朝倉のRP
ある日、配信者仲間たちがTRPG配信を企画した。今回のセッションは初見の人でも楽しめるよう、ルールは簡易なもの。GMを務めるのは配信者の一人・タケシ。そして朝倉は、GM補佐として参加。NPCをすべて演じる役を引き受けていた。
朝倉はカメラ前に座りながら、やや無表情気味に口を開く。
「配信では珍しいジャンルかもしれないけど、こういうのも好きだ。今日はGMの補佐でNPCやる。よろしく」
セッションが始まると、いきなり朝倉が演じる最初のNPCが登場。
チャラい商人という設定だったが——
「よぉ、おたくら旅の人?ちょうどええタイミング。今ならこの『魔除けのお守り』、特別価格で出しとくけど?」
軽快な口調に変え、テンポよくセリフを回す朝倉。
声のトーンもさっきとは全然違い、まるで別人。聞いていた配信メンバーが一瞬で静かになる。
樹「……ちょっと待て、急に演技うまない?」
タケシGM「なんか今のだけで商人の人生感じた……」
コメント欄
【え、声変わった?】【マジで商人が出てきたみたい】【朝倉さん、まさかの本職?】
次に出てきたのは、情報をくれるマダム風の人物。
朝倉は姿勢を正して、口調もふわっと柔らかく変える。
「まあ、珍しいお客様ね……あなたたち、最近この街に来た方かしら?」
どこか艶のある、しかし重みもある声色。
キャラクターの年齢や背景が、声と表情だけで伝わるようだった。
他の配信者「マダム出てきた瞬間、空気変わった……」「え、さっきのチャラ男と同一人物なのこれ……?」
樹「ほんとに朝倉か?……というか、これどこで練習したんだよ」
朝倉は、表情こそほぼ変わらないが、トーンやリズム、息遣いの差でまるで別の人間になっていく。NPCが変わるたび、声も人格も自然と切り替わっていくのだ。
「……あー、あの学者?気難しくて嫌われてるけど、知識だけは本物だな」
「フッ、ここは通さねぇよ。通りたいなら――命を賭けてみな?」
「まあまあ、みなさん落ち着いて?争いは美しくありませんわよ」
コメント欄
【切り替え早すぎてプロ声優】【もうプレイヤーよりNPC見ちゃう】【TRPGってこんな面白かったっけ?】
タケシ「なんかごめん、俺GMだけど今日一番仕事してんの朝倉じゃん……」
終盤、物語は核心へ。
朝倉が演じる「謎めいたボス」が現れると、プレイヤー全員が黙り込む。
その声は低く冷たく、淡々としていながら、どこか哀しさを含んでいた。
「選んだのは君たちだ。……私が望んだ未来じゃない。けれど、抗う理由もない」
完全にそのキャラ“そのもの”として喋る朝倉に、セッション全体の空気が一気に緊張感に包まれる。
樹「いや……これ、もはや声の演技だけで泣けるやつ」
他の配信者「NPCでここまで空気持ってくって……ちょっと反則じゃない?」
コメント欄
【こんなの初めて見た】【声の演技だけでボス戦の空気が変わった】【朝倉さん、TRPG界の刺客か?】
セッションが終わったあと、配信者たちは一斉に口を揃える。
タケシ「いやマジで……今日の主役、朝倉だわ」
樹「普段あんまりしゃべんないのに、演技入ると急に喋るじゃん。びっくりした」
朝倉「……役に入ると自然に出る。黙ってるのは、演じてないときの癖みたいなもん」
その冷静な返しに、コメント欄が再び沸く。
コメント欄
【朝倉さんのギャップやばすぎ】【演じるとスイッチ入るんだな】【この人、もっと演技系の配信出てほしい】
こうして、“NPC全部一人で演じる男・朝倉”の名が界隈で知れ渡ることとなった。
TRPGセッションという枠を超えて、「魅せる演技」の場になったこの配信、アーカイブ入り確定だった。




