虫食配信
ある日のふたり配信。
開幕早々、朝倉が静かな声で、しかしいつもよりわずかに楽しげな雰囲気でこう口を開いた。
「……ちょっと変わったものを仕入れてきた。今日は、それを食べようと思う」
樹「お、おう……? 変わったものって何だ?」
朝倉がテーブルの上に丁寧に並べていくのは、パック詰めされた“昆虫食”。
コオロギ、ミルワーム、カイコ、タガメのスナックまで、バリエーション豊富だ。
樹「ちょ、え、ちょっと待て! 無理無理無理!! なんでそんな冷静に虫並べてんの!?」
朝倉「前から興味があった。……ただの好奇心。自分が食べたいだけだから、樹には強要しない」
そう言って、コオロギスナックの袋を開ける。
まったく表情を変えず、ひとつつまんで口に運び、もぐもぐと静かに咀嚼。
「……うん。アーモンドの皮に似てる。香ばしくて、少し土っぽさがある。味は濃いめ」
樹「何その冷静な食レポ!? うまいな!? でも無理だわ……見た目が無理なんだよ……!」
コメント欄
【朝倉さん余裕すぎる】【アーモンドの皮で例えるのやばい】【樹くんの魂抜けてる】【絵面がシュールすぎる】
続いて、ミルワームの素揚げを手に取る朝倉。
淡々と食べながら、またも淡々と語る。
「こっちは……ナッツ系に近い。カリカリしてて、香りはややクセがあるが、塩と合わせれば十分いける」
樹「その冷静なコメントとこの絵面の温度差に耐えられん……」
朝倉「でも、無理な人には絶対に無理だと思う。虫って見た目がそのままだしな。味云々以前に、心理的な壁が強い」
そう言って、カメラに虫スナックを見せながら、食感や味の傾向をわかりやすく解説していく朝倉。
コメント欄も、ドン引きしつつも妙に納得している。
コメント欄
【思ったより理性的なレビューで草】【グルメ番組の雰囲気なのに中身が虫】【地味に食レポが天才】
樹は椅子の背にもたれて、完全に戦意喪失状態。
袋が開けられるたびに「うわあああ……」と顔をそむけている。
樹「なぁ朝倉……それほんとに美味いのか?」
朝倉「味で言えば悪くない。ただ、“虫を食べてる”という意識が残ると、その時点で味も飛ぶかも」
樹「それな……俺は無理だ。正直、朝倉がそれ平気で食ってるの、ちょっと怖い」
朝倉はコオロギの残りを口に入れながら、樹の方を見て、少しだけ目元を緩める。
「……別に食べてほしいわけじゃない。好き嫌いは個人のものだ。俺は興味があって試してるだけ。だから無理に触れなくていい」
樹「……そういうとこ、ほんと優しいな。いや、すげーけど……うん、すげーな……」
コメント欄
【朝倉さんの冷静な優しさ好き】【朝倉が真顔で虫を食べてる図、何度見てもじわる】【樹くん、よく耐えた】
最後にタガメの姿焼きを前に、カメラの前で言う朝倉。
「見た目は一番強烈だが、実はタガメは柑橘系の香りがする。人によってはライチに似てると言う。……では、いただく」
カリ、と音がして、淡々と咀嚼する朝倉。
「……確かに、爽やかな香り。果物っぽい甘さ。想像してたよりずっと食べやすい。……見た目を除けば」
樹「……俺の知ってる配信って、こんなだったっけ?」
結局、虫は朝倉が一人で完食。
樹は終始逃げ回っていたが、コメント欄からは「樹くんのリアクションが正直でよかった」「朝倉さんの異常な安定感に救われた」など温かい声が飛んでいた。
最後に朝倉が一言、淡々と締める。
「虫を食べることが普通になる未来は、もしかしたら来るかもしれない。……ただ、心理の壁は高い。それを知るいい機会だった」
樹「その未来が来ても、俺はまだ早い気がする……」
こうして、“虫食配信”という謎ジャンルに挑んだふたり。
朝倉の異常な食レポ力と、樹のリアルな悲鳴が絶妙なバランスで、一周回って神回となったのだった。




