1 刀儀の一族と妖刀と送り梅雨
刀を握った手を頭頂上まで上げ、後頭部から背中付近まで落とす。
「しっっ」
そして丹田付近まで振り下ろすとピタリと止める。
延々とその動作を繰り返す。
既に回数を数えることもなくなり、どこで力を入れるとか、筋力で止める動作とか、そんな概念すらも頭から抜け、それでも求める様に刀を振るう。
瞑想や解脱の様な、一種のトランス状態だったんだと思う。だから、周囲も見えず、聞こえず、匂いすら感じなかった。
「おーい、蒼太ぁ!」
「しっ、しっっ」
「そおたああああああああ」
「蒼太?お師様が呼んでるよ?」
「しっ、しっっ」
「蒼太!蒼太!蒼太!蒼太!そおぅたあぁぁぁぁぁぁぁ」
「ちょ、そ、蒼太?」
「しっ、しっっ」
「ごらぁあぁぁ!師匠無視するとはいいご身分だな、蒼太!!!」
「・・・・し・・!!!!うわあぁぁぁぁぁ!!なななな、なにしてるんですか!危うく脳天に叩き込むところだったじゃないですか!!」
た、魂消た・・・突然素振りをしている目の前にお師様が現れたのだ。なんとか刀を止めたものの、後数センチ遅かったらと思うと寒気がする。別に人を殺すところだったとかで寒気を覚えているわけではない。今の俺なんかがこのまま斬る付けたところでお師様の頭蓋が刃を弾き返すだろう。そしてそしておそらくひん曲がるか折れるかした赤鮫を無残に想いつつ、容赦なく暴行を受けていただろう。訪れる事のなかった未来に心底安堵し、また身震いをした。
「はっ、未熟者のあんたにワシが斬れるか! まあ止めたことは褒めてやるよ。じゃなかったら折角挙げた刀を折ってしまっただろうからね!」
「いや折らないで白刃取りで止めて下さいよ・・・」
「うっさい、あんたがワシを無視するのが悪い!」
「え?無視?俺が?お師様を?」
誓っていうがそんな事はしていないし、そんな恐ろしいことできるはずもない。怪訝顔で鈴鹿に視線を移すと、両の手を上げ、やれやれとでも言いたげに首を横に振った。
「自業自得、あたしだって二回も声をかけたんだからね」
「え、嘘だろ・・・・」
絶望した。俺は俺の聴覚に絶望した。
こんなん自殺みたいなものじゃないか!聴覚もそうだが、受け取る脳にも絶望した。そして俺はお師様を一瞥した瞬間、華麗に土下座を決めた。
全面降伏。
「すっいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「よし、蒼太には罰を与える」
「うぐう」
「・・・・」
「はぐぱふの刑ぃぃぃぃぃ」
突然お師匠は俺の頭をガシッと両側から掴むと、ニヤリと笑って抱き着いてきやがった!
そして俺は天国と地獄、やわふわと良い匂い、しかし息が出来ない!!
結構力がある俺だが、本気で暴れても全然動けん。俺は死ぬのか?
「お師様、お師様、蒼太ぐったりしてるよ?」
「む、なんだ情けない、おらぁぁそうたぁぁぁしっかりせんかぁぁぁ」
「・・・・・」
「こおらぁぁぁ」
「・・・・はっ、あれ?母様は?」
「やべ、あの世に行きかけてた・・・」
「??あ、・・・お師様ぁぁぁぁぁぁ殺す気ですかぁぁぁぁ」
「すまんすまん、てへぺろ」
「・・・・・」
「だ、大体お前が悪いんだろう?お前赤鮫に少し持っていかれてただろ?」
「あーそっか、そうかもしれません」
「たくっ、そいつは妖刀なんだからそれをしっかりわかって遣わないと乗っ取られるぞ」
「あぶね、はあぁ、まだまだ未熟だな」
「そんな未熟者の蒼太君にプレゼンツ!」
そう嬉しそうにお師様はにやけると、ぽいっと刀を投げてきた。
慌てて受け取ると、ん?真新しい黒塗りの鞘に納められた変哲もない刀だ。なのにすごく馴染む。
「お師様・・・これは・・・」
「この前刀儀の家に行っただろ? その時にお前の赤鮫を忠実に再現して貰ったお前の鍛錬刀だ。そうだなぁ影鮫とでもしとけ」
「しとけって・・・」
「赤鮫を鍛錬に使うとまだ未熟なお前は失う事になるかもしれない。でも、適当に別の刀で鍛錬すると、逆に赤鮫をいざ使おうとしたとき使いづらく感じてしまうだろう」
「なるほど」
「そこで影鮫ちゃんの登場だ。刀儀一の刀鍛冶師に赤鮫をじっくり確認して貰って打ったものだ。おそらく赤鮫を使ってるかのように遣えると思うぞ」
それを聞いてもう我慢できなかった。赤鮫を納刀すると、受け取った影鮫?を抜き放つ。
お師様の言う通りしっくりくる。重さ、バランス、握りまでが同じにしか感じない。違いを探す方が難しい。
波紋とかは流石に違うが、振ってみても違和感は何もない。
「お、お師様、この技術は通常の刀鍛冶のレベルではないのでは・・・」
「そうだ、刀儀一族の長であるじっさまが打った奇跡の一振り、鈴鹿の鍛錬刀もそうだが、じっさまの腕は神懸ってるよな。実際、じっさまは神刀を何本か鍛え上げてるからな」
「そ、そんなすごい人なんですか」
「丁度いいから刀儀一族の事を説明しておこうか。それと蒼太が選んだ赤鮫が何故妖刀なのか、その曰くも話しておくとしよう」
刀儀一族、そして赤鮫の曰く・・・どちらも非常に気になるところだ。
「刀儀一族には今後蒼太個人もかかわっていく事になるだろうからね。ただ、赤鮫の方は結構長い話になる。鈴鹿、悪いが茶でも入れてくれるかい?」
「了解よ、お師様」
さて、どんな話が聞けるのだろうか。俺は影鮫を納刀し、赤鮫を右手に取ると、軒先に腰を下ろしたお師様の元に歩いて行く。
こんにちは、毎度毎度なかなか筆が進まず久々に更新しました。
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