↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/95

第55話 卒業式

 三月一日、卒業式当日。


 朝から雲ひとつない晴天だった。悠真は制服に袖を通しながら、この三年間のことを思い返していた。紗奈と同じクラスになった日、玲奈が転校してきた日、文化祭、河川敷、深夜の電話──いろんな場面が、順序もなく浮かんでは消えていった。


 体育館での式は、思っていたよりもあっさりと進んだ。校長の話も、在校生代表の送辞も、耳には入っていたはずなのに、あまり記憶に残らなかった。ただ、卒業証書を受け取るために名前を呼ばれた瞬間だけは、はっきりと覚えていた。


「朝比奈悠真」


 返事をして立ち上がったとき、視界の端に紗奈の姿が見えた気がした。気のせいかもしれなかったが、悠真は少しだけ背筋を伸ばした。



 式が終わり、教室に戻ってからのホームルームは、いつもより静かだった。担任が最後の言葉を述べる間、何人かの女子はもう泣いていた。


「三年間、いろいろあったと思うけど──お前らは、お前らのペースで、ちゃんとここまで来た。それでいいんだ」


 担任の言葉は短かったが、悠真にはその「ちゃんとここまで来た」という一言が、やけに響いた。


 教室を出る前、悠真は自分の机に少しの間だけ手を置いた。ここに座って、紗奈の後ろ姿を眺めていた時間、恒一と馬鹿な話をしていた時間、玲奈と写真の話をしていた時間。全部がこの一つの机に積み重なっている気がした。



 校庭では、あちこちで写真を撮る生徒たちの姿があった。悠真も当然のようにカメラを構えていたが、今日ばかりは自分がレンズの前に立つことの方が多かった。


「悠真、こっち向いて」


 玲奈がスマホを構えて言う。恒一が茶化しながら悠真の肩に腕を回し、紗奈は少し離れた場所で控えめに笑っていた。


「紗奈も入れよ」


 恒一が呼ぶと、紗奈は少し戸惑いながらも、悠真の隣に来た。四人で撮った写真は、後で見返すと誰の表情も少しぎこちなかったが、それがかえって本物らしかった。


 校門の前、桜の木はまだつぼみのままだったが、来年の春には満開になるはずだった。


「これで、もう制服着るのも最後か」


 恒一がしみじみと言うと、玲奈が「湿っぽいの禁止」と笑って肩を叩いた。


 紗奈は校舎を振り返って、しばらく黙って見つめていた。


「──ありがとう、ここで」


 誰に向けた言葉なのか、はっきりとは分からなかった。学校に対してなのか、この三年間に対してなのか、それとも隣にいた人たちに対してなのか。悠真はただ、その言葉を静かに受け止めた。


 四人はしばらく校門の前で立ち話をしてから、それぞれの帰り道に散っていった。



 夕方、悠真は一人で河川敷を訪れた。特に約束していたわけではなかったが、なんとなく足が向いていた。


 土手に座り、夕焼けに染まる川を眺めていると、スマホが鳴った。紗奈からだった。


《今どこ?》


《河川敷》


《やっぱり》


 数分後、紗奈が土手を上ってくるのが見えた。まだ制服姿のままだった。


「なんとなく来る気がした」


「俺もなんとなく来た」


 二人は並んで座り、しばらく何も言わずに夕日を見ていた。一年前の同じ場所で、紗奈が涙を流していたことを、悠真は思い出していた。あの時とは、確かに何かが違っていた。


「高校生活、終わったね」


 紗奈が言った。


「うん。……いろいろあった」


「いろいろあったね、本当に」


 紗奈は膝を抱えて、少し笑った。


「でも、終わってよかったと思ってる。今は」


 その言葉に、悠真は静かに頷いた。今はまだ、二人の関係に確かな名前はついていないのかもしれない。でも、それでいいのだと、悠真は思えるようになっていた。


 夕日が完全に沈むまで、二人はその場所に座り続けた。


 三月の風は、まだ冷たかったが、どこかもう春の匂いがし始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。