気配切り
──とある大型企画。配信者たちがスタジオに集められた、リアル対面でのコラボ配信。
司会の配信者が笑いながら言う。
「さーて! 次はお待ちかね、『気配切り』です!」
ざわつく参加者たち。説明が入る。
「ルールはシンプル! 一人が目隠しして、他の人たちが近づいてきたのを“気配”だけで察知して、指差して『切った!』ってやつです!」
樹と朝倉は並んで立っていて、周囲には人気配信者が何人も。
今回はゲーム内じゃなく、完全リアル──スタジオの中央で、目隠し役が一人立ち、他のプレイヤーがゆっくり忍び寄る。
「よし、じゃあ第一ラウンドの目隠し役は……朝倉くん以外でいこうか! なんか……もう予感がするもん、あの子だけ異能力者枠だもん」
爆笑する周囲に、朝倉は何も言わずに微笑を浮かべるだけ。
第一ラウンドは他の配信者が目隠しし、参加者が動く番だった。
朝倉はゆっくりと歩き始める。
音もなく、呼吸もわからず、存在感すらない。カメラも音声も拾ってるのに、「あれ?いない?」とコメント欄がざわつく。
「ちょ、え? どこ行った?」「いや、そこにいるの!?」「映ってる??」
「まって、影でしか分からん」「ホラーじゃん……」「気配ゼロってこういうこと!?」
目隠し役は固まっている。気配どころか、朝倉の“存在”に気づけない。
「はい、後ろ通って切りました」
小さな声。朝倉が手をスッと差し出す。
「え!?いたの!?嘘でしょ!?!?!?」
盛り上がるスタジオ。朝倉は静かに立ち尽くしたまま、ふっと笑って一言。
「……気配は、基本的に消してる。なんとなく癖」
二回戦、三回戦と進む中、朝倉がついに“目隠し役”になった。
他の配信者たちが慎重に距離を詰めていくが──
「右斜め後ろ、足音が浅い」
「左の柱の影、息止めすぎて逆に目立ってる」
「前方、迷ってる。靴の音が焦ってる」
「やっべぇ……!」「なんなんだよその耳……!」「脳内レーダーかよ!!」
「こっちがステルスしてんのにレーダー完備とか勝てるわけねぇ!!」
他の参加者が騒ぐ中、朝倉はしれっと答える。
「……呼吸と重心、周囲の空気の流れが少し変わるから、分かる」
「怖いんだよ!!!」と総ツッコミ。
その時、樹がふと思い出したように言う。
「……あ、でもアイツ、家族とか俺みたいな仲が良い相手だと、さらに分かるらしい。
“気配を覚えてる”んだって。だから知らない人より、俺の場所はすぐ分かるんだと」
「えっそれ、愛じゃん」
「リアルGPS!?」「もう魂リンクしてるんだろ……」
コメント欄がざわつく中、朝倉は淡々とこう続けた。
「……長く一緒にいると、気配が体に馴染む。どこにいるか分からないほうが、おかしい」
それを聞いた樹は、少し照れたように笑って、
「……あーもう、ほんとそういうとこだよな……」
と呟く。
スタジオは笑いと驚きで包まれていたが、
誰よりも静かに、誰よりも深く、“気配”で相手を感じていたのは朝倉だけだった。




