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月光の誓約 陽光の宿怨  作者: あるちー
第二章 闇の胎動
12/21

1 合宿とキャンプと黒い影 ①

第 二章 悪意の胎動

ぐーっと背を伸ばし、強張った筋を伸ばして一息ついた。

そこはダム湖のほとりにある大きめのキャンプ場。

今日から5日間ここでキャンプ合宿を行うそうだ。毎年恒例らしく、慣れている皆はそれぞれ準備に取り掛かりつつある。

参加者は道場訓練生がメインで引率代わりにGWが空いている寂しい宿郷㈱の人が何人かいる。


「おーい、蒼太、こっちで俺らのテント張ろうぜ!」


巧がはしゃぎながら呼びかけてくる。昨日の補講終わりからハイテンションで、自由を満喫している様だ。

俺は手を上げると、リュックを背負いなおして歩き出す。


「蒼太はテント張ったことあるか?」

「いや、はじめてだ」

「え?そうなん? それにしてはシートだ寝袋だ、割と使い込まれた道具持ってきてたよな?」

「ああ、うちの山でサバイバルキャンプしてたからな。シートを屋根代わりにしてだったからテントは使ったことが無くてな」

「な・・・それってキャンプ上級者が好むようなやつじゃねえの?」

「そうなのか?良くわからん。はじめはサバイバルナイフ買ってそれだけで山籠もりしたりして色々失敗したから、必要そうなのをその都度揃えていったなんちゃってキャンパーだと思うが」

「お前、頭いいし、顔もいいのにそれに似合わず無鉄砲な奴なんだな・・・」

「む、そういえば父や祖母からも言われたことがあった。しかも通販で買ったばかりのサバイバルナイフで、切れが悪くて途方にくれた」

「いがーい、蒼君ってそんな感じー? やーんギャップ萌え」

「いやいや、蒼太は逢った時から無鉄砲だったわよ」


いつの間に現れたのか、鈴鹿と玲が後ろに立っていた。


「お前ら、男同士の話を盗み聞ぎするなんて趣味わりいぞ!」

「あん?生意気なこと言うのはどの巧かしら?」

「いひゃいいひゃい~」

「それから蒼君はキャンプの達人になったんだね♪」

「馬鹿な、とりあえずナイフは研いで使えるようにして、雨に降られたからシートやロープを準備、火起こしもファイアースターターを知って買って、更に寒いのをどうしようかと考えたら寝袋の存在を知ったと、素人も良いところだった」

「そんなん本でも買うか読めば一発じゃない」

「まあそうなんだが、俺にとってそれは修行の一環だったしな、キャンプという言葉も後から知った」

「どこの野生児よ・・」

「学校で騒いでる女子に教えたーい。ギャップ萌えで尊死する子続出だね」

「やめとけよ」


頬をさすりながら涙目で玲にジト目を送る巧。こいつらはどこへ行っても平常運転だな。幼馴染ってはみんなこういうものなのかね。

さて、じゃれている場合ではない。巧に設営の説明を聞いてテント設営を始める。

到着初日の昼はBBQとの事で、そちらの準備とテント準備で大まかに人が別けられ、数棟のテントを巧と設営した。最初こそ手こずったが、要領さえわかればそれほど難しいものでもなく、滞りなく終えていく。すると風に乗って肉や野菜が焼ける香りが漂ってきた。


「あー腹減ったぁ」

「たっくーん、蒼くーん。こっち焼けてきたからおいでよー」


俺たち最後の設営が丁度終える頃、玲がトング片手に走ってくる。


「よっしゃあああ! 行こうぜ蒼太。にーくにーく」

「ああ」


BBQ場所にはすでに人だかりが出来ており、香鈴も数人の歳近い連中と楽しそうにおしゃべりをしている。すでに食べ始めているものもおり、成人している数人はプシュッとプルタブをあけて乾杯している。


「はい、蒼太と巧の取り皿とお箸」


鈴鹿がすでに何切れか肉と野菜を乗せた取り皿を渡してくる。

出会った頃は変態だの引きこもりだのと散々な対応だった鈴鹿だが、宿郷家のみんなと仲良くなり始めるとだいぶ軟化しはじめている。まあそれでも俺には塩対応が多いが。

まあそこらへんは妹や弟が懐いていて嫉妬されてるのかもしれない。

特に鈴音ちゃんには何故か好かれすぎていて、家にいるときは片時も離れたがらない。鈴鹿より、師匠の方が俺に嫉妬してくるほどで、最近の悩みの種だ。

和馬も例の一件以来、俺の事を兄貴と呼んで慕ってくれており、香鈴ちゃんも勉強を教えてほしいとか色々相談してくるようになっていた。

一時期はそれが面白くなくてあたりが強かったが、最近は落ち着いてきている。

むしろ最近では宿郷式のライバルとみられているらしく、本来違う道場で鍛錬しているのだが、最近はちょくちょく顔出しては俺にダメ出しをしてくるんだが、俺にとってはありがたいことなので参考にさせてもらい、まだ一月ちょっとなのだが、師匠曰く天武の才があるとまで煽てられた。

しかし天武の才があろうがなかろうが、宿願を果たすにはまだまだ全然なので、慢心もせず、黙々と鍛錬を続けている。


「うまっ、この肉うまくね?」

「あ、ああ」

「ふふん、このあたしが焼いたんだから当然でしょ」

「鈴鹿すげーな!」

「・・・」


いや、鉄板に肉置いてひっくり返して取り皿のタレにつけるだけ、正直肉の質がうまさの決め手なんだが、お互いが満足している様だし余計なことは言うまい。

こっちに来てからの俺の座右の銘は 沈黙は金也 に本当になっていた。


「たっくん肉ばっかじゃだーめよ」

「あーピーマン嫌いなの知ってるだろぉぉぉ」

「子供じゃないんだからそろそろ食べられるようになったら?蒼太なんて生で食べてるわよ?」

「なんだ悪いか?生の方がシャキシャキしてて肉と一緒に食べると旨いんだよ」

「ほえー蒼君好き嫌いないの?」

「まあ、ないわけではないが、妹達の手前なんでも食べるようにしてた」

「なるほどねー」

「あーだからかー、最近鈴音もピーマン丸かじりするようになって流石にびっくりしたわ。あのこピーマン嫌いだったのに。和馬まで張り合ってたし」

「うわあ蒼君式食教育絶大だ」

「いや、あれは俺もあせった。へたも種もとってないのにかぶりついてな。口の周り種だらけにしておいしーねえとか笑ってたからな」

「かわいいい」


そんな他愛のない話をしながらBBQを楽しんでいたが、不意に水辺の方から引き裂くような悲鳴が聞こえ、一瞬場が凍り付いた。

なんとなく嫌な予感がして悲鳴がした方に走っていく。

そこには片腕片足が見当たらない女性らしき人が浮かんでいた。

咄嗟に後ろを振り返り来るなっと叫んだが、巧と鈴鹿は足が速くその光景を目撃してしまう。

巧と鈴鹿はその光景に身体を震わせ、うずくまり吐いてしまっていた。

俺は二人を介抱しながら玲が立ち止まっているところまで連れていき、二人をテント迄連れて休ませてくれるよう頼むと、再び水辺まで戻った。


「蒼太は平気か?」

「ええ、なんとか・・・師匠警察には?」

「連絡済だ・・・どう見える?」

「死体、でしょうね。しかも腕も足ももげたり切断されたのではなく、食いちぎられているように見えます」

「ああ、私にもそう見える」

「この辺は熊が?」

「そんな話は私が子供の頃にも聞いたことがない」

「でしょうね・・・師匠、あの死体の傷口からわずかながら瘴気が漂ってます」

「そう、だな・・・」

「この後警察が一帯を封鎖するでしょうが、おそらくキャンプ場まではいかないかもしれませんが、現場検証もはいると一応我々も確認捜査のために足止めを食うでしょうね」

「そうだな、一応宿郷であることはすでに知らせてあるが、今日中に帰る事は出来ないだろうな」

「キャンプに本職の人は何人参加しているんですか?」

「6人だ」

「なるほど・・・相手次第ですかね。何か情報は?」

「今のところないな。ただ、ここは大昔人里だったんでな、そこを埋め立ててダム湖にしている」

「やっかいですね」

「まったくだ」

「残念ながら今日はテントで過ごすしかなさそうなので、辺りを結界で守っておきます」

「大丈夫か?」

「問題ありません」

「分かった、助かる。今回の参加者の中には術者がいなくてな」

「了解です。師匠」


 俺は踵を返して左腰に下げた革の小さなバックを叩き、後ろ腰に差したサバイバルナイフを引き抜き、親指の爪に当てて鋭さを確認した。ステンレスの刃が光を反射して目を背ける。そしてナイフを後ろ腰に戻すと溜息を吐いた。

 長い夜になりそうだ。

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