オムライスと言えば...
樹の配信は、いつもよりゆるい雰囲気だった。カメラは少し引き気味に設置されていて、手前のテーブルに座る樹と、その奥にあるキッチンで何やら料理をしている朝倉の姿が映っている。
「というわけで、今日は俺がメイン喋ってるけど、奥にいるのは例の高校生。なんか作ってくれてるみたいです。あ、おい、火ぃ強すぎないか?」
「大丈夫。火加減は見てる。卵はふわとろがいいんだろ?」
カチャカチャとフライパンを操る音と、トントンと包丁のリズム。器用な手つきで手際よく調理するその姿に、コメント欄もほっこりムード。
《料理男子っていいな》《何作ってんの?》《動きが慣れすぎてる》《カフェ開けそう》
樹は「さて、俺はただ飯を食うだけ……」なんて冗談を言いながらも、料理の香りに鼻をくすぐられていた。
そして10分後、皿が目の前に置かれる。
「はい。オムライス」
ふわとろの卵が、綺麗に形作られたケチャップライスの上に優しく乗っている。艶と香りだけでもう美味いと確信できる出来。
だが、朝倉はそこでふっと手を止めて、ケチャップを手に取った。
「……オムライスと言えば、魔法をかけないとな?」
「は?」
「動かないで」
すぅっと朝倉がケチャップで描き始める。流れるような手つきで、プレートの上に……うさぎの絵。そしてその下に、**「萌え萌えきゅん」**の文字。
やけにバランスがよくて、プロの技すら感じさせる出来映え。コメント欄が騒然となる。
《え?上手すぎじゃない?》《クオリティ高っ!》《まさかの“萌えきゅん”》《芸術点高い》
「お、お前……何してんだ……!」
朝倉はそのまま、冗談みたいに声をワントーン高めて――
「ご主人様、オムライス、お待たせしました。今日はたっぷり愛情こめてありますよ〜?」
「やめろやめろやめろやめろ、配信中!配信中ですぅぅぅ!」
コメント欄が爆発する。
《朝倉さんのメイドボイス…保存した》《音源売って》《それどこで学んだんだよ!?》
樹は動揺しながらも、ケチャップアートの完成度には目を奪われるしかなかった。
「……いや、ちょっと待て。マジで上手いな、これ。どうやって覚えたんだよ」
朝倉はケチャップのキャップを閉めながら、さらっと答える。
「メイド喫茶。通ってた」
「通ってた!?お前、そういうの行くタイプだったのか!?」
「割と学べることが多い。接客、見た目の演出、会話のテンポ、魔法のバリエーション。あと、手元の動きとか、声のトーンも」
「……お前、あそこに学びを見出してんのか……」
「うん。あの空間は一種のライブパフォーマンス。応用すれば、配信にもモデルの仕事にも役立つと思う」
《プロ意識すご》《もはや研究者》《学びに行く人初めて見た》《推せるわこんなん》
樹はため息をつきながら、スプーンを手に取る。
「……まあ、食うけどな。味は間違いないし」
「愛情、込めてあるからな」
「それを言うな、ややこしい!」
コメント欄は最後まで笑いの渦に包まれたまま。
オムライスのふわとろの食感と、プロ級のケチャップアート、そしてメイド仕込みの“萌え萌えきゅん”。
朝倉の“本気”は、どこかズレてるようでいて、完璧だった。




