宣戦布告はとうに済まされている
◇◆◇◆◇
三眼人族の東側を監視する国境(中央から東側は殆んど国として機能してないと上から報告されてる)を一応警戒してる帝国兵達。
帝国兵「中央政府が焼き払われてるのに見張りとか……暇だよな~(悲)」
ここに辿り着くのは多くても一家族(4~6人)が、くたくたで来る程度。
密入国を防いだところで、上の覚えが好くなるわけでも、給料が増えるわけでもない。
ただ疲れ、所持品をくすねて小遣いが稼げるかどうか。
帝国兵「それも誰か来ない…っ? 見張りの奴は何をそんなに騒いで…な!? 」
三眼人族の群れが、こっちに押し寄せている。
背後から迫る脅威(魚人族、鮫のレオン君)から必死に走って来たのだ。
帝国兵「あの数は不味い…【スキルスイッチ】を持ってる上の連中でも…」
防ぎきれない。
国境線を死守出来ないのかと、更に上の上司に判断される。もしくは危険な土地、辺境に飛ばされる。
◇◆
三眼人族達(運好く帝国の攻撃対象にならなかった人達)は、後方の警戒してる者からの知らせ(魚人族、レオン君が“まだ”追って来るか)を日に6回近く尋ねながら逃げる。
避難民のリーダー格は、徐々に小分けで逃がせないか説得しているが、家族には足が遅い者がいると夫妻と揉めて出来ず。
帝国兵が数十人以上いるかどうかの国境付近に来てしまった。
リーダー「挟撃……何人逃がせる? 逃げた先は安全か? 」
帝国兵の沢山居る領地(国)で、どうやって生活を築けばと。
小休憩を脅威からある程度開いたら行い。
ついに運命の国境越えを迎える。
◇
町の住民を何人食べたか不明だが。そのおかげで水分を少し取るだけで目眩も起こさず帝国に向って歩くレオン君。
ちょっと水分補給と、木の実や樹液を啜る。
レオン「何日歩いたら、帝国の国境に着くんだ…」
身体は2メートル越え。
ほぼ元通り。黒鎧がまた相手でも、血の狂乱を制御してぶっ飛ばせる自信がある。
問題は【スキルスイッチ】と言うチート武器。
発動しないとどんな能力か判明しないのは脅威だ。
頭を潰されたら死ぬ。
魚人の回復力は化け物並みだが。化け物は人が殺せる存在だと記憶の断片で知っている。
レオン「警戒し過ぎるくらいじゃないと。また血の狂乱に呑まれる」
意識が無いで死ぬのは楽かもしれないと思惑ないが。
第二の人(魚)生。高齢で安楽死が望ましい。
レオン「だから、それを奪おうとする帝国は何とかしないと」
◆
迫る三眼人族達。
馬防柵を急遽増やし、後方の交代要員組に救援要請。
帝国兵「もう材料が在りません!? 」
帝国兵「遠距離の弓も魔法使いも足りません!? 」
次々に問題が出て来る。
国境警備の責任者は、何が何でも死守するんだと、兵舎を壊して材料にしろ、落とし穴とか言わないが足場を凸凹しろと命令を飛ばす。
もはや悲鳴に近い。
警備主任「俺の担当する床にくんなよ…目玉の異形共」
武器庫の武器を全部出し、夜番の兵を叩き起こし、一人百人殺せと命じる。
まあ、幾ら武器が充実しても。所詮一人で使うのだから、せいぜい4、5人殺せれば好い方。
警備主任「だが! それじゃ俺の首がヤバイ!! 絶対に碌でもない処遇を言い渡される! (恐)」
ガクガク震える身体を抑え込み。国境を超えるのが目的な三眼人族達の先頭集団を双眼鏡で見る。
表情は必至、息も切れてる。だが、こっちに足を休める事も無く向かって来る。
舌打ちして、兵に遠距離攻撃を行わす。
帝国兵「くんじゃねえぇえええ」
帝国兵「あっちいけぇええええ」
魔法と矢の雨が先頭集団に何割か当たる。
ギャーギャー騒いでるが、ほんの数人脱落させただけ。
攻撃が中ると言う事実にもかかわらず、向かって来る。
懐に跳び込めば、魔法は威力があるから撃てっこないと知ってるのか知らないのか不明だが、歩みを早めて来る。
警備主任「槍を突き出せ! 盾を構えろ! 来るぞおおおお」
おおおおおっと兵士達もヤケクソダと声を上げる。
◇◆
先頭集団が国境警備をしている帝国兵の魔法や矢を受けた様だ。
ついに来てしまった。
リーダー「(足を)止まるな!! 止まれば狙い撃ちされるぞ! 前に進むしか道は無い! 」
背後から迫る脅威を擦り付けられれば尚良し。
そううまくいかないのは、帝国に侵略されたと聞いた時から分かってる。
だが、住民達は自分を心の柱だと思っている。
リーダー「足の遅い者は左右に広がれ! 荷物を盾にして行くんだ! この人数なら国境を越えられる! 諦めずにみんな! 前を行く者達に続け―――!! 」
リーダーの声に声を張り上げて応える住民達(難民です)。
魔法で死んだ者はいなかったが。後ろから踏み付けられたりして瀕死。身内が抗議の声を上げながら支える。
その纏まりが移動の邪魔になっている。
それを邪魔だと言いながら横をすり抜けて行く住民達は。
先頭集団が魔法や矢で殺され、攻撃されてるんだと実感する。進めば自分もああなると戸惑った、躊躇した時にはもう遅い。
進む邪魔した者達の身内と同じく、背後を駆ける者に突き飛ばされてた。後続は足元など見ていない。踏まれる。蹴られる。
リーダー「先頭集団が柵に摑まれば」
攻撃はそっちに集中する。その隙に策を壊す。屍を乗り越えて行くしか方法だ無い。
その事に無事に抜けたら責められ、罵りを甘んじて受けようと。背の高い者の背後を駆ける。
◇
向かってる先から悲鳴やら爆発音が聞こえてくる。
レオン君は帝国兵がこの領地で暴れてるのかと様子を見る為に駆け出す。
レオン「あれは……」
見晴らしが好い処で、三眼人族達(難民だろう集団)と帝国兵(国境警備隊で間違いないよな)の攻防戦を見た。
目的地の入り口だ。
レオン君は帝国兵の目が三眼人族達に向いている今ならはと。
身体が縮むのを気にせず。全力で国境線に駆け出す。
両方の戦力は消耗している。
今なら簡単に突破できる。
それに厄介なチート武器も、肉盾があれだけあれば防げる。
三眼人族達の後方をノロノロと負傷者に肩を貸していた者達は悪寒を感じた。
振り返ると土煙を上げて迫って来るナニカ(魚人しかいない)を見て、負傷者を置き去りに駆け出す。
三眼人「あ…待って!? 置いてくなよ―――っ!? 」
すまない。気を引いてくれ。恨んでくれ。
色々言い残して逃げ出す。
◇◆
中間を駆ける者達を追い抜くんじゃないかと言う勢いで。
何処にそんな体力が在ったのだろうか?
生存本能が、脳のリミッターを外したのだろうか?
何はともあれ。
リーダーはその後方の者達の慌てぶりで全てを察し、その勢いを利用して生き残る事を考えた。
リーダー「前門に帝国、後門に魚人。敵の敵は味方であってほしかったな…」
三眼人「助けてくれ! お前等邪魔だっ!? もう後ろに“アレ”が来てんだぞ!? 」
足が速い者が前を走る者を引き倒す。
魔法で吹き飛ばされて死ぬ。矢で運悪く目や喉を貫かれて死ぬ。
それも怖くて嫌だが。背後から迫る魚人に生きたまま喰われる方が何倍も嫌だ。
その恐怖が、同族だろうが、この日まで逃げ続けた仲間だろうが、一切関係なくなった。死んだら終わり。
生きて喰われて終わるのは、絶対に嫌だ。後免被る。
◆
警備主任は困惑する。
何故そこまでして国境を越えたいんだと。
中央を焼き払った影響で生活が苦しくなったから、自棄でも起こしたのか? 一矢報いたいのか? 大切なモノを奪われた報復か?
警備主任「なんなんだこいつ等は…」
全兵士で喰い止めている為。見張り用の櫓には誰も配置されてない。
それ故に、レオン君(魚人)に追い立てられていると気付かない。レオン君と言う脅威の接近にも気づかない。
帝国兵「ぎゃああああ。こいつらの勢いが止まりません!? 」
帝国兵「接近戦は強すぎます!? 隊長おおおお」
帝国兵「柵が持ちません!? 撤退の許可をおおお」
防衛戦は護り手の三倍の戦力で攻撃されればほぼ負ける。
三倍以上。素手や日用品の武装しか持ってないと言っても。
死に物狂いで襲われれば防衛側は救援が到着するまで数を減らし続けるのが道理。
【スキルスイッチ】が在ろうが、戦況は不利に傾き続ける。
帝国兵「衛生兵―――! 衛生兵は居ないか! 」
帝国兵「手を休めるな!? 俺とこいつだけじゃ防げない」
帝国兵「魔力が足りない。誰かエネルギーパックを持って来て!? 」
衛生兵すら武装して防衛戦に参加。
怪我したら自分で応急処置。そして意識が在るなら目前の馬防柵にしがみ付く敵(三眼人)を殺せ。
【スキルスイッチ】の発動に必要な魔力が無いなら。
自分の魔力を絞り出して発動しろ。
警備主任「俺だってな…」
三眼人「がは」
警備主任「俺だってな…」
三眼人(女)「子供、だけでも…たす…」
警備主任「ここから逃げ出したいんだよ! 」
三眼人(子供)「うわああ、ままぁああ、あ…」
第一馬防柵は押し倒された。
突貫で造ったから仕方ないとは言え。
目の前で倒された光景は怒りがこみ上げた。
敵に、そこを護ってた部下に。
どっちに怒りが湧いたかは知らない。
その怒りのままに。各馬防柵で戦う部下達の声、後方の遠距離攻撃を命じた部下達の声を、死守しろと言いながら目前の敵を突き刺す。
警備主任「援軍はまだ……っ!? まだ何か、この事態を更に悪くするのが来るのかよ…」
俺だけでも、逃げ様かな…♪
死守するのが馬鹿らしくなった警備主任。
数分後、敵も馬防柵(左側の一部)を粉砕した魚人(最後にここを通過した【剛腕戦士団】が怯えて戻って来た原因のかと気付いた)だと知るや否や。
やってられるかこんな仕事と吐き捨てて持ち場を抜ける。
帝国兵「「「隊長―――っっっ!?!?!? も、持ち場ー…あー……」」」
現場責任者が居ない。居なくなった。逃げた?
俺等、この場を死守する意味、無くないか? 俺等も逃げ様!
防衛側は武器を手放し、現場責任者が逃げた方向に行く者、逆方向に行く者、適当に我武者羅に走る者と散りじりにこの場から消えた。
難民達の鬨の声が上がり、レオン君は一部の者達が悲鳴を上げるのを気にせず、足を止めずに真っ直ぐ駆け抜けて(東へ)消えた。
レオン君は援軍である複数の中隊規模(40~60人)と偶発的に遭遇。突き抜け際に数人、爪や蹴りを食らわして一撃離脱。
指揮官は救援要請は、今の魚人が攻めて来たからなのかと。
レオン君を追い駆け、包囲撃滅と隊列を整え追い駆けだす。
難民達はそんな幸運で、それ以上の戦死者、犠牲者を出さずに国境を突破。
死んだ者達の遺品を回収し、速やかに身を潜められる場所を探す為に動いた。
リーヴェンス帝国は内にとんでもない者達を抱えた事を知るのは数日後。
この事態に、皇帝陛下は三大貴族を筆頭に侵犯者達の討伐を命じる。
魔導研究所局長アアクルラディルは傍らで、とてもとても愉快だと笑みを浮かべた。
アアクルラディル「ふふ…運命ですかね♪ あの“モルモット”の願いを叶えると♪ 神様はいるんですか、そこに♪? 」
――――何をそんなに楽しそうなんだ、アル? 俺の領土に土足で上がった不届き者達が現れたんだぞ?
呟きを聞いた皇帝陛下は不機嫌。
幼少の時からの好き理解者、隣人だとしても。
悪ふざけをしている場合かと暗に尋ねる。
アアクルラディル「皇帝陛下、そのような事は全く、微塵も、考えておりません。三大貴族並びに貴族達の私兵、傭兵団が動き出すのです。不届き者達は私などがちょっかいを出すまでも無く討伐されます、はい(笑)」
――――…その言葉、信じるぞ、アル
アアクルラディル「空(宇宙)をも呑み込む皇帝陛下の器量に、私は身が悶えますです♪ 」
皇帝陛下の言葉に平伏。
退室の際にも皇帝陛下を賛美した。
魔導研究所に戻るや否や。
出会った不運な警備兵に、第01シリーズのモルモットを準備する様にと走らせる。
アアクルラディル「結果如何によって、更に魔化学の可能性と言う扉が開かれる~♪ 私の為に~♪ 」
鼻歌交じりにラボへ。
すれ違う研究員、警備兵は引き攣った表情で挨拶をして、何か命じられない内に身を隠す。
アアクルラディル「ヒュ~~ッ♪ 元気かな、少年♪? 」
元が少年だったとはとても思えない異形の怪物に挨拶。
アルベルト。異形の怪物は復讐復讐の少年兵、アルベルト。
アアクルラディルの人体実験の協力と引き換えに、復讐する力を欲っした少年。
異形の怪物に成り果てたが、復讐は今も内側で鎮火せずに燃え滾っている。
まるで火山。
復讐があるからどんな痛みも耐え抜き。どんな恐ろしい異形が視界や夢に出て来ても、消えるまで攻撃をして消し去る。
そして同じく実験体にされた者達の殺し合いも、相手が命乞いをしようが殺し。
今日まで生き残った。
アルベルト「ガガ。ヂガラ」
言語能力が乏しくなろうとも。
復讐する相手も。その為の力への執着は消えず。
その事にアアクルラディルはうんうんと満足。
今日の健康チェックをまとめたカルテを見せたまえと研究員達に命じる。
研究員「ど、どうぞ。こちらが今日の分です」
カルテを渡し終えると機材の調整に戻りますとそそくさと離れる。
アアクルラディル「【スキル】も順調に習得してる♪ 健康でなにより♪ 」
さあ、それなら外で運動しようか♪
その言葉を聞き逃さなかった研究員達は「え!?」とアアクルラディルとアルベルトを交互に見る。
だが、誰も口を挟む者は居ない。
「まだ、早いのでは…?」と、外に出すのを止めようものならどうなるか知ってるからだ。
アルベルトが座る地面が下に下がっていく。
一定近く下がり終わると。
頭上数百メートルの壁が横に動き出す。
完全に閉じたら、地面が横に移動を開始。
下がるより短い時間動いて止まり。
上へ頭上の壁ごと上がっていく。
下がった時と同じ時間動き。
止まって、正面の壁が左右にスライドして開かれる。
アルベルトは慣れているのか、ズシンズシンと外に出る。
ラボが数百メートル後方に在る外に出た。
アアクルラディル〈さあ、少年。目的が果たせるか、試してきなさい♪ 〉
脳内に埋め込まれたチップで。
ラボに居るアアクルラディルの通信が可能。
アルベルトは試してきなさいと言う言葉に、あまり動かない頬の筋肉を動かしてにやけた。
ズシンズシンと水辺・海を目指して歩き出す。
アアクルラディルの命令は自由行動の指示。
突如他の命令が出たら。好い処うだろうが、従う。
全ては復讐を果たす為。その為に命令されれば、その用に従う。
アルベルトが見てる景色も、ラボに送信されてるから。
万が一逃げ様としても無駄。
身体の至る所に小型の【スキルスイッチ】、【弱体化】が埋め込まれている。
発動は遠隔操作。アルベルト自身は取り外す事も、第三者のナニカの攻撃を受けて外す事も出来ない。
無力化も対策済み。
それらの対策が無力化された場合。
アアクルラディルが直接迎えに行く。
今は魔導研究所局長の肩書だが。
皇帝陛下の護衛を務めていた男である。
武の心得を捨てて研究者になった今でも。
強さは衰えていない。
寧ろ更に強くなったと言える。
アアクルラディル「うんうん、行きたいところは相変わらずっと♪ 三大貴族が無事に事が終われば戻って貰う。しくじれば…ふふふ♪ 」
研究員達は何も聞こえないと、仕事に集中して今日を乗り越える事にした。
明日も、明後日も、この不気味な笑い声を聞く事になるかもと言う事を思うのは仕事に集中していないからだ。きっとそうに違いないと命じられるだろう仕事をテキパキ、鬼気迫る思いでトライ&エラーを繰り返す。
警備兵はラボの扉を警備してるのを悪いなと。研究員達に同情しながら、アアクルラディルが唐突に出て来るのに備える。
死語は厳禁。
目で身振りで会話する。
今日も乗り切るぞ。明日もここに侵入者は居ないだろう。実験動物が逃げ出さないよな。
などなどを雑談。
今日もラボは平和である。




