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人間未満、あるいは未完成  作者: レム睡眠
3章 御厨久遠編
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詭弁を語り、二重を歩む

その後何回撮っても同じ結果が続いたため、撮影は続行不可能となった。


「ごめん!次の仕事あるから移動しなきゃだ。みくりん、その服は持って帰っていいから!」


そう言って、冷ちゃんは校門の奥に止まってい送迎用の車に飛び乗り、弾けるように去っていった。


「さて、私はカメラの整理とかあるから、このままサークルに帰るわ。ありがとうございました、先輩」

「うん、また撮ってね」


先輩に頭を下げ、僕をチラリと見た後、キャノンは行きと同じように三脚を担いでそのまま学校の奥へと消えていった。


「二人になりましたね」

「そうだね」


さて、どうしよう。

一刻も早く何かをしなきゃいけないわけじゃないけど、やばいことは事実だ。


これは以前読んだ本に載っていたことだが、ドッペルゲンガーには一般的に知られた禁忌とされる事がある。


それは本物と偽物が対面することだ。


対面してしまうと世界が一人にしようとその存在をぶつけ合わせる。

簡単にいえば死ぬ。


「場所を聞くべきだったか………」


突発的な事だったから、脳が怪異に追いついてなかった。いや、言い訳か。

ん?いや、待てよ。

これ、結構やばくねぇか?


「後輩君」


僕が黙り込んでいると、モデル状態の御厨先輩がすかさず口を開く。


「行きたいところある?」


今更説明することでもないが、この人はそもそもライダーだ。故に、行動範囲が極大。

移動しまくった結果、ドッペルゲンガーに鉢合わせました、なんて笑い話にならないぞ。


「さ、サークル室に行きましょうよ。燕先輩いますし、せっかく綺麗に着飾ったんですから、見せびらかしましょうよ」

「サークル室かぁ、うーんどうしようかなぁ」


まるで爆弾処理だな。

雑な選択や下手な発言をするとドカンだ。

先輩の人生は僕の舌先三寸にかかっている。


「ほら、燕先輩は最近まで失明してたし、モデルの姿は見てないですよ。見せてないですよね?じゃあ行きましょう」


僕は先輩の手を掴み、そのまま校舎の中へと引っ張る。


「強引だね〜。そんなに私の魅力を伝えたいだなんて、まさか好きになったーー」

「それはないっす」


寝言を起きながら言わないでもらいたい。だが、今ベラベラと批判して好感度を下げるのは良くない。


「そこは嘘でも言っておくべきじゃないの?こっちは後輩君のお願いを聞いている立場なんだからさ〜」

「いやいや、先輩が自慢したいんじゃないかって思ってるんですよ」


僕は裾を引っ張りながら脇目も振らずに早歩きをする。だが、先ほどの発言が気に入らなかったのか、先輩は大仰に手を振ることでそれを振り払う。


「好感度、稼いでおくべきじゃないかなぁ。私は君の先輩で」


廊下の窓から光が差し込む。

窓枠から影がぬるりと伸びて、先輩の顔が影と光で半々となる。


「怪異なんだから」

「はっ?…………」


振り返り様に言われた意外な一言に、僕は思わずフリーズした。


「聞こえなかったかい?怪異と言ったんだよ。それとも、ドッペルゲンガーと言った方がいいのかな」


おいおい、マジか。

怪異の判明が少しばかり早すぎやしないか。


「………どういうつもりだ」

「ふっ、流石噂の後輩君。まぁ、察しが良すぎるのも考えものだがね」


特性を考えれば、かくれんぼしているだけで一方的に勝つ事ができるはずだ。ボロさえ出さなければ、ネタバレの瞬間に勝ちが確定するはず。故に、こんなことするのは裏があるのは当たり前だ。


「自分探し、というのが正しいんだろうか」


正体を明かしたドッペルゲンガーは廊下奥の影の方へと歩き、近くにあった椅子へと足を組みながら静かに座る。


「自分探しねぇ。そんなものは日本一周か海外旅行でやってくれよ。少なからず、自分しかないような魔窟でやるようなことではないな」

「おいおい、そこは嘘でも手伝いますよと言っておくべきだよ。さっきも忠告したと思うけど」

「好感度を稼げと。なんのためにだよ」


ドッペルゲンガーは指で銃の形を作り、「バーン♪」と言いながら、手首をスナップさせる。


「いつでも殺せるからさ」

「御厨先輩の現在地がわかるってのかよ」

「いや、わからない」


「はぁ?」

「私が言っているのは今目の前にいる君、ないしは目の前に来るであろう全員だよ」


「何言ってんだ――」

「私はドッペルゲンガーだぜ?一人だけに縛られている、なんてことはない」


ドッペルゲンガーは椅子の背に体重を預け、前足を何度も浮かせながら、天井を仰ぎ見る。


「私の特性は知っているだろ?なら、言っている意味は理解できるはずだ。そして、正体を明かすのは君だけだ。半年ぐらい君の動向を探ってたけど、人間(そっち)側にいられるのは非常に厄介だからね。だから、強制的に怪異(こっち)側に加勢してもらう」


ガタン。

浮かせた前足を床に叩きつけ、嫌らしい笑みをこっちに向ける。


「黙ってろってか」

「そうだよ、君は私の味方にならざるを得ない」


人質ってわけか。

僕単体なら敵対行動を即座に取るところだが、他人を巻き込むのなら話は別だ。

そして、それを理解しているから言っている。


じわり。

正体判明とともに僕の全身は暑さと緊張感で汗が噴き出ており、目に汗が入ってくる。


「………っ」


汗を腕で拭い、瞬きをしながらドッペルゲンガーに視線を写す。


「なっ……!?」

驚きのパターンが少なくて申し訳ないが、そこにいたのは先ほどまでの御厨先輩の姿はなく、短髪の男性が姿を現していた。


「どう?すごいでしょ?」


ほんの瞬きの一瞬で、こいつは冷ちゃんの姿に変わりやがった。

そうやって、目の前の景色に白黒していた時、またもやドッペルゲンガーは御厨先輩に変わっていた。


「隙が多いよね、君。ここの一般学生はそう上手くはいないだろうけど、君はとても扱いやすくて助かるよ。そういう意味では、一般的じゃないとも言えるね」

「補欠合格者だぜ?それに追試常連だ。一般的というにはいささか劣りすぎているがな」


そう言うと、ドッペルゲンガーはため息を吐く。


「人間って愚かだよね。君たちは能力の優劣という尺度でしか、自分を見れないんだから」

「何が言いたいんだよ」

「あのね、そう言うのは個性って言うんだよ」

「はぁ?頭が悪いのがか?」


再びため息。


「ほらまたそれだ。君は自分と同じ能力をしていて、同じ学力の人間に出会ったことがあるのかい」

「同じぐらいの人間はいるんじゃないのか?」


同じぐらい。

僕は自分でそう言って、怪異の真意に気づく。


「ぐらい、だね。君はそう言った、間違いなく。だったら私は質問を変えるよ。ならば、ミクロンほどの誤差もないと言えば?」

「…………いない」

「だろ?だから、それは個性なのさ」


個性、個性か。

なんだか詭弁のようにも感じるが。


「個性……ね。そんなことを言い始めたら、そのままであり続ける事が目的になりそうだな」

「誰がそんなことを言ったよ。私はその時その場の君が、君であると言っているんだよ。誰にも変えられないし、代えることができないってことさ」

「それこそ詭弁だな。人間の代わりはいくらでもいる。それこそ、僕のような凡庸な人間はな」


ビキッ。

先ほどまで余裕綽々と言わんばかりの表情だったが、ドッペルゲンガーの額に血管が浮き出る。


「君、人の神経を逆撫でするのが好きなようだね。残念だけど、人間に代わりなんてものは存在しない。現に、君は私ら怪異を理解すると言う唯一無二にも等しい人間だ」

「なんだよそのセリフ。まるで、二人三人ぐらいはいるように聞こえる。矛盾しているじゃねぇか」

「随分と結論を急ぐじゃないか。そうだね、役割は被せが効く。現に、これまでの事件解決は、君じゃなくてもできる。それこそ春夏秋冬先輩にね」


コツコツとヒールを鳴らしながら近づいてきて、僕にビシッと指を指す。


「じゃあ、君は、今の君は、その立ち位置は、誰かに代わってもいい場所なんだね。そこまでくれば自己肯定感が低いと言うレベルじゃなくて、能力云々の話でもなく、死んだまま生きているのと同じってわけだ」


そして、僕の胸倉を掴み上げる。

御厨先輩の身長は僕よりも10センチほど大きいため、身長差でわずかに足が浮く。


「なら、貰うけど。その場所を、自分(いち)を」


殺すぞ、そう脅迫されている。

それもそうだろう。

相手の信条を否定しているんだから。

認められない……が、今殺されるのはダメだ。


「わかった。なら、一緒に探そうじゃないか。自分ってやつを。お前は自分を固定するために、僕は無二であることを理解するために。どうせそっち側にいるんだ、数が多い方がいいだろ」


こちらを睨むドッペルゲンガーに対して、僕も負けじとそれを見つめる。

広がった瞳孔を数秒間見続けた後、やがてそれは静かに閉じられ、浮いた足も地につけられる。


「はぁ、君が詭弁論者であることを忘れていたよ」


どうやら、許されたようだ。


「二週間」


ドッペルゲンガーは椅子にどかりと座り、ピースをこちらに突き出す。


「二週間、付き合ってもらう」

「ダメだったら?」

「そうさな、八つ当たりで君を殺そうかな」


明後日の方向を見ながらとんでもない発言をされたが、まぁ今はスルーしておこう。


「わかった、了解だ」

僕は両手をあげて投げやりに言う。


「さてと、方針も決まったところで、サークル室にでも行こうかね」

「なんでさ!」

「行ったことないから」


観察していたと言っていた通り、その足取りは迷いなくサークル室へと向かっていく。


「ちょ、待っ!」


くっそ、先に開けて現状を確認したいが、出遅れてしまった。

焦る僕をよそに、ドッペルゲンガーはドアに手をかけ、勢いよく横にスライドさせる。


「燕先輩♪」


ドッペルゲンガーは猫撫で声を出しながら、御厨先輩の声音で話しかける。遅れて僕も部屋の中へと入ると、そこには燕先輩と紬がいた。


「先輩、汗だくでどうしたんですか」

紬がそう僕に問う。


「どうしたんだろうな」

わずかに息を切らしながら僕はそう言った。

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