実は樹も
雑談配信の途中、コメント欄が少し盛り上がる。
「朝倉くんの愛重くない?」「よく受け止められてるね」「でも逆はないの?」
そんな流れの中、ひとつのコメントが樹の手を止めさせた。
『朝倉くんは樹さんのこと大好きで、全部受け入れてくれてるけど……樹さんのほうは、朝倉くんに“重い愛”みたいなの、ないんですか?』
少しの間、無音が流れた。
樹は静かに息をついて、モニター越しの視線を外す。目元に、苦笑のようなものが浮かぶ。
「……うん、あるよ。めっちゃ言いづらいけど」
コメント欄が一斉にざわめく。
『え?』『えっっっ』『ガチ?』『気になる……』
「……俺さ、アイツを……傷つけたいって思うこと、あるんだよね」
リスナーたちの息が止まるのがわかる。
樹は少しだけ目を伏せて、机の上で手を組んだ。
「殴りたいとか、そういう単純な話じゃない。……なんかこう……俺のせいで苦しんでるところを見たいっていうか。壊したいって思うときがある。好きすぎて。どこまで俺を愛してるのか試したくなる」
「でも……それを言ったとき、朝倉は――“俺は痛みを愛だと感じることができる”って、そう言ったんだよ」
コメント欄がまたざわつく。
『えっ』『それって…』『ちょっと待って重い重い』『朝倉くん強すぎる……』
樹は顔を上げて、真剣な目でカメラを見る。
「本気なんだよ、あいつ。俺が傷つけても、拒絶しない。むしろ喜ぶような……そんな風に見える時がある」
「それが……怖いんだ。あいつ、自分が壊れてもいいって本気で思ってる節がある。俺が何しても、きっと“愛されてる”って思って笑ってくるんだよ」
「それで、俺……いつか本当に殺しちゃうんじゃないかって、マジで怖い。だから、踏み込めない。触れたくない感情に触れちゃいそうでさ」
コメント欄:
『重い、でも真剣』『こっちまで泣きそう』『やば……めっちゃSじゃん樹さん…』『共依存の沼』『朝倉くんが受け止めすぎてるのもやばい』
「しかもさ、あいつも“俺を傷つけたい”って思ってるんだよ。だけど……俺が痛いのは嫌って知ってるから、絶対やらないの」
「フェアじゃないだろ。俺だけが抱えてて、あいつは全部我慢してる」
樹の声が、少しだけ震えていた。
静かな怒りでも悲しみでもなく、深く深く、自分に対するやるせなさのような。
「……でも、アイツは俺の“嫌なこと”は絶対しない。それが分かってるから、余計にあいつの我慢が見えて、……つらくなるんだよな」
「ほんとは、もっと甘えさせてやりたいのに。好きって、ただ可愛がるだけじゃないんだよなって……思う」
コメント欄は一斉に息を呑んだように静まり、やがて、たくさんの言葉が流れはじめる。
『……愛って、そういう形もあるんだね』
『お互いに深すぎる…』
『樹さんも十分ヤンデレじゃん』
『朝倉くんが「痛みは愛だ」って言ったの、やばすぎるけど…わかる気もする』
『その上で制御してるのすごい…愛が怖いけど綺麗だ』
樹は最後に、少しだけ微笑んで、こう締めくくった。
「……まぁ、あいつは何があっても俺を嫌いにはならないと思ってるけど。俺は――できれば、嫌われるくらいのことはしてみたいと思ってる」
「……それで嫌われなかったら、もう、俺の負けだな」




