ダンジョン編-47
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なんだか面倒なことになった。
フィオレさんの要望でとりあえず小さな作業部屋から行けるさらに小さな小部屋を用意した。ちゃんと扉も付いている。
だが、二人きりにはさせられない、という良く分からない主張を複数人が行い、とりわけエレナ王女が強く主張し、その姿は俺が二人きりだとフィオレさんにひどいことをすることが前提のように思えて俺は傷ついたわけだが、結果としてその小部屋に、俺とフィオレさん以外に、エレナ王女とフィッタさん、そしてフィオレさんの部下だという立派なヒゲのオナシスさんが入ることになった。もちろんひどいことをするつもりもないし、結界魔術自体は別に秘密ではないし、そもそもどうやら普通の人間には使えないようなので見せることに問題は無いのだが、好きな人たちに信頼されていないというのは辛い。
今もエレナ王女は口をへの字に結び、難しい顔をしてこちらを見ている。睨んでいるようにさえ見える。
オナシスさんはなぜか目に涙を浮かべている。感動しているように見える。訳がわからない。
フィオレさんは少々不安なのかひどく緊張した顔をしている。
五人でいっぱいになってしまいそうな小さな部屋だったが、
「そ、それじゃあはじめていいかな?」
覚醒した状態の人間のステイタスを書き換える、という前代未聞の試みに緊張しながら俺が言うと、フィオレさんはビクッと怯えたように周囲を見回し、それから意を決した顔で俺の方をまっすぐ見た。
「……ふ、服は着たままでしょうか?」
「え? あれ? それで大丈夫だと思うけど……あれ?」
「は、はい。よろしくおねがいしますわ」
それから理由は良く分からないがフィオレさんは小さくおとがいを上げそしてそっと目をつぶった。
湿った唇がつややかに光っていた。
息がかかるようなすぐ目の前でそんな表情をされるとドキドキしてしまうのである。耐性がないから仕方が無いのである。
覚醒している人間のステイタス変更という偉業の最中にみっともないことにならないよう、俺はこっそりと深呼吸をし、それからフィオレさんのステイタス画面を開いた。
ざっと見て驚いた。
フィオレさんのステイタスは、彼女のこれまでの人生がただひたすら凄まじい努力の連続であり続けたことの証明そのものだった。
美人な外見からは想像も出来ない。
これほどのステイタスはそれこそ俺がいた村のじいさんやばあさんくらいしか見たことがなかった。
それほど突出していた。
まだ28歳という身空でレベルは驚きの62。一体どれほど経験値を貯めればここに至るのだろうか。毎日、戦場に立っていなければとても無理だ。
さらにランクもすごい。上げていくと途中から上げる為に必要なスキルポイントが加速度的に上昇するため、ランクの現実的なマックスは8なのであるが、フィオレさんは二つのスキルランクを8まで上げていた。剣術ランクと魔術(旧神・トロント)ランクである。普通はスキルは特化させて上げるものだ。そもそもそうでなければスキルポイントが足りなくなる。それをレベル62という馬鹿みたいに高いレベルに至り大量のスキルポイントを入手するという力業で解決した二系統のスキル。二系統のスキルをそれぞれ5以上まで上げると、双翼という特別な称号を与えられる。フィオレさんのステイタスの称号のところにまさしくその称号『双翼』が燦然と輝いていた。
そして、双翼以外も奇跡のようなステイタス画面だった。
HPは一〇〇〇〇を超えMPは九〇〇〇近い。一方、STR、DEX、VIT、AGI、INT、MND、CHRはレベルでは変化しないため突出している訳ではないが、鍛錬が行き届いておりきっちり訓練された戦士のそれだった。騎士団でもここまで完成度の高い数値は珍しい。
仕草や容姿が優雅なので気づかなかったが、よく見ればフィオレさんの身体は筋肉が着くべきところにしっかりと着いており、実に鍛え上げられていた。所々に刃物によるものと思われる古い痕もあるが、それもまた味になっており、その全身すべてが歴戦の勇士にふさわしい威厳を持っていた。
俺はフィオレさんのこの鍛錬の歴史に想いを馳せ、思わず感動してしまった。
俺のだらしない身体とはまるで違った。
確かに脂肪の総量は変わらないかも知れないが、それが胸に着いているのと腹に着いているのではまったく違うのだ。意味も価値も違うのだ。
そんなわけでフィオレさんの3サイズは、上から92・61・88なのだった。それもステイタスに書かれていたから認識してしまった。
その全てはステイタス画面上、『赤色』で表示されていた。実際に色が付いているわけではないのだろうが、俺にはそう感じられる。
俺としては赤色は変更できないもの、という認識である。
変更できるところは、ぱっと見『状態』と『称号』と『特記事項』の三つである。実際、そこのステイタスは全て『青色』で表示されていた。
他にも何も書かれていない空欄のステイタスもある。例えば『属性』はまだ空欄だ。見たことないがここは闇落ちすると闇属性の表記が付くらしい。
これまで人のステイタスをじっくり見る機会はあまりなく、色々感心しながら見ていると、俺は自分のMPが五分の一ほど減っていることに気づいた。MPの無駄遣いはヤバい。何しろこれから大変な『ダンジョンを奥まで行ってメーチャンさんを説得』が待っているのである。その前にあまりMPを消耗しておきたくない。
俺は少し慌ててステイタス画面の中から『種族』の項目を探しはじめた。
『種族』はすぐに見つかった。フィオレさんの種族は人間である。
だが当然のように赤色で表示されており、変えようがない。
これを変える方法?
俺が固まっているとエレナ王女が、
「どうしたのですか? 何かわかったのですか?」
「……いや、その、なんというか『種族』って変えられるのかな……今んところその気配がないんだけど……」
俺の言葉にフィオレさんがつぶっていた目を開ける。ひどく傷ついた顔つきだ。
エレナ王女もショックを受けた顔で俺を見ていた。
周りを見回せば、全員がすがるような眼で俺を見ていた。
そうか、と思いながら俺はフィオレさんのステイタス画面に意識を戻す。
考えてみれば、フィオレさんを進化させられなければ、今地上にいる皆は大ピンチである。
何とか出来ないか。いや何とかしなければならない。
必死にステイタス変更する方法を探っていたところ、突然俺に異変が起きた。何が起こったかはわからないが何かが起こったことだけは分かった。この感覚には覚えがあった。
慌てて自分のステイタス画面を開いた。
俺のレベルが上がっていた。
読んでいただいてありがとうございます。次回更新は12日(土)の予定です。




