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ダンジョン編-55

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 時間のない世界で暮らし始めて、どれくらい経っただろうか。

 俺は焦っていた。

 改めて言うまでもなく、エレナ王女はとてつもない美少女なのだ。それこそ初対面で天使と見紛うほどに。その後ずいぶん一緒に行動したが相変わらず天使の美しさのままであり、相変わらず俺はドキドキしてしまうのである。気がつくと目で追っちゃうのである。エレナ王女の一挙手一投足にほわぁ、と見とれ、そして少年のように胸を高鳴らせてしまうのである。我ながら気持ち悪いのである。

 そんな俺と二人きりの世界など、エレナ王女にとって辛いに決まっているだった。

 ましてや二人だけの世界で、壁も何もないとハプニングが色々起こった。例えば、俺たちはこの世界では異分子で、色んな措置がされている。それは俺たちのステイタス画面を改めて詳細に確認したところ特記事項として、「あらゆる時間経過の無効化・代謝機構の無効化」という変更が強制で施されていた。まだ時間がない世界だが、そもそも時間は俺たちには関係ないらしい。つまり、汗をかいたりはしないはずなのだが、エレナ王女は気になるらしく、定期的に肌をぬぐう。その間俺は後ろを向いている必要があるのだが、エレナ王女がバランスを崩して倒れて声を上げたりすると慌てて振り返ってしまったりするのである。他にも、本来必要が無いはずが、やはり眠りの習慣はやめられず、定期的に横になるのだが、その折り、エレナ王女より少しは役目が覚めるとあられもないエレナ王女の寝姿が見えてしまったりするのである。

 このままだとマズいのだ。

 性欲は代謝として認識されていないのか、まったく減少してないのだ。おじさんになっても性欲はあるのだ。しかも発散する方法がないのである。

 そんなわけで俺は俺の理性が信用できなくなっているのだった。

 何とかしなければならなかった。そうしないと自分で自分を許せないことをやってしまいそうだ。

 状況に変化をもたらすにはとりあえず世界の核を成長させる以外に方法は見つからず、俺は必死に研究した。

 しばらく研究してわかったのは、俺たちが何かやることで、世界の核に少しずつ経験値が溜まっていると言う事実だった。

 だから色んなことをやってみた。

 結界魔術を使うのはもちろん、一緒に歌を歌ったり、エレナ王女から知識を教わったりもしてみた。俺たちが成長するようなことをやることで、その経験値が還流されるのではないか、と推測したのだ。当然、エレナ王女が考えた理論である。

 他にも帰れるようになったときのために、魔人となったデルトナ対策も検討した。この世界と向こうの世界は別の世界であり、俺たちに時間経過が影響を与えないことからもしかしたらまるっきり同じ時間に帰る事になるかも知れないのである。つまりデルトナが俺たちを殺そうとしたまさにその時間に戻る可能性があり、それだと戻っても殺されるだけだから対策が必要なのだ。エレナ王女は「ならば今度こそ私が魔人になります! 超魔人エレナに!」と言ったが、残念ながらエレナ王女のレベルは足りておらずまだ魔人進化は解放されていなかった。だから代わりにご先祖様の真似をして魔甲を作成することにした。材料はエレナ王女が身につけていた宝石で飾られた懐剣である。これをステイタス変更で色々いじるのだが、初めての魔甲造りで四苦八苦することになった。

 それ以外にも現れる侵入者を撃退するのも日課だった。侵入者はほとんどの場合、ガーディアンのような容姿をしており、おそらく、俺たちと同じように『虚空』に飲み込まれてこちらに来るのだろうと思われた。

 我々の行動が経験値となると言うエレナ王女の理論は正しく、とりわけ侵入者の撃退はポイントが高く経験値が大きく溜まり、繰り返しているうちに世界の核はレベル2になった。

 途端に新しいことが出来るようになった。

 まず、もともとが百メートル四方くらいのサイズしかなかった世界が、一気に十倍近く広がった。

 それ以外にも植物が生えるようになった。

 植物はそれぞれステイタス画面を持っており、俺は直ちにそれを操作し、成長率を爆上げにした。

 そこから先は、植物の生長も世界の核の経験値として溜まっていくようで、トントン拍子で進んだ。

 俺たちは頑張り、世界の核のレベルが上がる度に世界は広がっていき、やれることが増え、植物の種類が増えていった。気がつくと山や川が出来、さまざまな自然も発生した。だが、相変わらず魔甲は出来ていない。

 ちなみに木が生えるようになって最初にやったことは、小屋の作成である。俺は当然、エレナ王女と俺の分の二つを用意するつもりでいたが、エレナ王女が強硬に反対した。


「間違いが起きるのは一つ屋根の下と決まっています」


 間違いが起きないために二つ作ろうという話なのだが、意見が対立するとたいてい俺が言い負かされてしまうのである。

 そんなわけでこじんまりとした部屋に二人で住み続けた。

 植物の種類は増え続け、気がつくと虫も現れるようになった。

 そうなるまでに体感時間で百年はかかっただろう。俺たちはまったく変化はなかったが、世界は徐々に世界らしくなってきていた。

 そして、その変化は世界の核がレベル10になったときに起こった。

 必要な経験値が溜まった瞬間、相変わらず不動の位置に浮かび続けていた世界の核が、突如光の粒子になってほどけるように拡散し、それが再び集まって小さな無機質な鎧のような外殻を持つ生き物っぽい何かの形を取ったのだ。それは出来たばかりの手足を丸め、まるで胎児のように宙に浮いていた。

 エレナ王女がそれを見て、何かに気づいて驚いた顔で言った。


「……や、ヤジット様、大聖霊です!」


 エレナ王女にしては珍しくひどく驚いた様子だった。だが、大聖霊なら驚いて当然だった。

 俺もまじまじと見る。


「こ、これがそうなの?」

「はい! すごいです……! 私たちは大聖霊の誕生に立ち会っているのです!!」


 エレナ王女が感動した眼でじっと見る。そのエレナ王女を俺は「相変わらず綺麗だなぁ」と思いながらぼんやり見る。

 大聖霊というのはほぼほぼ『神』と同義語らしい。つまり俺たちは今『神』の誕生を目にしているのだ。だとするとそれは間違いなく感動に値する得がたい経験だった。

 大聖霊は世界においてほぼ万能の力を有する。完全な死体の蘇生も、それこそ魔物の一軍を滅ぼすことも出来るのだという。かつていた世界では、一度だけ変異した凶悪な魔物を大聖霊自らが滅ぼしたという神話が伝わっている。何でもできるだけではなく最強の存在でもあるのだ。

 やがて、この世界の大聖霊は、俺たちが見守る中、ゆっくりと目を開け、その青い眼で俺たちを見ると、柔らかくにもかかわらず思わずひれ伏したくなる神々しい声でこう言った。


「はじめまして、パパ、ママ」


読んでいただいてありがとうございます。次回更新は8日(土)の予定です。

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