこもっていても、日持ちする食料が無くなれば立ち行かなくなる。

そもそも、こんな死体がたくさんあるところで暮らしていくことなど不可能だ。

街に出なければならない。

家からお金を持ち出していったとしても、いずれ無くなってしまうだろう。

街で何かしら職に就かなくてはならない。


いや、その前に街まで無事にたどり着かなくてはいけない。

徒歩で一日二日で着くような距離ではない。

街道を歩いていくとはいえ、魔物が出ないという保証はない。

過保護に育てられたため、戦闘の経験がないことが悔やまれる。

村で手に入るもので、可能な限り装備を整えていくしかない。


家を出た僕は、できるだけ死体を見ないようにしながら村を回った。


雑貨屋に、着れそうな革の胸当てがあったため、装備した。

売られている剣を手に取ってみたが、重すぎて片手で振るうことができず、剣を持っていくことは諦めた。

木でできた小さなラウンドシールドを拝借し、薬草と食料を家から持ってきた袋に詰め込んで、雑貨屋を後にした。

まるで空き巣のようで心が痛むが、背に腹は代えられない。



家に戻り、父親が解体に使っていたナイフを2本腰に挿した。

装備はこれでいいだろう。


日が沈み、外は暗闇が広がっている。

今すぐにでも出ていきたかったが、この闇の中歩くのは危険に感じる。

一晩過ごして、早朝に出ていこう、そう考え荷物を置こうとした時に

家の外から何かが這いずるような音がした。


扉をそっと開けたが、日が完全に落ちてしまい、外は完全な暗闇である。

村にはもう誰もいないため、光源がないのだ。


僕は松明に火をつけ、掲げた。


何かがこちらに向かってもそもそと近づいてきている。

何だろうと不思議に思い松明を向けると、それは母親であった。


なぜ、這っているのだろう。


なぜ、顔が半分なんだろう。


なぜ、こちらに向かってくるのだろう。


足が竦んでしまう。

よく見ると、こちらに向かうものは母だけではないようだ。

広場の死体の山自体がもぞもぞと動いているように見え、そこから数体の死体がこちらに向かってきている。


このままだと、殺されるのではないだろうか。

そう思った瞬間、足が動いた。

幸いにも、母をはじめとした死体たちは速く動けないようだ。


僕は動く死体達から逃げるように村の外へと飛び出した。




これが、僕の物語の始まりだった。

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