7 真実と妖気と継承と
「はっはっはっははー、神狐の孫、嫌、蒼太は面白いな」
そういって道場の軒先に座るとタバコの箱から一本取り出し、器用に片手でジッポを扱い火を付けた。
そのままカチンと蓋を閉めるとジッポを弄びながらタバコを吸い、フーっと長く吐いた。
異様な色気と美しさに俺は目をそらさずにいられなかった。
「もうううううお師匠、せめてこれを羽織って!」
鈴鹿は顔を真っ赤にして道着の様な上着を肩から掛けた。
「うるさい弟子だな、さて蒼太よ、今日からワシの弟子となる事に異存ないな?」
「あ、はい、それは異存ないんですが・・・・あの、宿儺様は女性だったんですか?」
「今はそうだ」
「今は?」
「そうだ、お前たち皆ワシを両面宿儺と呼ぶだろうが」
え?両面って前後ろの事じゃなくって両性って意味??
いやいやそんな馬鹿なっても現実に目の前に両面宿儺を名乗る美女がいるし・・・先程の剣筋も悠久の鍛錬の賜物だろう。
そこで改めて彼女をみた。どう見ても二十歳位、長い髪は白、というよりプラチナブロンドの様に輝く銀で、スタイルは良いのだがどちらかというとグラビア系のグラマラス。
っておかしいだろうううう!
あー頭がおかしくなってきた。
「お、そうだ、私の門弟になった最短記録者だな・・・ん、ワシ愛用のこいつをやろう」
そういうと銀色に輝くジッポを俺に投げてきた。
ってこ、これは・・・。
「ああああああ、なにそれずるい!あたしにはくれなかったのに!」
「ん? ん~しかしなぁ・・・鈴鹿じゃ使いこなせないしなぁ」
「あ、あの宿儺様? こ、これはいつごろから使ってます?」
「んー多分100年は立たないくらいじゃないか?」
「そ、そうですか」
「なによ、古臭いのが気に入らないならあたしに寄こしなさいよ!」
「いや、それはやめた方がいいぞ」
「どういう意味よ」
「宿儺様、これだいぶ愛着もって使用してたんですよね?」
「お、流石蒼太。でも気にすることはないぞ、ジッポ収集は私の趣味だしな。そろそろ別のも使ってやらないとと思ってたところだ。それ純銀だからな、あでも成人するまでそれ目的で使用は駄目だからな」
「そんなのは分かってます、というかこれ、特級呪物化してますよね?」
「と、特級呪物!?」
「そ、だから鈴鹿じゃまだ扱えないし、持ってても悪いことが起こるだけ~」
「ひぃ」
「でも蒼太ならうまく使えるだろう?」
「それはそうですが・・・ね」
特級呪物は諸刃の剣だ。使い方ひとつで俺も死にかねない・・・だから今まで文献や書物関係しか手出ししてこなかったのに。
しかし、これほどの品が手に入るのもまた希少だ。ここはありがたく頂いておこう。
「ふう、上手く使いこなしてみます。希少な品ありがとうございます」
「素直でよろしい、しっかし流石あの神狐の孫だね。神の与えた造形物のように美しいじゃないか」
「お、お師匠?まさか蒼太に懸想を・・・」
「ん? 何か問題か?お弟子さん」
「いやいや、まさかお師匠がショタ好きだったとは・・」
「んーまあわしからみればお前の父親でもショタになるがなぁ」
「鈴鹿よ、宿儺様は破天荒すぎやしないか?」
「否定はしないし、出来ないわね!」
「言うじゃないか二人とも、まああと5年したら口説いていてやるから、それまでは悶々としながら稽古に励みなっ」
「ご、5年後俺はどうされるんだ・・・」
「おーしーしょーさーまー?」
「おや?なんだい鈴鹿、もしかして蒼太はお前のこれだったんかい?」
宿儺様は下品に親指を立ててくる。何故かは知らんが良いドヤ顔だ。
「ち、ちが、そんなわけないでしょう!」
「はぁっはっはっははは」
つ、疲れる、これがあの朝廷から國を守るために羅刹の如く戦った両面宿儺なのか?結局國を滅ぼされ、伝承によって英雄から化生に貶められ、朝廷の全国民の認識が呪いとなって転じた両面宿儺。
もとは人間だったが化生に転じて悠久の時を生きる化け物に貶められた武人。
「よし、そんな可愛い新弟子の蒼太にはワシから婚約指輪替わりをあげよう」
「こらぁぁぁ、刀を婚約指輪替わりにすなっ!」
袂から出した棒状のもので宿儺様に突っ込む鈴鹿、あえてそれを受ける宿儺・・・お師匠。
ガキンと非常に痛く鈍い音が響く。
いやそれ普通の人間なら頭蓋骨陥没してるのでは?
「あいたたたた。我が愛弟子は乱暴だねぇ。蒼太はこうなっちゃ だ・め・よ。それに鈴鹿ぁその鉄扇は大事な師匠を叩くために用意したわけじゃないんだからねっ」
「キモっ、いいえお師匠様、この鉄扇はこういう時の為に使うと理解しました!今後の言動によーく注意して下さいね」
「トホホ・・・更に凶暴さが増してしまった」
なんか仲いいな・・・割り込むすきがないため呆然と二人の夫婦漫才を見ていると。
「なーにぼうっとしているんだーはよこっち来ーい」
大きな蔵の前で立ち止まり、俺の方に向き直ると手招きしてくる。
慌てて走っていくと、蔵の扉を開け終えたところで合流した。
「入りな」
そう言われたが、一瞬足が止まってしまった。
何故なら蔵からは大小さまざまな妖気や神気が入り乱れて感じたからだ。ごくりと喉を鳴らす。
「流石神官にして陰陽師だな、すべてを感じているな?」
「え、ええ」
「襲ってくるわけではないから入れ」
そう言うと、まるで怖がる子供をなだめる母親の様な笑顔で俺の手を取り引っ張っていく。
中に踏み入るとそこには、刀を中心におよそ武器と呼ばれる物が所狭しと保管されていた。
見た目ガラスケースに収められているように見えるが、それはガラスではなく丁寧に可視化された結界だった。
パチンとお師匠が指を鳴らすと結界は消える。
「さあ、ワシの可愛いお弟子様、君に会う婚約刀を選ぶと良い」
「まーだ言ってる」
「え、これ本物ですよね? 良いんですか?」
「じっくり選ぶと良い」
お、おおおお、日本刀だ!!しかも模造刀ではない、本物のか・た・な!!
ぬううどうしよう、どれがいいだろう。とりあえず力を持つ度合いは見てわかる。が、ひよっこな俺ではまだ使いこなせないだろう、となると刀の持つ刀気ではなく、フィーリング、相性となるな。
槍とか薙刀類もあるが携帯性の悪さで却下だ、とはいえ俺的浪漫で脇差は短いあとは大脇差(小太刀)か刀、太刀になるんだが・・・
とある刀に目が留まる。その刀は他の刀と少し違っていた。拵、というか鞘なのだが、上部分に鮫革が張られ、キズや割れも所々散見するが、よく見れば赤い点が満遍なく浮かび、まるで満天の星の様で、黒い鞘が鈍赤くなっていた。
手に取り観察するが、やはり、鮫革が妙に目につく。もってみると代々使われてきたのだろう、ざらついてはいない。が、しっとりと手になじむ。
ゆっくり抜いてみた。吸い込まれるような刀身。乱れる様な波紋が薄く立っている。
名工の作、なのかどうかは俺にはわからない。が、立ち上る妖気を感じて、こいつがかなりの数を斬っていることがありありと伺える。
そしてこれは、物の怪以上に人を斬っているように感じた。
「なかなか面白い物をみつたな。それにするかい?」
「はい、でもこれ、妖刀ですよね?」
「えっ」
「ふふふ、ご明察。おすすめはしないけど、切れ味と耐久性は保証するよ」
「そうですね・・・これにします」
「はいよ、じゃあ今からそれが蒼太の愛刀となる。名を贈ってあげて」
「名? こいつにはないんですか」
「蒼太が言ってるのは多分銘の事だよね、銘はあくまで刀鍛冶の銘付け。遣うのは君だ。だから名付けをして欲しい」
「なづけ・・・・」
本体は刀身になるんだろうが、俺はこいつの鞘に惹かれた。だから名付けはそこからつけよう。
「赤鮫にします」
「赤鮫ね、良い名だ、その刀には宿郷でワシ以外では二人しか選ばなくてね。色々いわくつきの刀だ。今度暇でもあれば教えてあげよう」
いわく・・・あまり聞きたくないなぁ、と思いつつ蔵を後にする。
パチンとお師匠が指を鳴らすと、再びショーケース結界が発現する。
「さて、相棒も決まったことだし、軽く鍛錬してみようか」
「はい」
こうして俺は宿郷でもいわくつきの刀を継承する事となった。




