↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日も、ダンジョンへ。  作者: 為書結依
第四章 札がなくても

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/128

第90話 待っている人


 細い道を抜けるまで、誰も気を緩めなかった。


 来る時に跨いだ浅い溝を越え、草の背が低くなってきたところで、ようやく前方に街道が見えた。


「もう少しです」


 ヴェラが言う。


「うん」


 ノアの返事も、行きより少し軽い。蓋を閉じた籠は、ずっと右手に持ったままだった。


 街道へ出ると、人の声が戻った。荷車の車輪が石を踏み、遠くで馬が鳴いている。


 さっきまで木々に囲まれていたせいか、それだけで王都へ近づいた気がした。


「一度休みますか?」


 エルザが聞いた。


 ノアは空を見る。


「大丈夫。まだ歩ける」


「ヴェラさんは?」


「問題ありません」


「俺も大丈夫です」


「では、このまま戻りましょう」


 ヴェラが再び前を向く。


 帰りもヴェラを先頭に、その後ろへノア、俺、エルザと続く。リンはエルザの肩口へ戻っていた。


 しばらく歩いてから、ノアが籠を持ち替えた。


「持ちましょうか?」


 俺が聞く。


「いいよ、大丈夫」


 返事は早かった。


「私が採ったものだから」


「そういうものですか」


「そういうものなの」


 前からヴェラの声がした。


「疲れた場合は申告してください」


「うん」


「その時はノワール様が持ってくれます」


 ヴェラも随分と俺の扱いが上手くなった。


「分かった」


 ノアが少しだけ笑った。


「ちゃんとしてるね」


「護衛ですので」


◆


 東門が見えてきた。朝は外へ向かう人が多かったが、今は王都へ戻る荷車の方が目につく。


 門前の列へ並び、俺たちの番になると衛兵がノアの籠へ目を向けた。


「採取帰りか」


「うん」


 ノアが蓋を少しだけ開く。中を確認され、それで終わった。


 門を抜ける。


「戻りましたね」


 伸びをすると、自然と安堵の言葉が漏れた。


「まだです」


 ヴェラがすぐに返した。


「分かってます」


 ギルドへ報告するまでが仕事だ。


 最近、俺も少しは学んでいる。


「今、終わったと思ったでしょ」


 ノアが横から言った。


「思ってません」


 首を振る。


「そう」


 たぶん信じていない。


 エルザは何も言わなかった。代わりに、口元が少しだけ緩んでいた。


◆


 冒険者ギルドへ入る。夕方前にはまだ早く、掲示板の前には何人かいるが、受付はそれほど混んでいなかった。


 ミラがこちらへ気づく。


「お帰りなさい」


「戻りました」


 俺たちは窓口へ並び、ノアも横に立つ。


「薬草は必要量を確保できました」


 エルザが報告を始める。


「最初の採取場所では不足していたため、ノアさんの判断で二つ目の場所へ移動しました」


「道中の問題は?」


「二つ目の採取場所で、大型の獣を一頭確認しました」


 ミラのペンが止まる。


「接触しましたか?」


「いいえ。こちらへ近づいてこなかったため待機し、離れたことを確認してから少し時間を置いて採取を再開しています」


「戦闘なしですね」


「はい」


「怪我は?」


「ありません」


 俺たちも順番に頷く。


 ミラはノアを見る。


「依頼内容は達成でよろしいですか?」


「うん」


 ノアが籠を持ち上げた。


「これで足りる」


「分かりました」


 依頼書へ完了の印が押された。


 最後に、昨日フィロスが書き直した金額の報酬が卓へ置かれる。


 エルザが受け取り、中を確認した。


「また近づきましたね」


 ヴェラも共同資金の袋を見る。


「はい」


 何に、とは言わなくても分かる。


 右脚のために相談している脚具だ。


 代金だけなら払える。ただ、次の仕事に必要な資金を残すには、まだ心もとない。それでも、前よりは近い。


 ノアがこちらを見る。


「何か買うの?」


「ヴェラさんの脚具です」


 俺が答える。


「動く時の補助に使うものを相談しています」


 ヴェラが付け加えた。


「そうなんだ」


 ノアはヴェラの右脚を見たが、それ以上は聞かなかった。


「じゃあ、フィロス君からの依頼が役に立ったんだ」


「そうなりますね」


 エルザが答える。


 俺も頷いた。


「フィロスさんには感謝します」


 ヴェラが小さく笑った。


◆


 手続きを終え、ギルドの外へ出る。


 ここからノアとは別だ。


「今日はありがとうございました」


 ノアが俺たちを見る。


「こちらこそ」


「仕事ですので」


 ヴェラの答えに、ノアがまた少し笑った。


「分かってる」


 籠を持ち直す。


「早く帰らないと」


「家で待っている子ですか?」


 俺が聞く。


「うん」


 少し間があった。


「妹」


「妹さんなんですね」


「うん」


「残りは、まだあるんですか?」


「うん。でも、切らしたくないから」


 ノアが籠へ目を落とす。


「残りが少なかったし、今日採れて良かった」


「それなら良かったです」


 エルザが答える。


 ノアが三人を見る。


「一人で行かなくて良かった」


 行きの街道で、フィロスから一人で行く場所ではないと怒られたと言っていた。


 実際に獣が出た以上、一人で来るなと言ったフィロスの判断は正しかったと思う。


「そうですね」


 俺が答える。


「次も一人では行かないでくださいね」


 ヴェラが言う。


「……たぶん」


「そこは『はい』でお願いします」


「はい」


 今度はすぐに返事が来た。


 ノアが笑う。


「またフィロスさんから依頼が来たら、喜んで受けさせてもらいます」


「わかった。その時はフィロス君にお願いしてみるね」


 エルザが少しだけ笑った。


 たぶん、次も安く受ける気はない。


 ノアは報酬の話には触れず、そのまま頷いた。


「じゃあ、帰るね」


「お気をつけて」


「またね」


 籠を持ったノアが通りを歩いていく。しばらくすると、人の流れに混じって見えなくなった。


 家には、ノアを待っている妹がいる。


 どんな子なのかは、まだ知らない。


「帰りますか?」


 エルザが言う。


「そうですね」


 ヴェラも頷く。


 依頼は終わった。


 俺たちも、鈍色亭へ戻ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。