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─第5章─5話「小鳥遊英華」

【城ヶ崎杏樹の受難】


『後攻、小鳥遊英華たかなし えいかッ!』

「みんな、行くよーーっ!!!!」


ステージの光の中で弾けたのは、その地味な外見からは到底想像もつかないほど、元気いっぱいの掛け声だった。


黒いスクエアメガネに、きっちりと編まれた三つ編みのおさげ髪、そして切り揃えられたパッツン前髪。

どう見ても、放課後の図書室の隅で分厚い文学書を黙々と読んでいそうな「文学少女」の出で立ちをした少女が、アップテンポなメロディに乗せてステージを所狭しと駆け回っている。


青森のアイドル名門校「美咲野高校」の1年生エース、小鳥遊英華。

彼女の最大の武器は、その真面目すぎる外見との強烈なギャップ――あまりにもアクティブで、チャーミングなパフォーマンスだった。


メガネの奥の知的な瞳がキラリと光り、客席へ向けて計算し尽くされた完璧な角度でウインクを飛ばす。

観客のハートを射抜くタイミング、会場を盛り上げる煽りのトーン、ダンスのキレと笑顔の作り方。

そのすべてが、1ミリの狂いもない「王道アイドル」のそれだった。


結果:【455ポイント】


対戦相手に40ポイント以上の大差をつけての堂々たる圧勝。

会場は「あのメガネっ娘、可愛い!」「ギャップ萌えすぎるだろ!」と、彼女の思惑通りの大歓声に包まれた。


「ありがとうございましたっ!」

客席へ愛想よくブンブンと手を振り、舞台袖の暗がりへと戻った瞬間。


英華の表情から、先程までのアイドルの「熱」がスッと消え失せた。


残ったのは、まるで精巧な機械のように無機質で、極めて冷静な「素」の顔だ。

彼女は黒縁メガネのブリッジを、中指でクイッと押し上げた。


「……計算通りです。」


激しいダンスで乱れた呼吸を、即座にコントロールして整える。


彼女の真の武器。

それは過去の膨大なライブ映像のデータと、自身の身体能力を脳内で照らし合わせ、最も観客が沸く『最適解』を導き出し、それを寸分の狂いもなくステージ上で実行する「王道の具現化」だ。


かつて、小鳥遊英華は教室の隅で本を読んで過ごす、ただの地味な文学少女だった。

しかし、友人に無理やり連れられて観たアイドルのライブで、彼女の世界は一変した。

論理や理屈をはるかに超えた、魂を直接揺さぶるような熱狂。


「わたしも、あれになりたい。」


その強い衝動を、彼女は持ち前の頭脳による「計算」と「努力」によって、自らの身体にインストールしたのだ。

奇しくもそれは、同じ文学少女上がりである由比ヶ浜ケイの「理詰め」に極めて近いアプローチであった。


英華は舞台裏のモニターに映る、決勝トーナメント表を見上げる。

逆の山には、予選をトップで通過した怪物――城ヶ崎杏樹が鎮座している。


先ほどの第1試合で、凄まじいアクロバットと共に471ポイントという高得点を叩き出した、今大会最大の超新星。


「城ヶ崎杏樹さん……間違いなく、今大会の優勝最有力候補。」


英華は淡々と、データに基づく冷徹な分析を呟く。


「まともにぶつかれば、彼女に勝てる確率は現状では5%未満。……ですが、負けるつもりはない。」


英華はきびすを返し、次の試合に向けて控室へと静かに歩き出す。


「まずは決勝まで確実に勝ち進みます。……わたしの計算に狂いはありません。」


黒いスクエアメガネの奥で、底知れぬ知的な瞳が静かに、そして熱く燃えていた。

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