忍者かよお前
「──あ、そうだ。今日ちょっと話したかったんだけどさ……」
俺が雑談配信でお茶を啜りながらそう切り出すと、コメント欄が「何?」「また惚気?」とざわつき出す。
「いや、惚気じゃない……いや、惚気かもしれんけど。
最近ほんとに、アイツ、朝倉の“気配の消し方”がすごすぎてさ。マジでホラーなんだわ」
『気配消すってどういうこと?』『忍者?』『ステルス性能高すぎる彼氏』
「いや、冗談じゃなくて。俺が部屋で作業してたり、ゲームしてたりするとき、
あいつが“ただそこにいるだけ”なのに、ガチで気づかないことがある。
この前もさ、リビングでゲームしてたら、“そこにいたの?”って背後から声かけられてさ──
振り返ったら、部屋の隅であぐらかいて本読んでたんだよ。俺が来たときからいたらしい」
コメント「ホラー」「それは怖いw」「逆に心配になるレベル」
「なにが怖いってさ、視界の端にはいたんだよ、間違いなく。なのに、脳が“誰もいない”って判断してたっぽい。
……で、思い出したんだけど、あいつ配信中にもたまに背景に映ってるんだよ」
コメント「は????」「どこに????」「今も?」
「いや、さすがに今はいないけど!
アーカイブ見返してたら、ソファの端とかドアの影とかに普通に“朝倉”がいる時あって、
でもコメント欄も俺もまっっったく気づいてないのよ。で、後から気づいて鳥肌立つっていう」
『存在感ゼロの天才』『それ能力者の類じゃない?』『ダウナー系の異能者感』
「俺も最初それ言ったんだけどさ、本人曰く──」
と、ちょうどそのタイミングで、音もなく部屋のドアが開く。
黒い影がスッとフレームの端に入ってきて、
カメラの前を静かに横切る。ロングの黒髪に、無表情の朝倉。
コメント「うわあああああいたああああ!!!」「心臓止まるかと思った」「今絶対いた!」「映ってたぞ!!」
俺も気づいてなかった。
マグカップ持って戻ってきた朝倉を見て、ようやく反応する。
「あ、なあ、今来たんだよな?な?最初からいなかったよな?」
朝倉は無言で俺の隣に腰を下ろすと、
こくん、と一度だけ頷く。
「お前さ、その能力、どこで身につけたのマジで。
いや忍者なの?なんか修行したの?」
「……ただ、静かにしてるだけ。動かず、息を潜めてれば……人は“そこにいない”って思うだけ」
コメント「怖い」「でもかっこいい」「やっぱり異能力者だこれ」
「なあ、でもカメラに普通に映ってても気づかれないってどういうことよ。
てか、朝倉、なんで毎回そんな位置にいるん?」
「……別に。居心地がいいだけ」
朝倉は、カメラをちらりとも見ず、目を伏せたまま紅茶を一口。
その仕草が妙に優雅で、またコメント欄がざわつく。
『本当に人間?』『朝倉=影の支配者説』『存在が異界』
「──まあ、でも俺はその気配のなさ、けっこう好きだけどな。
物音も立てずにすぐそばにいてくれるの、なんか安心するし。
……ただ、心臓には悪い。リアルにドキッとするからやめて」
「……じゃあ、今度から“来た”ってLINE送る」
「そういうとこ、律儀だなお前は……」
リスナーが爆笑とツッコミで盛り上がる中、
俺はふと、隣の朝倉を見た。
静かにそこにいるだけなのに、まるで空気のように溶け込んで、
でも確かに“俺の隣”にいてくれる。
──それが、朝倉なんだよな。




