2. 愛の授かり神話
強制的にこの異世界に転移させられたわけだけど、辞めたかったアイドルをせっかく辞められたのに、今度は勇者の務めを果たせなんて言われて、拒否するのは必然だ。
僕にもね、選択する義務はあるんだよ。
それなのに──みんな有り得ないみたいな表情しちゃって、有り得ないって思いたいのは僕のほうだよ。
「か、カケル様? 地位や名声を得られる勇者ですわよ? その勇者の務めを果たさず、何をされるおつもりですか?」
聖女であるサランも動揺を隠せなかった。
まぁ、言いたいことは分かるけど、勇者として転移させられたからといって、僕が勇者の務めを果たすとは限らない。
「生憎、僕はそういった地位とか名声とか欲してないんだ。普通に暮らせればそれでいいよ」
「何とも無欲なお方。ならせめて──サランの身体を好きにしても──」
「──せめての方向がとっ散らかってるよ!!」
この人本当に聖女ですか?
さっきから会話をスケベな方向に持っていくことしかして来ないじゃん。
ハァハァすんな。
「しかし困りました。召喚されたカケル様が勇者の務めを果たさないとなると、この王国は存亡の危機に瀕します」
「それもそうね。カケル様何とかならない? あたしの身体好きにしていいからぁ」
「勇者の務めは果たしませんし、スケベ聖女の身体も要りません!!」
すると──いきなり、リディアは怖い顔をしながら抜剣し、僕の方に詰め寄ってきた。
「召喚された者が勇者の務めを果たさないのであれば、無用の長物。ここで切り捨てましょう」
切り捨てる?
まてまてまてまて。
それはつまり──
「カケルを殺すってわけだなッ。みんなでカケルの焼肉をしよう」
「そんな物騒なこと言うな!! 殺すとか冗談じゃない!! せめて元の世界に返すとか、他の方法があるでしょ!!」
「カケル様、ごめんなさい? 勇者召喚の儀で召喚された者は、元の世界に戻すことは出来ないの」
そういえば、女神アエナスも同じようなこと言ってたような。
だとしたら、僕はこの場で殺されるってこと?
嫌だよ、生きたいよ、普通の生活したいよ!!
「待ってくれ。勇者なんてやりたくないけど、ここで死にたくもない!! 命だけは!!」
我ながらに無様な瞬間だ。
誰かに命乞いをしたことなんて人生で一度も無いし、深く頭を下げたことも無い。
僕は気付かされた。
アイドルなんていう肩書きを捨てたら、僕もただの人であると。
「他に選択肢はないわ。あなたは勇者として務めを果たすか、ここで無様に私に斬られるかよ」
異世界に召喚されて最大のピンチ。
そして──究極の二択。
勇者として魔族と戦うか、リディアに殺されるか。
どっちも嫌だけど、やっぱり勇者として魔族と戦うことは嫌だ。でも──ここで死ぬことももっと嫌だ。
どうしたらいい。
何か方法は──
「──待て。そんなに追い詰めるでない」
僕は後ろを振り向くと、そこには煌びやかな服装と豪華絢爛の装飾に身を包んだ人物が立っていた。
「ラプラス陛下──」
「ラプラス陛下……?」
「この国の国王様だ。一番偉い人で一番金を持ってる」
ナヴィの説明は遠からず近からずの説明だけど、服装から見て、この国で一番偉い人だってのは分かった。
「話は聞かせてもらったよ。召喚者であるカケル殿、この世界に来てさぞ混乱しているのであろう」
「しかしながら陛下、彼は勇者のジョブを得ながら、魔族と戦うことを拒否して──」
国王はスっと右手を出し、リディアの言葉を遮った。
「君がカケル殿の立場であったのなら、いきなり勇者として務めを果たせと言われても、首を縦に振るか?」
「そ、それは……」
「ならこの話は簡単だ。カケル殿には暫く、この国のことについて知ってもらいながらゆっくりしてもらうがいい」
「しかし、陛下──」
「なぁに、今日明日と魔族が侵攻してくることはないんだ。もしかしたら、カケル殿が心変わりしてくれるやもしれんぞ?」
「か、かしこまりました……」
リディアは国王の言葉に納得すると剣を納める。
国王様、本当にありがとう。
命を奪われるなんて洒落にならないですよね。
ゆっくりとこの国を知っていきたいと思います。
後に話してた言葉は忘れました!
「そういうことだ。カケル殿、ゆっくりとするがよい。ワシはこれにて──」
国王は広間を後にした。
嵐が過ぎ去ったかのように辺りは静まり返る。
その静寂を切り裂いたのはサランだった。
「それじゃ、カケル様には、この王城を案内するわ。場所が分からないと不便でしょうがないでしょ?」
「ありがとうサラン。恩に着るよ」
「それに、あたしはいつでも夜這いは大歓迎よ。あなたの子種をここに──」
「はい! ストップ!! 王城は自分で回りまーす!!」
「なによ! これでもあたしは本気よ!!」
聖女なのに本気で言ってるのが怖いよ。
隙あらばスケベなこと言って、この人の脳内は真っピンクすぎるわ。
よく聖女になれたな。
まぁ、とにもかくにも、国王のお陰で命は助かったし、元の世界に戻れないのなら、今後のことを考える為にもゆっくりするのは悪くない選択だな。
「カケル・ホシゾラ」
リディアが怪訝な目をしながら僕の元に寄ってくる。
さっきまで僕を殺そうとしたんだ。
少し構えてしまう。
「私は諦めない。あなたが勇者として魔族と戦うと言う日まで。何度も切っ先を首に当ててやる」
「お、おう……」
彼女はぷいっと顔を反らし、広間を後にした。
こ、怖かったぁ……。
「そろそろ行きますわよ、カケル様。あたしとカケル様の愛の授かり神話をする為にッ」
「しねぇよッ!!」
『ちなみにカケル、国王様の趣味は、侍女に○○○で○○○を○○○させて○○○に──』
やめろやめろやめろ!
お前、それ絶対に口に出すなよ?
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