第16話「 多分、風。」
身だしなみを整えよう。
ぶりぶりっと、手から人の姿へと擬態を行う。
設定はさすらいの旅人。
クールにいくぜ、おーらぃ!
◇
街に近づいてみると、なんか兵士っぽい人たちがそれはもう見事に右往左往していた。
コメディか!
兵士さんは門番的ポジなのかとも思ったけど、だいぶ人数いるなあ。
いや土の櫓みたいなのあるし、やっぱりお祭りかなんかですか?
近くの兵士さん達にある程度近づいたつもりなんだけど、話し込んでるのか気づいてくれない。
今までの私なら無視されたと落ちこんじゃうけど、手になってから精神がタフになったからか、はたまた人と話したいからか、全然平気!
おら、コミュニケーションしてえんだ。
ということで、練習に練習を重ねた音魔法でご挨拶や。
‐こんにちは!
「こんにちは!」
お?
なんかビクッとしてこっち向いた。
けど、挨拶には挨拶を返すのが基本のはず。
なのに、兵士さん達はこちらを凝視している。。
なんでや。
でも、私負けない。
うん、だって何者か名乗ってないもんね!
‐私はさすらいの旅人。
「私はさすらいの旅人。」
ジャキッ!
おやおや、何故か槍とか剣とかが向けられる。
むむむ。
そりゃあないよーう。
幼気な旅人だよ?せっかくここまで旅してきたって設定なのに。
まあ、こんなおかしな仮面をつけてたら変か。。
・・ってあれ
私
仮面つけてねえ。
というか、あれ?
私
全裸やん。
・・・
思い出せ、私。
親びん死体周辺でインナーかっぱらったよな、、
確実に着たよね。
いつ、なくなったんよ?!
人間モードの時はずっとあったのに!
・・・
あ、あれか!
走りづらいからって手モードに戻った時に、脱げちゃってたんだ!
「~靴下を放り捨てたときのような開放感!」
とかほざいてたけど、ほんとに脱ぎ捨ててたのかよ!
アホだなあ。
ふむ、客観的に見て、
今の私は黒い全裸の人。
改めて言うけど、性器はないよ(テヘ
これじゃあ完全にコナンの黒い人じゃねえか。
はあ、やれやれ。
バチクソ不審者やないか。
なにが「さすらいの旅人」だよ!
森から出てきた全裸野郎じゃねえか。
くそ変態だな。
私なら逃げるね。
兵士さんたちもそら、武器を向けるわ。
不審者捕縛一歩手前か?
これは、必殺技「逃げる」だな。
擬態解除からの、全力疾走やおらああああ。
◇
意外にも、兵士たちは刃も振るってこなかったし、追いかけても来なかった。
まあ、こんなきもい不審者、誰も近寄りたくないよね。。
さて、とりあえず服と仮面を取りに戻るか。
目の前に街があるけど、この街はもうだめだ。
「不審者、現る。黒い全裸を見かけたら直ちにご連絡を!」
とかなってるよ、絶対。
つまり人型のまま、街まで行かなきゃいけないんだな。
ズルはいぐねえ。
ちゅうことで、人型をやめた地点までは手モードですっとばして、装着して人型で移動しよう。
めんどいけどね。
で、あの街はきっともうダメだから、別の街に向かうか。
なかなか難しいね。
さて、仮面ちゅわぁああん、服ちゅわぁああん、どこおるんやああああ。
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西の山から溢れた"闇"が突如ナハル国を覆った。
先の魔力に備えていた兵士たちであったが、目と鼻の先まで近づかないと景色が視認できないほどの濃い闇に混乱していた。
さらに先ほど観測された魔力は、昨日観測された地点よりもだいぶ街の近くで発生した。
街に近づいている。その元凶は今にも街に来るかもしれない、と兵士たちはさらに警戒を強めた。
とはいえ、現状出来ることをするしかない。視界が悪いならば、少しの物音にも耳を澄ませばいい、と身構える。
・・・
「「हाय वहाँ!」」
唐突に音がした。
身の毛もよだつようなその音に兵士達は恐怖に震える。
・・
「「मैं यात्री भटक।」」
!?
さらに音は続く。
いや、これは唸り声かもしれない。
何かが、目の前にいる。
近くにいた兵士たちは、その音の発生源へと武器を構える。
・・・
・・・
・・・
ところが、いくら待てども何も起こらない。
そして数刻が過ぎ、ナハル国を覆っていた"闇"は次第に晴れていくのであった。




