告白
フレンチレストランを出る頃には、街はすっかり夜の装いになっていた。温かな灯りが並ぶ歩道を、ふたりは肩を並べて歩いていた。
買い物袋はほとんど樹が持っていた。透は両手をポケットに入れて、空を見上げる。
「……ふふ。満月か」
「そうだな。今日の締めにちょうどいい」
樹の声に、透はふと振り返る。そこで気づいた。隣を歩く彼の顔が、どこか真剣だったことに。
足が止まる。
「どうした?」
少し黙っていた樹が、意を決したように口を開いた。
「透」
「ん?」
「……俺、お前が好きだ」
透の目が見開かれた。けれど、それは驚きというより、心の奥に染み込んでくるような、静かな感動だった。
「……いいのか?だって、俺まだ高校生だぞ?」
「いい。それまで待てるって思ってたけど、今日一緒にいて……無理だってわかった。待てなくなった」
その言葉に、透は瞳を伏せ、少しだけ唇を噛んだ。でも——
すぐに、ふわりと微笑んで頷いた。
「……俺も、樹が好きだよ」
その瞬間、今までずっと待たされてきた想いが、まるで堰を切ったように流れ出す。
樹は一歩踏み出し、透の体をぎゅっと抱きしめた。
「お前、ほんと……好きすぎる……」
「樹……」
そして、そっと腕の中の透の額に、頬に、そして——
唇に、キスを落とす。
驚きに目を丸くしながらも、透はその温もりをそっと受け止めた。
この日から、ふたりの関係は少しだけ、確かに変わった。
でも、それはとても優しく、自然で、温かい変化だった。
静かな夜道。そっと唇を離したあと、透がぽつりと呟く。
「……なんか、いつもと逆だな」
樹が不思議そうに顔を覗き込むと、透は少し照れながら笑った。
「いつもハグとかキスしてたのは、俺のほうだったろ?今日は、樹からだったからさ」
それを聞いた樹も、肩の力が抜けたように笑い出す。
「……ああ、そうだな。たまには逆もアリだろ?」
「ふふ。嬉しかったよ、樹」
ふたりはそのまま歩き出す。いつもの道なのに、少しだけ景色が違って見えた。
すると、樹がふと思い出したように尋ねた。
「なあ、透。俺たちもう……恋人になったわけだけど、今までみたいに友達にハグしたり、キスしたりするのは……どうする?」
透は歩きながら、少しだけ考えたあと、ふっと笑って答えた。
「うん。唇以外のキスは浮気に入らないだろ?今まで通り、ちゃんと許可を取ってからするし。愛情表現のひとつとして、俺にとっては大事なんだ」
「……なるほどな。お前らしいや」
「でも、これからは——樹にするハグとキスは、許可いらないんだよな?」
そう言って、透はそっと樹の腕に自分の腕を絡める。
「恋人だからな」
「……ああ。恋人だからな」
ふたりの足音が、穏やかな夜風と共に、ゆっくりと家へ向かっていった。
その距離はもう、どこまでも近くて、どこまでも温かかった。




