好きになったきっかけ
配信の画面には、いつもの通り並んで座る俺と、樹。
雑談配信。特に台本もない、気楽な枠だ。
画面のコメント欄が賑やかになりはじめたころ、流れてきたひとつの質問が樹の目に止まった。
「“好きになったきっかけ”ってありますか?」
樹が「うわー来たか」と苦笑して、画面を見たまま答える。
「俺はなー……あいつが“素直に好き”って言ってくるのに、負けたな。あれは本当に強いよ。
何度も言われて、あーもう降参だわって思った。あれで落ちないやついないって」
そう言って俺の方を見てくる。
クールな顔を保ちつつ、軽く目を伏せた。
……俺が素直に「好き」と言ったのは本当だ。
それが何度目の転生で、何度目の「好き」だったかは、もちろん言わない。
コメント欄には「素直な朝倉いいな」「逆に初恋はいつ?」「生まれたときから?笑」みたいな反応が飛び交う。
その流れに乗るように、樹がふと口にした。
「そういえばさ、あいつ――4歳くらいの時から俺のこと好きだったんだよな。たぶんリスナーは知らないか」
俺は無言で一瞬だけ画面を見た。
一拍、黙ってから口を開く。
「一目惚れだったよ。……初めて会った時に、確かにそう思った。
見た瞬間、身体の奥がびりっとして。……“この人が俺の大切な人だ”って、魂が叫んだんだ」
コメント欄が一気に爆発する。
『え、電流走った系?』『魂が叫んだって詩人すぎん?』『朝倉にそんなロマンチックな一面が…』
「……意外とロマンチストなんだな、お前」
樹がそう言って、楽しそうに笑う。
「まぁ、意外と、じゃないか。俺は前から知ってる」
「そう見えないって言われるのには慣れてる。……俺は口数少ないし、冷たく見えるから」
「でも、あの時の感覚は……本物だった。確信を持って“この人だ”と思った。
今も、その直感を信じてるよ。──ずっと、変わらない」
画面のコメントは止まらない。
『一目惚れを10年持ち続けてるの尊すぎる』『前世からの約束なのかと思うレベル』『朝倉、愛が深い…』
俺は軽く息を吐いた。笑うように見えるかもしれないが、実際はただ息を整えただけ。
前世のことなんて言えない。
でも、俺の想いが本物なのは確かだ。
ずっと好きだった。
何回生まれ変わっても、きっとまた同じ選択をする。
初めて出会ったみたいな顔をして、でも同じように、また惚れる。
何度だって、この人の隣に立ちたいと思う。
「──まぁ、過去はともかく、今の俺が好きになってくれてるなら、それで充分だよ」
樹がそう言って、俺の頭を軽く撫でてくる。
配信だから手は映らないけど、雰囲気でなんとなく伝わってるだろう。
「……それ以上撫でるな。配信中だ」
「はいはい、すみませんね、ロマンチックボーイ」
コメント欄:
『照れ隠しかわいい』『前世で恋人だった説』『朝倉が人間に見えないくらい一途』
「……前世なんて、あるわけないだろ」
そう、言葉に出すのは簡単だ。
でも俺の胸の奥では、また同じように、あのときと同じ声が響いていた。
──やっぱり、お前がいい。
それだけは、何度生まれ変わっても、きっと変わらない。




