プロローグ②
「あのー、ここは一体……」
「だから言っておるだろう、ここは私の部屋だ」
うん、分かった。
そういう設定のドッキリですね。
どういう設定かって?
エレベーター開いたら別次元の空間になっていて、見知らぬ女性が玉座に座っていて、知らない場所に飛ばされそうになるっていうドッキリ。
昔、ドッキリ系のバラエティ番組で、ホテルの一室で寝てて、起きたら神父の格好した外国人タレントの人が立っていて、カタコトで──
『アナタハシニマシタ、ココハシゴノセカイデス』
って言われたことあるよね。
慌ててホテルの廊下にでるんだけど、歩いてる人が僕に一切見向きもせず通り過ぎたんだけど、もうそういうドッキリは正直いらないです。
とりあえず、いつでもカメラが入ってきていいように、国民的アイドル・星空翔のスイッチは入れておこう。
「さて──早速本題に入るが、翔よ、お前はなにが望みだ」
そりゃあ、こちとら国民的アイドルですからねぇ。
カメラがあるって思ったら答えはひとつですよ
「僕の望みは、応援してくれてるみんなが笑顔ですごせますようにって望むかな」
「………………ハァ……そういうのいいから」
────あれ?
普通こういう時は、「アイドルとしては100点だな」って言う場面だよ?
しかも女の人呆れた顔でため息ついたよね?
このドッキリって僕のアイドルとしてのアイデンティティを破壊する方向性?
それなら早く言ってよね! 素の僕を出してアイドルとは真逆の方向に舵を切ってやる。
そしたら大炎上。
アイドル人生とはおさらばだぁ!!
「翔よ、もう一度聞く。そなたの望みはなんだ」
な、なにこれ。
ドッキリにしては妙に作り込まれてるし、女の人も迫真過ぎて、演技なのか本当なのか分からない。
「だから、僕の望みは──」
「違う、そなたの望みは」
「みんなの──」
「違う、そなたの望みは」
「だから、みんなの──」
「違う、望みは」
「みんなの──」
「望みは」
もぉーめんどくさいな。
もうアイドルとか関係ない。
僕の本当の望みを言いますよ。
テレビ関係者の方々、お蔵入りになるのを覚悟しておいてくださいね。
マジで知らないからね。
「僕の望みは、アイドルなんか辞めて、ひっそりと普通に暮らすことだよ。それが本心だ」
女の人はニヤリと笑う。
立ち上がり僕に迫ってきたではないか。
不気味なオーラを纏っていて、思わず後退りしてしまった。
「よく言ってくれた、星空翔。お前の望みを叶えてやろう」
「────ん? どういうこと?」
そろそろじゃない? そろそろだよね?
どこからかドアが開いて、パネルを持った芸人さんが、「ドッキリ大成功」とか言って出てくるパターンでしょ?
ドッキリにしては迫真さが妙にリアルだったけど、どうせお蔵入り覚悟で本音を言わせてもらったから、悔いはありません!!
「おぬしを今から、国民的アイドルとは無縁の世界に送ってやる」
「無縁の世界────」
「そうだ。説明は別の者にしてもらう。入ってこい──」
あー、ここでネタばらしね。
ようやく終わりますね、ドッキリ。
今思えば、ストーカーの演技といい、玉座に座った女性の演技といい、何よりエレベーター降りた先の真っ白な空間といい、ドッキリするには作り込みすぎだって。
芸人さんが落とし穴に落とされるドッキリの方が数倍マシに思えてくるよ。
だってストーカーの人包丁らしきもの持ってたからね。
だが、一向にドアが開く音がしない。
すると──後ろから誰かの気配を感じた。
後ろを振り返ると──
「かーけーるーくーん」
そこには、さっきのストーカー女が立っているではないか。
僕は無意識のあまり、恐怖で後退りしてしまった。
「やめなさい、ナヴィ」
「はーい、それでは戻りますよーだ」
ストーカー女の口調は先程と打って変わってかなり明るくなった。
パーッと光りだし、姿形が変わってしまう。
先程までここに立ってたストーカー女の面影はなく、紫とピンクをベースとしたサイバーパンク調の服装に、猫耳を象り紫のヘッドホンを装着した、可愛らしい女の子が現れた。
「改めまして、わたしはナヴィ。あなたの専属ナビゲーターよ」
あれぇー?
これって、番組のドッキリじゃないのぉー?
結構尺使いましたよねぇ?
そろそろネタばらしだと思うんですけど、誰もネタばらしに来ないってことはー?
「これ番組のドッキリじゃないのッ!?」
「番組のドッキリ? なにそれ、美味しいの? あ、でもナヴィはドーナツ好きだよ」
「ドーナツ甘くておいしいよねぇ。じゃなくてッ!!」
「何を言うかと思えば、これはおぬしの世界のドッキリバラエティではない。おぬしの前に立っている私こそ、女神アエナスである」
「わぁ、本物の女神様だぁ……ってなるかぁッ!!」
状況を整理すると、これは番組のドッキリではなくて、本当に異次元の世界に飛ばされたとする。
目の前には女神アエナスが居て、横にはどこからともなく現れた、ナヴィという女の子。そして、何も無い白い空間。
アニメとかゲームの世界ならこういう展開は擦りに擦られた結果のお約束テンプレ展開だ。
結論──
「これ、マジなの──?」
「おぬし、さっきから情緒が忙しいの。少しは落ち着かんか」
「落ち着いてますよ。びっくりするぐらい。でもね、なんで僕なの!? 80億人近く居る人類の中で、なんで僕なんですか!? もっと適任の人がいますよねぇ!? そこんとこハッキリ説明してください??」
「全く──うるさい人間だな。よかろう説明してやる」
アエナスは姿勢を正し、おもむろに語り始めた。
いや、あなたが説明するんですね。
横のナヴィちゃんはウキウキしながら正座して耳を立ててる。犬かよ。
「星空翔、おぬしが私の世界に選ばれたのは他でもない。聖職者によって執り行われた召喚の儀によって、おぬしが選ばれたからじゃ」
うわー、だる。
それってアニメの冒頭の展開でよくある、勇者召喚の儀とかなんとかじゃん。
それに僕が選ばれたってわけ? でもなんで?
「だとしても他に選ばれる素質のある人がいたはずですよね? どうして僕なんですか」
「それは──聖職者の要望で、人望があり素直で優しくて、お金持ちで、イケメンで、アイドル級にルックスが良い、彼氏にしたい芸能人ランキング1位の男がいいって条件だったのだ」
「聖職者がマッチングアプリやってんじゃねえよッ!!」
しかも高望みが過ぎるし、マッチングアプリでも検索ヒットしないでしょ。
「マッチングアプリ? アップルパイかなにかか?」
「犬みたいにハアハアしながら食べ物を連想するのはやめなさい! あと食べ物じゃない! 18歳未満はご利用禁止です!」
とりあえず──今いる空間が別次元で、番組のドッキリではないことは理解できた。
だとしたら、僕はこれから異世界に転移させられるってことか。
聖職者によって召喚させられるってことは、何かの使命を背負わされるってことだけど、条件を聞く限り、私用で召喚の儀をしたのは濃厚だ。
魔王を倒せとか、まず言われないでしょ。
「そろそろ時間だな。何かあったらナヴィに話しかけるといい。こう見えて優秀だ」
「突拍子もないボケのセンスは優秀ってことは分かりました」
「ナヴィは、芋焼酎ロックを煽りながらねり梅をちびちび食べるのが好きだよ」
「オヤジの酒の嗜み方ッ!!」
カルーアミルクだけで酔っちゃうとか、そういうかわいいエピソードのほうがいいって。
渋すぎて想像するのが怖いわ。
「それとおぬしには、ひとつ職を授けた。普通に暮らしたいっていう分には困らぬ職業だが、まぁ後で確認してみろ」
「わかった。元の世界に帰れる可能性は?」
「それは無い。一方通行だ」
そっか……。
それなら最後に、恭介さんにお別れの挨拶したかったな。
恭介さん、僕が居なくなって悲しくなるかな。
僕は悲しいな。なんだかんだ面倒見がよくて、ダメなところは叱ってくれる、お兄ちゃんみたいな存在だったから。
異世界に行っても元気でやってるね。バイバイ。
やがて視界がモヤがかかったように白んでいく。
「最後に言いたいことはあるか? カケル」
「さっき僕を追いかけて来たストーカーって、ナヴィちゃんだよね? 凄い演技だったよ」
だが、二人の反応はイマイチだった。
寧ろ、頭に?マークを浮かべている。
「なんのことだ?」
「あれナヴィじゃないよ。カケルのファンの子。大変な女に追いかけられてたね」
「────マジかよ……」
視界がプツリと、真っ白になった──
目を覚ますと、たくさんの人達が円を囲むように僕を見ていた。
もしかして──召喚の儀が終わって、僕が召喚されたのか?
「召喚の儀は成功です、サラン聖女様勇者が顕現しました」
今勇者って言った?
なにかの聞き間違いだよね。
僕は立ち上がると、ひとりの女性が駆け寄ってきた。
こぼれ落ちそうな大きな大きなメロンを揺らして。
「やだぁ〜、超イケメンッ!! やっぱりぃ、魔王討伐にはぁ、誰もが羨むイケメンじゃないとぉ、見栄えが悪いものねぇ。ちょーサランの好みッ」
「………………お前かぁぁぁぁあ!!!!!!」
国民的アイドルだって普通の暮らしがしたい 〜異世界転移したら勇者のジョブだったので、魔王討伐を拒否して田舎でスローライフ始めました〜
開幕!!
最後までお読み頂きありがとうございます。
【面白かった】【続きが読みたい】と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
今後のモチベーションにもなりますので、正直な感想のほど、よろしくお願いいたします!
ブックマーク登録とX(旧Twitter)のフォローも併せてよろしくお願いします!




