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人間未満、あるいは未完成  作者: レム睡眠
3章 御厨久遠編
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真作とは、究極の贋作

一方その頃。


「どうした、食べなよ」


ドッペルゲンガーは手を裏返し、目の前に広がる料理を食えという。いやまさか、本当にファミレスに行くとは思わなんだ。


料理に毒物が混じってるとは思えんし、仕掛けてくる様子もない………か。

好意は甘んじで受けろと言うが、それは人間であればの話であって、怪異であれば別の話になって……、思考がゴチャゴチャしやがる!


僕は巡らせた考えを放棄して、目の前のハンバーグの端にフォークを突き立てる。


「おぉ、ワイルドだね」


そのままでは入りはしないため、大人しく右手にあるナイフで切り離してから口に運ぶ。


うん、美味い。


ファミレスだけに平凡な味をしているが、家庭的でない僕からすれば満足できる味だ。


「うーん、美味い。いやぁ、このファミレス好きなんだよね」


告知したことはある程度守るが、ちゃんとこちらを振り回してくる。自分が満足していれば他人の意見を聞くけど、そうでなければ無視してでも考えを貫く。根本的な理由、つまりは自分探しとやらがあるけど、それは僕を振り回す理由になるのか?


くっそ、怪異のくせに行動原理が理解できない。御厨先輩だからなのか?あの人は怪異特性にまで侵食するほどの個性なのか?


これじゃあまるで、御厨先輩本人を相手にしているみたいだ。


「なんだよ、ジロジロ見て。私の顔に何かついてるのかい?」

「あぁ、ハンバーグの屑とかソースが付いている」

「拭いてよ」

「自分で拭け!」


自分探し………か。

僕はあまり自分という生物に興味はないけれど、そんなものを解明してどうだと言うんだろうか。

人生………、いや怪異生に意味を見出そうとしているんだろうか。人間ではないからなんとも言えないが、そんなものは自分が死んでから付いてくるもので、生きている間は実感できないものだ。


だってそうだろ?生物ってのはどこまでも主観的で、客観的に見ることはできないんだから。というか、そんなものを求めるのは、決まって自分に自信がない奴だ。


チッ、どこまで考えても、こいつは既存の怪異に当てはまらないし、論理的じゃない。

まるで人間だ。


「よく見てくれるじゃないか。さっきまで他の人に目移りしていたのに、二人きりを楽しんでいるのかい?」


「あぁ、色んな意味でな」


「肯定……するか。うんうん、ちゃんと私のルールに則して、好感度を稼ぎに行ってるわけだ」


都合のいい解釈をしてくれるな。

いや、都合のいい言動をさせられているのか。

気に食わねぇな。


「ドッペルゲンガー、お前はーーー」

「嫌だな、今の私は『御厨久遠』だよ。さっきみたいに、御厨先輩と呼んでおくれよ」


…………そうか。

そういうところは怪異なのか。


「やめろ、僕にとって御厨久遠は一人しかいない。ドッペルゲンガーのお前じゃない」

「何を言ってるんだい?"今の私"は御厨久遠だよ。御厨久遠の声をして、御厨久遠の容姿をしていて、御厨久遠の性格をしていて、御厨久遠の友人といる。これのどこが、本人でないと言い切れるんだい?」


「それは、僕がそう思わないから」

「そうか。でも、それは君だけだ。客観的に見れば、私は紛れもなく御厨久遠だよ。現に、私がこの容姿をし続けられているのが、世界に認められている証拠だよ」


ドッペルゲンガーは嘲笑うようにしたり顔を浮かべながら、足を組み替える。


「私、ドッペルゲンガーの怪異特性は、謂わば諸刃の剣でもある。文字通りにね。その存在が世界に認められなければ、私は塵となって消える。勝者と敗者が存在するように、真贋ってのは表裏一体だ。本物が偽物の可能性がある以上、贋作も本物になりうるってわけだ」

「それを決めているのが世界ってか」

「そうだろ?世界ってのは、唯一自分を客観視してくれる装置なんだから。君もそうだし、大衆もそうだし、写真も、ビデオも、何もかも全部」


自信満々に指差すドッペルゲンガーに思わず、

「はぁー」

大きなため息を吐いた。


「余程自分に自信がないんだな。可哀想を通り越して、少し哀れだぜ」

「お、反論かい?いいね、聞こうじゃないか」


「変人を模っているくせに、奇人を気取っているくせに、今更人の目が気になりますなんて言い訳にもなってないが、それを受け入れようじゃないか。だって、そうじゃないとお前は生きていけないんだろ?」


再びハンバーグを口に運び、勢いよくフォークを抜き取る。


「受け入れて、踏まえて、主観的な意見を言ってやるよ」


先ほどやられたように、ドッペルゲンガーにビシッと指を指す。


「他人の意見に惑わされる生き方なんて、芯がないと言ってるようなもんだ」

「……………」


僕の反論に対して、ドッペルゲンガーは黙する。もちろん、喧嘩を売っているこの状況は非常に不味いが、誰かを犠牲にして好感度を得ようとする人間など、豚の餌がお似合いだ。


「…………そうか、そうだな。合点もするし、納得もいく。君からそんな芯がある台詞を言われると思わなかったけど。うん、そうだな、ここは私の負けだと認めよう」


そう言いながら、ドッペルゲンガーはサラダのレタスを箸でつまみ、大きく口を開けて放り込む。


「でも、指標にはなり得る。主観的に生きて、自責に駆られるのは結構だけど、それらが無かった時に、君は意義を無くすよ」


その反応、反論は意外だった。

まるで僕の何某かを見透かしたみたいだけど、

…………怪異の台詞を真に受ける方がおかしいか。


「さて、脱線はここまでにしよう。行き先の場所を話そうじゃないか」

「行き先って、そもそも行く宛なんてあるのかよ」

「ある、実家に帰ろうと思ってね」


実家、ね。

本当に、自分を御厨久遠とでも思ってんのか。

しかし、それは揚げ足か。

何を話し合っても現状は平行線だな。


「はぁ、それでついてこいと」

「うん、正解」


なんかもう構ってほしい小学生みたいだな。


「それで、実家はどこにあるんだよ」


「三重の神社だよ」

「三重の神社!?」


「正確に言うと、伊勢神宮付近にある家だけどね」

それって、つまり伊勢神宮の関係者ってわけで、神社の関係者ってことは、由緒正しい家って所か?


「うん、君の考えは正しいよ」


考えがまた顔に出ていたことはこの際置いといて、あのなりのあの職業で、巫女だったと言うのは凄まじい背景だ。


「急急如律令なんて言って、お前を払ってくれると助かるけどね」

「それは巫女じゃなくて陰陽師だし、払うのは怪異じゃなくて穢れだよ」


的確なツッコミをどうも。

はぁ、大学に行くっても不利になるだけだし、御厨先輩の実家にお邪魔すれば解決の糸口になるかもだな。まぁ、そんな理由付けなんてしなくても、行くしかないんだが。


「ふふ、楽しみだね。小旅行だ」


笑顔を浮かべるドッペルゲンガーを見ながら、僕は先ほどから浮かべている思考を表在化させる。

気づいているか、お前は今、酷く矛盾している。

代わりがいないと言いながら、真贋が表裏一体であると自分で証明している。偽物が実存すると言うのは、本物に代わりがいるってことだろう。


ドッペルゲンガー、お前の実存がお前の説得力を奪っているんだ。

だから、僕の思考は当然のように一つの疑問へと行き着いた。


お前、本当に怪異なのか?

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