4. 男のロマンってやつだな。掴み取れ!! 一攫千金!!
ナヴィのお陰で王都を抜け出した僕は、ナヴィの飛行の能力で暫く飛んだ後、程よく見てえてきた街の前に降り立つ。
目の前には門番をしている兵が二人。
いきなり目の前に僕が現れるものだから、二人ともびっくりしていた。
「そろそろ戻るぞカケル。この姿はどうやら人を遠ざけるみたいだ」
そりゃ、屈強な隻眼のケツアゴが目の前に居たら、誰だって怖いに決まってんだろ。
ナヴィは一度僕の中に戻った。
「お、お前、そ、空から降りてきたよな?」
一人の門兵が僕に恐る恐る話しかける。
それもそうか、いきなり空から降りてきて、ケツアゴのオッサンが僕の中に入っていったのを見たら、誰だって警戒するよね。
そもそも、人間は空飛ばないし。
じゃあ、怖いのって僕じゃなくて、ナヴィのほうじゃね?
「すみません。怖がらせてしまいましたよね。さっきのは人間に擬態できる、精霊みたいなものなんです。だから気にしないでください」
「な、なんだ。君は精霊使いだったのか」
門兵はホッと胸を撫で下ろした。
精霊使いじゃないんだけどね。
一番君たちが好きそうな、勇者ってジョブなんだけどね。言わないけど。
てか、精霊使いなんていうジョブがあるのか。
おそらく、サランは聖女だから聖職者のジョブだろう。
リディアは副騎士団長の地位にあるから、騎士のジョブだとして、他にもジョブはあるのかな。
少し気になってきたな、この世界の職業っていうのが。
「そ、そうなんです。実は精霊使いで、精霊を使役できるんです。ただ──気まぐれなので毎回出てくる訳ではないのですが……」
「た、大変ですね……」
その大変ですねは、精霊がオッサンで気まぐれだからの意味での大変ですねだろう。
門兵の顔が引きつり苦笑いしているから、容易く想像はできるのだけれども。
「ところで、この街にどういう目的で来られたのですか?」
「そ、それは……」
目的……。そう問われても、別の世界から召喚された僕に、目的という目的は無いんだよな。
強いていえば、勇者の務めを果たさせようとする、聖女や副騎士団長から逃げてきたというのが本当のことなんだけど、改めて聞かれるとどう返答すればいいのか言葉に詰まってしまう。
ここはテキトーな事を言って濁すしかない。
「お、王都からの観光帰りなんです。休憩目的で街を探してたんですけど、ほら……精霊が遠くまで飛ぶものだから……」
「それは大変な長旅でしたね。心中お察しします」
オッサンと一緒に飛んできたってこと以外は全部嘘なんだけどね。
こんなにも純粋に心配してくれる門兵に、少し罪悪感を覚えるよ。
ごめんね、門兵の人。
「それでは通行証を確認してもよろしいですか」
「通行証……?」
なんだそれは。
そんなもの持ってないぞ。
ついさっき召喚されたばっかだし、この世界のシステムやらなんやらは、まだなにもわかってない。
「はい、通行証でございます。ラプラス王国が発行する身分を証明する通行証でして、それがないと街には入れません。王都でも提示しましたよね?」
「そ、そうですよね。すっかり忘れてましたー」
いやー、王城から飛んでここまで来たので、提示すらしてないし、持ってもいません。
──なんてことは言えない。
言ってしまったら変に相手を疑わせてしまう。
ナヴィ、なんとかならない?
『そんなこともあろうかと、通行証はポケットに仕込んでおいたぞ。確かめるといい』
ナヴィの声に僕はポケットを探った。
ポケットに手を入れると、確かに──そこにはカードらしきものが入っていた。
ポケットから取り出すと、僕の運転免許証が出てきた。
『ごめん、間違えたぁ。それじゃなかったね』
そういう小ボケ要らないから!
もっと怪しくなるじゃん。
誤魔化すこっちの身にもなってね!
「あぁ、これじゃないわ。あれー? どこにやったかな」
反対側のポケットも探ると、もう1枚カードが入っていた。
それを取り出すと、次はよく分からない言語で書かれたカードが出てくる。
これが通行証なのかな?
でも──見たことない言語で書かれているのに、僕はそれが読めたのだ。
そこには通行証と書かれており、名前の欄にも僕の名前が記載されている。
通行証を門兵に渡した。
「カケル・ホシゾラ様ですね。確かに通行証を確認しました。お進みください」
「ありがとうございます」
「おーい、開けてくれ」
門兵の声で門が開いていく。
それと同時にナヴィが姿を現した。
次は出会った頃のナヴィの格好だ。
その姿に門兵は驚いた表情をする。
「その子も精霊ですか? 君はいったい何体の精霊を従えてるのですか?」
「ナヴィはナヴィだ! オッサンモードもナイスバディな色気ムンムンのお姉さんモードも、全部ナヴィだ!」
「だから、その見た目は思春期の女子中学生にしかみえねえって」
寧ろ色気ムンムンモードを見てみたいよ。
いや、今やらなくていい。
「面白い精霊ですね。では、長旅ご苦労様です。この街でゆっくり羽を休めてください」
僕は街の中に入っていく。
その街の光景は、多くの露店が並び、多くの人達が行き交っている。
道路は綺麗に舗装されていて、そこに住まう人々も生き生きとした表情で過ごしていた。
街を歩いても僕に注目されることはないし、まだ僕が勇者だと世間に知れ渡ってるわけではなさそうだ。
「まだ召喚されて数時間も経ってないからね。それはそうか」
「カケルがこの世界に来てまだ1時間程度だもんね。でも、徐々に知れ渡っていくと思うぞ」
ナヴィの言う通りだ。
見た限り、この世界は中世の時代を彷彿とさせる風景や建物が並んでいて、僕が居た世界みたいに、スマホを持ち歩いて操作している人は見かけない。
だとしたら、この世界の情報収集は人から人への噂の伝達と新聞による情報発信か。
「だとしても、この街に留まるのは得作じゃないな。一日この街で休息を取って、明日出発しよう」
「それがいいと思うぞ。長居は無用だな」
でも問題はお金の問題だ。
無一文だし、この世界の通貨システムもよく分かってない。
宿を探すにしても、お金を持ってなきゃ意味が無いからね。
「お金の心配はしなくていいぞ! お金なら無限に作ることができる」
「お前、お金まで生成できるのかよ」
「カケル、ナヴィはそれだけだとつまらないと思うんだ」
「というと──?」
「金の匂いを嗅ぎつけるんだ。ほら──あそこ」
ナヴィが指さした先は、煌びやかと輝く、カジノという文言だった。
おいおいおい、まさか──
「男のロマンってやつだな。掴み取れ!! 一攫千金!!」
ただのギャンブルじゃねえか──
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