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月光の誓約 陽光の宿怨  作者: あるちー
第二章 闇の胎動
14/21

3 合宿とキャンプと黒い影 ③

師匠は訓練生に対して今日は早く休むよう伝え、詳しい話は避けた。

香鈴をはじめ不安そうに聞きたがってはいたが、おとなしくそれぞれのテントへ引っ込んでいく。

そして師匠は北、残りの6人は二人一組で東西南へ別れ、それぞれ焚火をたいて襲撃に備えている。

ちなみに俺たち4人は中央に陣取り、焚火をたいて周囲を警戒していた。


「ところで鈴鹿、お前は何でそんな物騒なもの持ってるんだ?」

「これは師匠からもらったの。まだ太刀を扱うには早いからって大脇差だけど」

「いいよなー鈴鹿は。オレなんてまだ剣術は木刀どまりだ」


と不満そうに愚痴ってはいるが、それでも立派な木刀を手にしている。


「私も~でも私は剣術苦手だしなぁ」


玲の方は逆に重そうにしていた。

とまあ恐怖を紛らわせるようにお喋りしているが、正直実戦経験のない3人にもテントに入ってもらいたいんだが・・・・

もちろんその事は伝えたし、速攻で拒否された。


「初陣ってのはどこかでしなきゃいけないのよ!してないから経験がないんだし、そもそも何であんたは実勢経験があるのよ!」

「そうだよ、教えろよ」

「別に隠すことはないが・・・その前に祝詞をしておく。今の結界陣は防ぐだけなので神気を満たして触れたらダメージ食らうようにしておきたい」


そう、これは宿郷案件、つまり霊災だ。今日を乗り切るだけでは意味がない。討伐する必要があるのだ。

そして俺は斬ってきた若木の葉木を両の手で包み、ただ一心に祝詞をあげる。


「掛けまくも畏き伊邪那岐の大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊祓へ給ひし時に成り坐せる

祓戸の大神等 諸諸の禍事罪穢有らむをば 祓へ給ひ清め給へと白すことを 聞食せと 恐み恐みも白す」


「蒼太は棒に紙つけたの使わないんだな」

「いや、あれば使うが、そんなもん用意してないだろ」

「そりゃそうか」

「ねえ蒼君、私とたっくんは木刀があるし、鈴鹿ちゃんはお鹿ちゃんがあるけど、蒼君武器はないよね?大丈夫なの?」

「こら、玲、いつも言ってるでしょお鹿じゃなくて白鹿(びゃっか)だって!!」

「まあ別になくてもいいが、まあ、こいつを使ってみるか」


俺は背中腰に付けていたサバイバルナイフを引き抜いた。刃渡りは約16cm刃の背にはギザギザの刃があり、まさにサバイバルナイフといった感じだ。しっかり研いであり、切れ味はなかなかだ。ステンレス製で錆びないし軽いのだが、ネットで買った数千円の大量生産品。サバイバルには重宝しているが、この世ならざる者と戦える品かというとちょっとというかかなり怪しい。


「あれ、それなんかキズ入ってるけど?」

「キズじゃなくて俺が打ち入れたんだよ、漢字だが、サンバラサムハラって描いてある」

「なんかの(まじな)い?」

「まあそんなとこだ」

「えーそっれてどいうい・・・・


【ギュエェェェェェェェ】


全身をつんざく悲鳴が響く。かかった、北か!


「来たれ白狐、急急如律令」


『召喚によりここに』


俺は無言で白狐に飛び乗ると北だと指示した。

白狐を初めて見る巧と玲はポカンとしていたが、二度目である鈴鹿は白狐が飛び上がるより早く俺の後ろに飛び乗ってきた。このじゃじゃ馬娘が。

心の中で悪態をついていたが、悶着してる場合ではない。


「二体いる様だ・・・」

「蒼太、一体はあたしが」

「駄目だ、俺とお前で一体、師匠が一体だ」

「お願い。二対一でもいいから、蒼太は手を出さないでほしいの」

「お前は何でそんなに」

「あたしは宿郷宗家の娘、長女で初代様直々に修練してるの。将来は宿郷を背負って立つ身だから」

「わかった、だが危険だと思えば勝手に手を出す。それは承知しろ」

「・・・・わかった」

「!あそこだ」


師匠が二体を相手取り、大立ち回りをしている。相手が素早いが、苦戦を強いられているようには見えない。

すぐそばに二人で降り立つと、師匠は呆れた顔で鈴鹿をみた。


「お前ら、来るのが速すぎないか?」

「遅いよりマシでしょ? あたしらが左を相手する」

「な・・・別に応援などいらんのだが。何で連れてきた?」


師匠は迷惑気味に俺を見る。


「別に連れてきてません。勝手に付いてきました。まあ、師匠の普段の育て方の賜物でしょう」

「む・・・・」


人のせいにしないで欲しい。いっそ二体とも自分で相手したいところだ。


「ふう、猩々だ。林の中では少々厄介だぞ、ぬかるなよ」

「了解よ、父さん!」


まるで弓弦で引き絞った矢が飛び出す如く、鈴鹿は背を丸めて飛び出した。

正直鈴鹿の戦闘は今初めて見るが、流石と言わざる得ない。身体を小さく屈むことによって投擲類の的とならないように、且つ相手が自分めがけて突っ込んでくることも考慮してとんでもなく素早い歩法で身体をブレさせずに急接近していく。


「こいつは・・・俺の出番はなさそうだ」


正直呪術の優位性もあり、俺は鈴鹿の事を見誤っていたようだ。今現在の段階では、突発的に真剣勝負をしたら俺が競り負けるだろう。ならば、初代仕込みの技を目に焼き付けてやろうと呪術の準備はしつつも、鈴鹿を見守る事にした。本来、宿郷式の神髄を見るなら師匠を見ておけばより完璧なのだろうが、万が一という事もある。油断なく敵をも見据えた。

猩々、猿やオランウータンの様な形状の物の怪として知られているが、林や森の中では当然人なんかより素早く、膂力も強いと聞くが、さて。

かすかにキンッという音が聞こえた。刀の鯉口をきった音か?まだ刀を抜いてはいない。

居合で攻めるのかも知れない。相手に間合いを図らせず、かつ鞘内で刃を滑らせ抜刀のままに相手を斬り伏せる。抜き、構えの二動作を一動作に変えるため、斬られた方は神速の剣技に見えるだろう。

鈴鹿の神速の接近に焦った猩々は慌てて近くの木の幹に足をかけ、爪を立てて枝に手を掛ける。その反動で一回転して枝に乗ろうと試みたが、鈴鹿の一閃がそれを許さなかった。


「破っ!」


いつの間に鞘を逆にしていたのだろうか?その気合と共に刀を鞘走り、脇構えの位置から天を目指して一閃。見事に枝もろとも猩々の左腕を切り払った。


「ほうっ」


吐息を漏らすほどその姿は美しく、そして月光をあびて光る見事な波刃文。刹那、それは一枚の絵画の如く心に迫る。


『グギャゲーーーーーーーーー』


無様に地面に打ち付けられた猩々は血の噴き出る腕を抑え地面を転げまわる。が


天を指した刃は一連の動作の様に手首を捻ると同時に左手でも柄頭の上を握ると、重力のままに猩々の首元へストンと落とされ、刃は首元で迷いなく手元に引かれた。

断末魔すら許さず、猩々の首はまるで草葉の如く斬り払われた。


「見事・・・」


それ以外言葉が出なかった。それ程彼女の剣技は秀逸だった。

鈴鹿は首から血を吹き出すさまを醒めた瞳でみつめ、完全に動かないことを確認すると刀を一振りし、血払いを行って、ポケットから懐紙を取り出し刃を拭った。

まるでタイプスリップを起こしたような見事な立ち居振る舞いを、俺は見惚れる様に月下の下で、ただ眺め立ち尽くしていた。















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