夏の夜
夏の夜。外はまだ少し蝉の声が残ってる。樹の部屋の窓からは、風鈴の音が時折ちりんと鳴っていた。
配信中、樹はまったり雑談をしていた。テーマは特に決めず、冷たい麦茶片手に「夏の夜はいいよな〜」なんて喋っていたそのとき——
「……ノックもしねぇな、アイツ」
ガチャリとドアが開いた音がして、そこに現れたのは朝倉。
「差し入れ。ゼリーと、冷やした団子。あと、これも」
そう言って、さらりと手提げ袋を机に置く。
……が、それどころではない。
コメント欄が、ざわつく。
《ちょちょちょ》《えっ?今映った?》《え、待って、短くね?》《ズボンどこいった?》
樹「おま、おまえ……その格好……っ!」
樹の声が一瞬だけ裏返る。慌ててカメラの画角を確認しながら、焦ったように片手でカメラを手で隠す。
「やべっ、映る映る映る!おい!こっち来んな!……お前、下、履いてるのかそれ!?」
朝倉はキョトンとした顔で自分の服装を見下ろす。
長めのゆるいTシャツ。そして、超短めの黒いホットパンツ。
朝倉「……履いてるぞ。ちゃんと。これ、涼しくていいんだ」
樹は手で顔を覆って項垂れる。
「いや、履いてるかどうかの問題じゃねぇんだよ……ぱっと見、Tシャツしか見えねぇんだよ……!」
コメント欄はもうパニック寸前。
《映っちゃいけない美脚》《これは見えちゃダメなやつ》《視聴者全員のドキドキが止まらない》《犯罪級の美脚事件》
朝倉は涼しい顔でそれを横目に、団子を冷蔵庫に仕舞いつつ、ぽつりと一言。
「……なるほど、こういうのが好みか」
樹「は?」
朝倉「普段はノースリーブとか、もう少し落ち着いたのにしてたけど……その反応、覚えておこう」
「いや待て、違うって!違う!これは事故だ!わかるか!?事故ってのはな、狙ってないからこそ起きるんだよ!」
コメント欄:
《事故(ご褒美)》《狙ってないから刺さるんだよ》《記憶に保存しました》《これから毎夏見せて》
朝倉はすぅっと冷蔵庫を閉め、軽く笑う。
「お菓子、冷やしてある。あとで一緒に食べるか?」
そう言い残し、ひらりと足音も立てずに部屋を出ていく。その背中を見送りながら、樹は崩れ落ちそうになっていた。
「……こっちのHPがゼロになりそうなんだけど……」
コメント欄:
《ごちそうさまでした》《たぶん全員落ちた》《夏の夜のホラーより怖い》《次の配信で死んでそう》
樹は配信の画面に向かって小声でつぶやく。
「頼むから……このアーカイブ、編集入れてくれ……」




