服屋でデート
イルカショーを楽しんだあと、水族館の出口からそのまま歩いて、ふたりは街の方へと向かった。
「昼どうするか?」と樹が訊けば、透は軽く首を傾げて、ふわりと笑う。
「デパートで食べるのもいいけど……たまには、こんなのもいいだろ?」
そう言って、駅前の屋台で売っていた焼きそばパンとフランクフルトを手に取る。ヒールの高い靴に、品のある指輪とアクセサリーをまとった透が、庶民的な食べ物をもぐもぐ頬張る姿は妙にギャップがあって、樹は吹き出しそうになった。
「お前さ、もう見た目と中身が一致しなさすぎて面白いんだよ。」
「それはよく言われる。」
そんなやり取りをしながら、ふたりは人通りの多いショッピングモールへ。服屋のウィンドウを一緒に眺め、透が急に立ち止まる。
「……これ、かわいいな。」
指差したのは、黒地の猫耳パーカー。透の雰囲気には珍しく、ポップな可愛さのあるアイテムだったが、本人は迷うことなくレジへと向かった。
「……一目惚れ、だ。」
そのあとは夏物コーナーで、透が黒のスポーツブラ風トップスにショートパンツという、明らかに露出多めなコーディネートを手に取った。
「透、それで外出んの?」
「ん? うん。涼しそうだし、楽そうだろ?」
「……だーめ。アウト。却下。目のやり場に困るやつ多発する。絶対外では着んな。」
「……? でも、お前が見てる分には問題ないよな?」
「それも問題だわ!!」
突っ込みながらも、樹は結局それもカゴに入れてしまう。買うこと自体は止められないと悟ったらしい。
さらにそのままスーツ店へ。透が樹の身体を測ってもらいながら、生地やシルエット、ボタンの素材まで丁寧に選んでいく。ラペルの形にまでこだわる透に、店員も少し感心していた。
「ほんとにお前、センスいいよな…俺に任せてたら絶対無難なネイビーとかだった。」
「……お前の美的感覚は“普通”だからな。でも、普通が悪いわけじゃない。俺はちょっと、贅沢したいだけだ。」
仕上がったスーツの仮見本を見ながら、樹がカードを差し出す。透がチラッと目をやると、さりげなく“ブラックカード”のロゴが目に入った。
「おい…本気でこれ使うのか?」
「いつも世話になってるからな。……それに、お前が俺のそばにいてくれるだけで、たぶん俺、金じゃ足りねえんだ。」
「……大げさな。」
そう言いながらも、透の表情はどこか嬉しそうだった。買い物袋を両手に持ち、さりげなく樹の腕に自分のを絡める。
「なあ、樹」
「ん?」
「今日は、ほんとに楽しいな。」
その声は、水族館で漏らした言葉と同じだった。でも少しだけ、もっとあったかくて、近かった。




