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ダンジョン編-51

     @


 地上において人類の超巨大ガーディアンに対する必死の抵抗が行われていた。

 強制労働ダンジョンの放出口から地上に降りた銀の巨人の数は十二。超巨大な二体を含むその怪物達は、地上に降りたあとゆらりと立ちあがり、左右にゆっくりと揺れながら歩き出した。

 動きは緩やかで、まるでのどかな散歩のような足取りにも見えるが、実際は横に並んで歩く様は巨大さも相まってまさしく『侵攻』である。その重量から足が地面に着く度に地響きが立ち、木々はへし折られる。

 巨人がまっすぐ目指すのは北。すなわち王都の方角だった。

 それは巨人達の本能なのか。あるいは何か特別な感覚で、大量の人間の存在を感知しているのか。

 いずれにせよ、止めなければならない。

 既に勇者グランフェディックを先頭に人類の防波堤たらんとする者達が銀の巨人に群がり、必死に注意を引こうとしている。

 そして、その様子を一段高い丘の上からマクダフ王子が見ていた。

 一応、この軍の総大将という立ち位置である。護衛のデュラン大隊長が、「危険ですので下がってください」というのに、「指揮官が下がってどうする? 私は前で戦うだけの戦闘力は無く、無理にやっても邪魔になるだけだろう。だからせめてここにいる」といって震える声でそれでも毅然と避難を断り、今もここにいる。

 マクダフ王子は真剣な顔で戦況を見つめた。

 王族であり、王位継承権第一位であるマクダフ王子は当然のことながら軍事についても教育を受けている。

 この世界での軍事行動は、対人類と対魔物という二種類のドクトリンを持つ。

 対人類は相手も同じ能力を持っている前提だから戦術の読みあいだ。さまざまな駆け引きがあり、相手を騙し、騙された振りをしてさらに騙すといったことの繰り返しの末の相性戦となる。

 一方、対魔物は完全にそれぞれの魔物の種類によって決まったルーチンを繰り返すことになる。魔物の行動様式はほぼ決まっており、長い歴史の中で魔物の行動パターンとその対応が研究され尽くして、人間側の行動もフォーマット化されているのだ。それでもなお死者が出るのが魔物戦の怖さであり、死者も織り込み済みでルーチンを組むのが人間の凄みであった。

 だが、今回の超巨大ガーディアンについては、そもそも初見の魔物であり、しかもこれほどの巨大な魔物に対応するドクトリンは現在人類の間には存在しない。一応ガーディアンには「音に反応する」という習性はあるが、超巨大ガーディアンの聴覚器があると思われる頭部は今回は到底手が届かない上方にあり、地上でどんな音を立ててもそこまで大きな影響を与えることが出来るとは思えなかった。

 したがって、超巨大ガーディアンがまっすぐ進まないようになんとか気を引いて邪魔しながら、大地の精霊との契約者が大地の精霊を召喚できるだけのMPが回復するのを待つ、という作戦が採られた。

 第二派を待っている間に魔族との混血という特殊な境遇の人たちからなる魔轟騎士団が到着しており、その魔轟騎士団の中には大地の精霊と契約している者が二人いたため、作戦は容易になったかに思われた。

 だが実際は、


「……回復してるのではないか?」

「……はい」


 震えるようなマクダフ王子の疑問の言葉の通り、致命的な変化があった。超巨大ガーディアンはその城壁のような分厚い金属製の肉体に傷が付いても、わずか数分でみるみる元に戻ってしまうのである。

 勇者グランフェディックの全力の一撃をもってしても、両断はもちろん四肢の寸断さえ出来ず、結局その断裂は埋められてしまう。超巨大ガーディアンも痛みはあるのか断裂が発生している間は攻撃した者を排除しようと動くのだが、断裂が消えてしまうと攻撃された記憶も忘れたようにまた北に向かって歩き出す。

 つまり超巨大ガーディアンに関しては、MPを回復した大地の精霊との契約者でさえ、足止めしか出来ないのである。


「こ、これでは我々は何をすれば……」


 デュラン大隊長が律儀に答えた。


「我々の犠牲によって王都から脱出できる人々が一人でも増えるのであれば、それこそ騎士の本懐です」

「だが……」

「殿下のお優しい気持ちを胸に散って見せます。ご安心ください。騎士とはそういうモノです。そういう風に作られています」

「くそっ、我々は、また何も出来ぬまま、誰かが救ってくれるのを待つしかないのか……」


 マクダフ王子が視線を遠く超巨大ガーディアンが出てきた放出口に向けた。そして、ちょうどその時、かつて強制労働ダンジョンと呼ばれ王国に資源をもたらし、そして今破滅をもたらそうとしているそこから小さな豆粒のような何かがつるりと外にこぼれ落ちるのを目撃した。

 思わず目を見張った。


「どうされました?」

「妹……ではないな。なんだ?」


 放出口からこぼれ落ちたその豆粒は、そのまま落ちずに、だからといって飛翔することもなく物理法則を無視して不思議なほどゆっくりとまっすぐ地上に向かっていく。

 そして、地面に触れた瞬間、バネのように跳ねた。

 1kmほどを一息に飛び越え超巨大ガーディアンの前に回り込んだそいつは、突然、スキルを使った。

 スキルはとてつもない変化をもたらした。

 竜のような翼が生え、それがはためき、そいつは空中に静止する。

 そしてそのまま、召喚魔法を使わず雷撃を放った。

 あり得ない光景だった。

 なぜなら人の魔術とは契約によって縛った名前のある精霊を召喚し、その上で「精霊から力を与えられる」ものだからだ。直接「召喚」以外の魔術は使うことが出来ない、というのが常識だからだ。にもかかわらずそいつは名前ある精霊抜きで雷撃の魔術を使ったように見えた。それは魔物と同じ、直接的な下位精霊の行使に見え、竜に似た翼を持つその姿同様、人間であることをやめた宣言のように見えた。

 雷撃は当然のことながら、超巨大ガーディアンに何のダメージも与えず、そのまま地面に流れた。

 だが、頭部に近い高さにいるそいつを超巨大ガーディアンは『敵』として認識したようだった。

 右腕を引き、羽虫を叩きつぶそうとするかのように腕を振るった。

 それを竜の翼を持つものはあっさりと受け止めた。

 そして超巨大ガーディアンの腕を抱え込み、そのまままるで何かの冗談のように


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 超巨大ガーディアンを投げた。

 一本背負いである。

 超巨大ガーディアンが、竜の翼を持つものを支点に一回転した。

 超巨大ガーディアンは頭から地面に落ち、地響きとともに地面が揺れた。

 一拍遅れて、大歓声が上がる。その場にいた人間達全員が感極まったように叫ぶ。

 竜の翼を持つものは、大きくのけぞり、

 

「おーほっほっほっほっほ! このヤジット様の第一弟子の魔人フィオレさんが、あなたたちを救ってあげる! 感謝はヤジット様に捧げなさい!!」


 人間業には思えなかったし、そもそも人間には見えないが、人間の味方らしい。

 フィオレという名乗りが事実ならば、神々の黄昏団の団長で、エレナ王女らとともに強制労働ダンジョンへの侵入を試みたチームの一人のはずである。それがいったい何が起こったのか、明らかに人間ではない姿で舞い戻り、そして人間ではない力を振るっている。

 マクダフ王子は首を振り


(…………何でもあり、ということか)


 とそれ以上、考えるのをやめた。

 少なくとも今は人間の味方だ。ならば思い悩む必要は無い。

 ただでさえ考えることは山のようにあるのだ。

 魔人フィオレに投げられた超巨大ガーディアンが地面から頭を抜き、半身を起こした。


「しつこい!」


 魔人フィオレが、再びガーディアンを投げる。

 だが、投げられた超巨大ガーディアンは先ほどよりも早いタイミングで立ち上がり、魔人フィオレに向かってゆっくりと迫る。

 そして超巨大ガーディアンと魔人フィオレの人知を越えた戦いが始まった。

 地形が変わるほどの激しい戦闘が続いたが、一向に決着は付かなかった。

 超巨大ガーディアンからあらゆる感情はうかがい知れず、一方魔人フィオレにも疲れはないように見えた。 

 それを見ながら、デュラン大隊長が呟いた。


「攻撃は……効いているのでしょうか?」

「……いや、そのような気配はないな。だが足止めが出来るのであればそれで御の字だ」


 自嘲気味にそう言って、そこでマクダフ王子はあることに気づいた。


「……む? 何をする気だ?」


 超巨大ガーディアンの背後で、ガーディアン二体が近づき、手を繋いでいた。初めて見る行動だ。

 そして次の瞬間、手を繋いだ片側のガーディアンが溶けるように崩れ消え去り、残った方のガーディアンの身体が一回り大きく膨れあがったのだ。


「きゅ、吸収合体したのか!?」

「ったく、なんでもありなのかしら!?」


 魔人フィオレも距離を取ったところから見て警戒しているようだった。

 それを見ながらマクダフ王子も戦慄していた。恐ろしい想像が頭を駆け巡る。果たしてどこまで合体を繰り返せるのか。

 もしそれに限界がないのであれば、今残っている11体全てが合体すればどれほどの大きさになるのだろう。

 歩いただけで、人間は立っていられないほどの震動が発生するのではないか。

 さらに今いる超巨大ガーディアンに手こずっている間に、第三波の超巨大ガーディアンが現れ、それらまで合体してしまったら……。

 それこそここで暴れて人間の都市に影響を与えるほどの超重量が出現してしまうかも知れない。

 つまりただ時間稼ぎをしているだけではダメだと言うことだ。

 一方、それでも時間稼ぎ以外に方法が見つからなかった。

 自分がふがいなかった。

 そこでマクダフ王子はふと、重要なことに気づいた。

 慌てて、その思いつきを頭の中で再構成する。

 繰り返し確認する。

 間違いではないと思えた。

 マクダフ王子の表情に、デュラン大隊長が、


「……どうされました?」


 マクダフ王子は超巨大ガーディアンを指さし、慌てながら前のめりに答えた。


「……歩いているのだ!」

「は、はい」

「あの巨大な化け物は鳥というわけでもなく竜というわけでもない! 歩いているではないか!? 我々と同じように二本の足で」

「そ、それが……?」

「まだ気づかんか! 歩けるのは地面に足が着いていればこそ」


 そこでデュラン大隊長も気づいた。


「そうか!」

「そうだ! 我々の魔術でガーディアンはなんともできないかも知れない。だが、地面に影響を与えることは出来る。地面をどうにかしてしまえば、それこそ凍らしてもいいし、歩けないようにぬかるみにしても構わない。そうすればあの化け物は前に進めなくなる!」


 デュラン大隊長は目を見張り、それから見事な敬礼を行った。


「直ちに作戦を考えます!」


 わずかな希望が見えてきた。

読んでいただいてありがとうございます。次回更新は5日(火)の予定です。

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