ダンジョン編-52
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俺は早足にほの暗いダンジョンを進んでいる。
ダンジョンを最深層目指して進んでいるのは俺だけではない。デルトナさん、オナシスさん、エレナ王女、そしてフィッタさんがひとかたまりになって、全速力でダンジョンの中をある一画を目指しているのである。
目指している場所はサッチャンが言っていた『最深部への最短ルート』だ。そんなものがわかっているのならさっさと教えて欲しかったが、
「一応秘密なんですよ。だってダンジョンって迷宮って意味ですよ? ただまぁ状況が状況なので特別にってことで」
ということで「特別」を強調しながら教えてくれた。
そのルートというのが、なんと宝物たっぷりの隠し部屋(つまり一攫千金を狙ってダンジョン攻略を目指す人たちにとっては夢のお宝ルーム)を通っていくというもので、少し楽しみなのである。第十二階層まで繋がっているという隠し部屋にはガーディアンも発生しないと言うことで、とにかくそこにたどり着ければ格段にダンジョン最奥への道行きが楽になるという便利スポットなのだ。
俺としてはダンジョンにめちゃくちゃ詳しいサッチャンにぜひ一緒に来て欲しかったが、「うーん、僕がいるとガーディアンが寄ってくると思いますよ」ということだったので諦めた。
代わりにサッチャンは出る直前にアドバイスをくれた。
「これはアドバイスですが、ジェネラルガーディアンに出会ったら逃げた方がいいです」
「……何その怖そうなの?」
「怖そうなのではなく、怖いんです。手足がそのまま武器になっている攻撃肢ではなく、手がありその手に宝箱から出てきそうな武器を持っていたらそれがジェネラルガーディアンです。戦闘力は普通のガーディアンの五十倍以上なので、戦おうとせず逃げるのが賢明です。それから……まぁこれは言っても仕方がないか」
「そういう思わせぶりなのやめてもらっていいかな! 言うなら最後まで言ってくれ!!」
「なら言いますが『虚空』にであったら諦めてください」
なんでこのタイミングでこういうことを言うんだろう、と心の底からなじりたくなった。
聞きたくなかったが聞かざるを得ず、詳しく聞いたところ『虚空』というのは文字通り世界の『穴』であり、そこに入ってしまうとこの世界から寸断されてしまうらしい。『閉じられた世界』という奇蹟のスキルに付随するバグのようなものだという。
「しょうがないんですよ。世界ってのは別の世界と繋がるものなので。それが定義なんですよ」
とにかく武器を持っているガーディアンとか変な穴とかそういう妙なのがいたら逃げるのが最善ということなのだ。
もちろん出会わないのがよりよいのだが、人生はままならない。
今回も、一階層降りたところで、
「待ってください」
と先頭を歩いていたデルトナさんが一行を止めた。
「……向こうにガーディアンの気配がします。確認してきます」
それまで順調にいっていたから俺は「マジかぁ」と頭を抱えたくなった。
デルトナさんはすぐに戻ってきて、
「いました。なかなかの数でした。突破は不可能ではないかも知れませんが、戦っている間にガーディアンが集まってきたら厄介です。少し道を変えましょう」
フィオレさんが魔人化して、地上の軍を救うために出ていったあと、デルトナさんは何かしばらく思い悩み、それから吹っ切れたように積極的に動いてくれるようになった。デルトナさんは高レベルだし正直とても助かっている。
「ジェ、ジェネラルガーディアンはいた?」
「そこまでは確認できませんでした。もう一度確認してきますか? 気づかれる危険もありますが」
「……いや、大丈夫。道を変えよう」
そういったことが何度か繰り返された。
俺は方向感覚にはまったく自信が無いのだが、幸いデルトナさんは『感覚でわかります』ということで、遠回りしても最後は目的の場所に行けるのだという。羨ましい。
結局、似たようなことが七回繰り返されたあと、
「さすがにどこかで一度交戦しなければ突破できないかもしれませんね……」
と偵察から戻ってきたデルトナさんが言った。
その時俺たちは、袋小路になっているがそのおかげで身を守りやすい小部屋で休憩していた。
俺としては戦闘無しで隠し部屋にたどり着きたい気持ちでいっぱいだったが、まぁ、しょうがない。
「……突破するならサッチャンが言ってた武器を持ってる奴と穴みたいな奴がいないところがいいよね」
デルトナさんは頷いた。
それから、デルトナさんは、
「もう少し先を行って危険が少ないルートを確認してきます」
「助かるよ」
デルトナさんが見えなくなったあと、オナシスさんが声を掛けてきた。
「少しいいですか?」
「……どうしたの?」
「このような誣告的な物言いは気が進まないのですが……気になりますので念のためお伝えしておきます」
「……ん?」
「デルトナ殿ですが不審があります」
「どういうこと?」
「彼が先にガーディアンがいると言っていたルートのうち、五つは確かにその気配がありました。しかし、二つは気配がありませんでした」
「!」
俺は驚いた。
横で話を聞いていたのかエレナ王女も驚いた顔をしている。フィッタさんはいつも通り表情を読ませないクールビューティーだ。
オナシスさんが続ける。
「デルトナ殿は我々をどこかに誘導したいのではないかと考えます」
「……で、でもさ、そんなことをして一体……」
「わかりません。ただ、ヤジット様に万が一のことがあると主人が悲しみますので、ご注意ください」
「主人ってフィオレさんだよね?」
「私にとって主人が愛するあなたは私の主人も同然です」
「ちょ、ちょっと待ってください」
何を言っているのか分からなくて固まっている俺に代わって口を開いたのはエレナ王女だった。
「ど、どういう意味でしょうか? そもそもヤジットさんは独り身。そのような誤解を招きかねない発言を本人であるフィオレさんがいない場所で言うのは、いかに副官といえどあまり感心できませんが」
なぜか動揺しながらもそれでも厳しい口調でオナシスさんを問い詰めるエレナ王女にオナシスさんはすました顔でこう言った。
「ご安心ください、殿下。我が主、フィオレは貴族の出。正妻と愛妾の区別は付いております。そして家を差配するのは正妻たる者の務めだと弁えておりますのでエレナ王女に逆らう様な真似はいたしません。ただもちろん、主である者の好意の向かう先が下克上を行う可能性までは否定しませんが」
エレナ王女は口をパクパクさせたあと黙ってしまった。
俺は何を言っているのか理解できずに黙っていた。
しばらくしてエレナ王女が、「あとでフィオレさんとも話しあう必要があるかも知れませんね」と、呟くように言ったところで、
「逃げてください!!」
という悲鳴に似た叫びが通路の方から聞こえてきた。
オナシスさんが武器を手に立ちあがる。
俺も慌てて立ちあがったときには既にフィッタさんはエレナ王女を守るように立っていた。
小部屋に飛び込んできたのはもちろんデルトナさんだった。
その後ろに無数のガーディアンが続いている。
どうやら偵察していた時に発見されたらしい。
オナシスさんがガーディアンを食い止めるべく、通路をふさぐように立つ。
凄まじい数だ。
オナシスさんがガーディアンと戦っている間、走ってきたデルトナさんは、息を整えながら、
「ただのガーディアンだけじゃありません。背後にジェネラルガーディアンがいます!」
「げ」
俺は慌てた。サッチャンが戦ったらダメと言っていた強敵だ。周りを見回すが袋小路で守りやすいが逆に言えば逃げる場所がない気がする。
俺がうろたえていると、デルトナさんが声を潜めて真剣な顔で俺だけに聞こえる声で言った。
「……私を魔人化してください。そうすればこんな敵、一掃できます」
読んでいただいてありがとうございます。次回更新は13日(水)の予定です。




