3. 空腹時の筋トレは効率がいいからな
サランに案内されてやって来た部屋は、客室にしてはかなり広さがあるへやだった。
真ん中には人が何人も乗れそうな大きなベッドがあり、1つのテーブルとそれを取り囲むかのように4つの椅子があった。
一つ変わってるというと──
「なんで窓に鉄格子──?」
「それは、獲物が脱そ──いえ、外敵から身を守るためですわ」
「今獲物って言ったよね? 脱走っていいかけたよね? 扉の外に配置してる衛兵は何ッ!?」
「もちろん、あたしとカケル様の愛の蜜月を邪魔しない為の護衛ですわよ……」
「しないから! 護衛も要らないから!!」
口ではふしだらな事を言ってるけど、恐らく──鉄格子や護衛は、勇者が召喚された時用の対策だろう。
みんながみんな、勇者として自覚し、「魔王を討伐してみせましょう」なんていうことにはならない。
少なくとも、僕みたいな──「魔王討伐の命、お断りします」っていう奴は出てくるだろうし。
「カケル様──」
するといきなり──サランが頬を赤らめながら、寄りかかってきたではないか。
え、うそ? マジだったの?
ただスケベな事を言って、緊張を和らげようとしてたのかなって思ってたんだけど?
サランは僕の胸辺りを、手のひらでくすぐるようになぞる。
「サランはぁ、いつでもぉ、カケル様にぃ、身体を捧げられますぅ」
「あなた聖女でしょ!! 純潔の誓いとか、そういうのあるでしょ!!」
「しらないわぁ。イケメンで勇者で労せずとも女が寄ってくる人を、みすみす渡すわけないじゃない?」
「まてまてまて、それでもダメだ!! 離れてくれ」
「なら──せめて愛の接吻だけでも……」
ダメだ、暴走してる。
誰か助けてくれ──って、そうだよ!
ナヴィ、僕の貞操の危機だ。助けてくれ!!
「ナヴィオッサンモード!!」
「誰ぇぇぇぇえ!!!!!!」
僕とサランの間を割って入るかのように、オッサンが目の前に現れた。
見た目の雰囲気や服装はナヴィなのに、角刈りのケツアゴで隻眼、猫耳のヘッドホンを付けている。
筋骨隆々の鍛え上げられた身体で、肌は綺麗なまでの褐色だ。
そして何より──声が激渋い。
サランはびっくりしすぎて尻もちを突いてしまう。
「やーん、いたぁい。サラン怪我しちゃぁう」
「悪かったなお嬢ちゃん。ほら捕まれ」
オッサン紳士すぎだろ。
中身オッサンだけど美少女姿だったナヴィが、ガチでオッサンになってるじゃん!!
「おいおい、あまりオッサンって言うなよ。アニキって呼びな」
歯をキランとさせるな。
どこのボディービルダーだよ。
「ナヴィ、なんでその格好で現れたんだ?」
「カケルの危機だったからのう。とにかく強い姿で出れば、サランを引かせることができるからな」
2人とも別の意味で引いてるけどね。
「ちなみに姿形は無限に変えられるが、毎回カケルの中に戻らなきゃいけないのが難点でな。今はこのままで居させてもらうとしよう」
それは別に問題はないんだけど、どうせならひと仕事してほしいな。
近々、僕はこの王城から抜け出して、魔王討伐とは関係ない暮らしをしたいと思っている。
それにはここから抜け出さなきゃいけないんだけど、どうしたらいいものか。
「ちなみに、プロテインは牛乳とバナナを混ぜて飲むぞ。筋トレで傷んだ筋肉に程よい栄養を与えてくれるからな」
「誰もお前の筋トレ話を聞きたいとは思わないよ!!」
「マッチョのおじ様が出てきたと思ったらナヴィちゃんね。あなた面白い能力ね」
「能力? ナヴィには肉体や性別の概念は無い。どんな姿で現れようとも、ナヴィはナヴィだ」
てことは、ナヴィに固有の肉体や性別は無く、ナヴィとは精神体ということになるのか。
まぁ、女神の従者をしてるんだからだいたいは検討うくだろうし、別に驚きもしない。
「でも──どんな姿のナヴィちゃんが出てきても、ここから出られることは出来ないわ」
自信満々に語るサラン。
いよいよサランが聖女ではなく魔女に見えてきたぞ。
「この部屋は頑丈な壁でできているし、どんな打撃も耐えられるわ。魔法もアンチ結界を張ってるから作動しないし、鉄格子も触ると電流がながれる仕組みになってるわ」
なんとまあ、厳重な警備態勢なこと。
本気で僕を逃がすつもりは無いみたいだね。
寧ろ──ここが拷問部屋に見えてきたよ。
「カケル様、ここは大人しく、あたしと愛の蜜月──」
「洒落臭いッ!! オッサンパンチッ!!」
ナヴィは鉄格子が付いている窓を、壁ごと吹き飛ばしてしまった。
部屋がかなり高い場所にあるのか、強い風が吹き抜ける。
「あなた、何してるのッ!!」
「何って、カケルがピンチの時に奇跡を起こす、救世主に決まってんだろうよ、聖女様」
なんか俺よりカッコイイの癪なんだけど。
でも──これで逃げ道は生まれた。
あとはどう逃げるかだ。
「安心しろカケル。ナヴィに捕まれ」
と言うと、ナヴィは僕の手を掴んだ。
「ちょ、待って。お前、ここめちゃくちゃ──うわぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
「2人とも待ちなさいッ!!」
事もあろうか、ナヴィは空を飛んでいた。
コイツ何でもありかよ。
段々、ワーワー言っているサランの声が遠くなっていく。
何はともあれ、助かった。
あのまま言うことを聞いてればサランの獲物になってた訳だし、僕はあの部屋で監禁されて、洗脳されていたかもしれない。
「ところでカケル。今回ナヴィはあまりボケてないのだが、話的に大丈夫だったであろうか」
「お前の姿が変わってること自体がギャグだから気にすんな──」
ボケ担当が気にするとこじゃないだろ。
それよりお腹空いたな。
転移してからなにも食べてなかったよな。
「おお、飯にするのか。でもその前に、筋トレをしてプロテインを飲もう。空腹時の筋トレは効率がいいからな。街に降りたら早速筋トレだ」
するかそんなもん──
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