1. 勇者でも労災はおりますか?
世間から絶大な人気を誇る国民的アイドルの僕、星空翔は、女神の導きにより聖職者たちが行った召喚の儀によって、異世界に転移されることとなった。
アニメやゲームじゃあるまいし、そんな事有り得ないよって思ってたけど、どうやら本当みたい。
だって──
「聖女様、勇者召喚の儀が完了しました」
僕は今、召喚の儀によって異世界に居るのだから。
「いきなりお前かぁって失礼ね、イケメンくんッ」
「いや、女神から聞いたけど、条件が条件だし、第一声がちょータイプって、お前かぁってなるでしょ」
大きなメロンをぶら下げ、シスターの格好をしているこの人は聖女らしく、名前をサランというらしい。
金髪で綺麗な碧色の瞳、大きなメロンに似合わず身体は凄く華奢だ。
「だってー、勇者ってぇ、広告塔みたいなものでしょぉ? イケメンじゃなかったら宣伝にならないじゃない」
「僕はマーケティングの広告か」
「そんなこと言わないでぇ。勇者ってだけで特別なんだからぁ」
さっきからこの人、僕の世界の言葉の意味を理解している。
もしかして──と勘ぐってしまうが、深読みはよそう。
もしかしたらこっちの世界でも普通に使ってるかもしれないし。
ただ──頂けないのは、僕が【勇者】であることだ。
まだ断定したわけではないが、そこが妙にひっかかる。
嫌な予感ってのは拭えないけど。
「ならぁ、ステータスオープンって言ったら、自分のステータスを確認できるわよぉ?」
僕はサランの言う通り、ステータスオープンと唱えた。
すると、目の前に僕のステータスが現れる。
「星空翔、21歳、茶髪のセミロング、高身長イケメンで元国民的アイドルの勇者」
なんかプロフィール帳みたいな書き方されてるけど、下の方にはスキルの欄があったが、そこはまだ???になっていた。
確かにこのステータスには勇者と書かれている。
でもこのステータス、他人にはおいそれと見せられないな。
勇者っていう職業だけで、他人に命を奪われかねない。
「確かにここには勇者って書いてあるけど、僕は本当に勇者なのか? 何かの間違いじゃ……」
「間違いではないわ。あなた様は列記とした勇者、勇者召喚の儀によって召喚された異世界人」
サランとは別の女性が会話に入ってきた。
サラッと艶のある銀髪に紅い目、そして尖った耳。目鼻立ちはくっきりしてて華奢な身体。そしていかにも頑丈そうな鎧に身をまとっている。
もしかして──エルフッ!!
「あらリディアちゃん。アタシが要望したイケメンくんを拝みに来たの? 悪いけどイケメンくんのスケベ奴隷になるのはアタシよ?」
「なんですかそれは。聖女が奴隷になるとか言わないでください。王国の沽券に関わります」
いやそこじゃないから。
サランって人が普通の聖女じゃないってことはわかったけど、もしかしてリディアって人は真面目な人なの?
「イケメンくんに紹介がまだだったわね。この子はリディア・フォルマールちゃん。この王国の副騎士団長よ」
「リディア・フォルマールです。副騎士団長を務めてます。種族はエルフ、歳は357歳です」
おぉ、やっぱりエルフだったか。
初めて生で見るエルフはやっぱ綺麗な人なんだな。
元の世界でもエルフは長命って設定だったけど、こっちの世界でも長命なんだ。
「改めて、アタシはこの国の聖女のサラン・オルテクスよ。いきなりお前呼びは興奮したわぁ」
この人はドM確定で。
自己紹介で身体を押さえながらハァハァしないでください。
世の中レーティングってものがあります。
あなたは一発アウト! 退場です!
とりあえず、僕も自己紹介しておくか。
やばい……自己紹介ってなると勝手にアイドルスイッチ入っちゃうかも……。
「こんにちは。僕の名前は星空翔。みんなの笑顔は、僕が頑張れる原動力だよッ。よろしくねッ」
………………………………………。
やっちゃったよ、やってしまったよ。
僕がアイドルだったってことは、この世界の人は別に関係ないのに、職業病で勝手にスイッチ入ってやっちゃったよ。
こんな僕を殴りたい。いや、いっそのこと滅ぼしたい。
「素晴らしい挨拶でした。参考にさせて頂きます」
リディアさんの冷たい眼差しが逆に心に沁みますッ。
愛想笑いで流してくれた方が、まだ傷は浅いです!
するといきなり──パッとナヴィが現れる。
僕も含め、周りの皆が驚いた。
ナヴィって自由に現れることができるのか。
「なぁに? この小動物みたいな可愛い子ちゃん」
「確かに可愛いですね」
「失礼なッ!! ナヴィはないすばでーでぐらまらすな色気ムンムンのおねえさんだ!」
「いや、どうみても中学生くらいの子供だろ」
この見た目で芋焼酎ロックを煽りながらねり梅をちびちび嗜む、中身オッサンなんだよな。
見た目詐欺だよね、本当に。
「わたしの名前はナヴィ。カケルのナビゲーターで、女神様の従者だ」
「へぇ、女神様の従者だったとはね。よろしくね、ナヴィちゃん」
「よろしくだ! ちなみに好きなことは、日曜日の昼間から発泡酒煽って昼寝するのが好きだッ」
「だからそれはオッサンの日常ッ!!」
なんでこんな可愛い見た目しておいて、やることオッサンなんだよ……。
ここに居る女性でまともなのはリディアだけなのか?
「自己紹介で決めポーズしながら営業スマイルを振りまくカケルも中々だぞ」
「分かってますよ、だから言うのやめてください──ってか、人の思考を勝手に読むなッ」
「ナヴィはカケルのナビゲーターだからな、心の声はナヴィに筒抜けだ」
うわー、最悪だ。
厄介な女の子(中身オッサン)とリンクしちゃったよ。
どうせこれも心の声で聞こえてるんでしょ?
ナヴィは堂々と僕に向けてサムズアップする。
いや、そこは怒れよ。
「カケル様がアタシに対してどう思ったか気になるわ。ナヴィちゃん、教えてくれない?」
「いいよッ!!」
「おい、心の声はプライバシーだ。勝手に言うな。それと声をしゃがれさせて言うな。色々面倒くさくなる!」
ここまでプライバシーが筒抜けになると、油断も隙もあったもんじゃない。
誰か、ナヴィに僕の心の声を読ませないようにして!
「サラン様がどう思われるのは置いといて、勇者である
カケル様に、勇者として召喚された経緯をお話した方がよろしくては?」
さすがリディア副騎士団長。
話の軌道修正をするのが上手い。
「えー、気になるけどまぁいいわ。カケル様、あなた様が召喚された経緯ですが、このラプラス王国では、魔族軍の侵攻に脅かされています」
この国の名前はラプラスっていうのか。
ただ──魔族の侵攻に脅かされているのが現状なのか。
僕がひっそりと普通に生活するのは厳しそうだな。
「現状に憂た王国は、この現状から打破すべく、アタシ主導のもと、勇者召喚の儀を執り行うことに決めました」
それが、マッチングアプリみたいな条件で僕が召喚されたってことね。
だとしたら、最初ストーカーに襲われたのマジで関係ないじゃん。
『だから言ったよ、ナヴィじゃないって。でも、人は愛しすぎると執着と憎しみに変わるからね』
お、たまにはいいこと言うじゃん。
てか、心の声で会話できるのかよ。
『サランの話を遮っちゃ悪いからね。ところで大きいメロンって──』
──黙れ。もう十分遮ってる。
「ですので、勇者であるカケル様に、聖女であるアタシから、使命を与えます」
もしかして、話から察するに勇者である僕は、つまり……?
「カケル・ホシゾラ様、あなた様に魔王討伐を任命します」
「魔王討伐の命、お断りしますッ」
「──────────はッ?」
普通に嫌でしょ。
怪我するかもしれないし、最悪死ぬかもしれないし。
てかさ、勇者も労災おりますか?
『ろうさい? ザーサイみたいなものか? ザーサイ炒飯おいしいよな』
渋めのチョイス。
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