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ダンジョン編-46

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 作り直した作業部屋は小さいままで、狭い場所にいるとエレナ王女はまるで夜空に淡く輝く月のように綺麗なのである。もちろん広い自然の中にいてもにいても美しく、その時はまるで太陽のような目がくらむような神々しさを感じる。美人というのは何で出来ているのだろう。

 今日も変わらず美しいエレナ王女の横顔を見ながら、ちょっと前までこんな人と一緒に旅をしていたんだなぁ、と感慨深く思ったあと、現在こんな人に距離を取られているんだなぁ、と寂しい気持ちになった。今も間に壁のようにフィッタさんがいる。生きるのが辛い。

 それはともかく、エレナ王女はそんな俺に対してもちゃんと外の状況を説明してくれて、それを聞いた俺は驚いた。

 外はとんでもないことになっているようだ。

 スタンピードは俺でさえ知っている脅威である。

 世界の崩壊の形の一つで、危険度で言えば魔王よりたちが悪い。魔王は人間にとっては大ピンチだが、スタンピードはこの世界の形そのものが替わってしまう。あくまで可能性の話だが、魔族も人間も存在しない世界となる可能性がある。

 俺が寝ている間になんかヤバい感じなのである。

 俺は唖然とした顔で皆を見回した。

 この人達が生きる世界が危ない。

 この人達が俺のことをなんと思っていようと、臭いおっさんと思っていようと、足が短いおっさんと思っていようと、俺は彼らのことが好きなのだ。彼らのことを友人だと思っているのだ。だから、何とかしなくちゃ、と思ったのだ。

 だが、俺に何が出来るのだろう。

 本当に悩んで難しい顔で首をひねっていると、エレナ王女が助け船を出してくれた。


「スタンピードはヤジット様のご先祖様が停めた、という伝説があります」


 相変わらず少し離れた場所に座っているエレナ王女に俺は喜色いっぱいの顔を向けた。


「え? マジで?」


 エレナ王女は視線をそらして頷いた。


「はい」


 あからさまな壁が辛かったが、今は耐えるときだ。俺は続けて訊いた。


「……どうやったか知ってる? それ俺に出来るかな?」

「それが……初代勇者のトシ・オーイガ様は一人で解決された、とのことで……詳しいことはわかっていないのです」

「くそう。ちゃんと残しておけよな、ったく使えないご先祖さんだ。……最悪喚ぶか……でもそうすると俺、間違いなくMP切れでぶっ倒れるよな。そうするとうまく喚べたとしてもそのまま帰っちゃう可能性が高いし。何とかする方法はないか。考えろ考えろ俺」


 俺がブツブツ言いながら頭をひねっていると、


「トシさんならメインコアに干渉したらしいですよ? ステイタスの強制書き換えを受けたって、P65008が言ってました。こう見えて僕達色々情報共有をしてるんですよ」


 とあっさりサッチャンが教えてくれた。

 俺はサッチャンの方を向き、


「ぴーろくぜろぜろはち?」

「スタンピードになっちゃったダンジョンの名称です」

「メインコアってあれだよな。一番深いところにあるって言ってた……」

「そう、それです。メーチャンです」

「そいつのステイタスを強制書き換えすればいいのか。それなら何とかなるかも知れない。よーし。可能性が見えてきたぞ!」


 何をやるかわからないが、行ってメーチャンとやらのステイタス画面を開いてみればわかるかも知れない。とにかくこの状況を何とか出来ると可能性が見つかり、俺は心の底からホッとした。


「じゃあ、行こう、すぐ行こう」


 俺は立ちあがった。ステイタス変更ならば、俺にも出来るはずである。

 だが、俺に次いで立ちあがろうとしたサッチャンが、立ち上がりかけで動きを止めた。


「……あ」

「ん? どした?」

「……マズいっすね」

「なにが?」

「いやぁ、僕の感覚は一部ダンジョンと共有されているんですけど……何しろサブコアのサッチャンですからね」

「えーっと?」

「ダンジョンから見えるんですけど、皆さんのお仲間がかなりピンチです」

「へ?」

「……ここをこう繋いで……これで見えるかな?」


 突然、作業部屋の壁に外の景色が映った。

 それは、ひどい光景だった。

 巨大なガーディアンがゆっくりと一列に並んで進み、そこに蟻のように人々が群がりその度に蹴散らされる。

 巨大なガーディアンは邪魔されながらも徐々に北へ遠のいていく。

 それに必死に人間達が追いすがる。

 しばらく言葉が出なかった。

 ようやく俺の口から絞り出すように出た言葉は、


「……これって今まさに起こってるの?」

「その通りです」


 俺は慌てて言った。


「すぐに俺を外に出してくれ!」


 俺の願いを否定したのはエレナ王女だった。


「それはなりません」

「なぜ!」

「スタンピードは波状で発生します。原因を止めない限り終わらないのです。そしてあの巨大ガーディアンも時間を掛ければ何とか出来ます。それまでどれほどの被害があるかはわかりませんが……」


 俺は気づいた。エレナ王女は白くなるほどきつく手を握り、そして唇を噛みしめていた。

 当たり前だった。今戦っているのはおそらくベレスティナ王国の騎士達であり、エレナ王女にとってまさに断腸の思いだろうことは想像に難くなかった。

 途端に申し訳なくなった。

 俺よりずっと年下のエレナ王女が冷静に対処しようとしているのに自分は取り乱してしまった。俺の感情の揺らぎに反応して結界がぶれる。慌てて張り直したあと、それでも俺は、


「せめて……せめて誰か助けを……」


 俺の懇願に答えたのは思わぬ相手だった。


「私が行くわ。師匠」

「え? フィオレさん……ですよね?」

「覚えていてくれたの? な、なんか嬉しすぎなんですけど」


 真っ赤な顔で身もだえする姿が過去のフィオレさんの姿とまるで重ならないが、顔も反応したことも含めて『アイキ』を教えたフィオレさんで間違いないだろう……多分。

 だが、フィオレさんでは……と俺はサッチャンが映し出していた映像をチラリと見て思った。


「無理ですよ」


 誰もが思っていたことをオーバンがはっきり言った。


「人間じゃあどうにもならないですよ、あれは」

「私は武神様の弟子よ! ただの人間じゃない!!」

「どう見ても人間じゃないですか。仙人でもない」

「……ん?」


 フィオレさんとオーバンの言い合いの横で俺は首をかしげた。


「仙人って何だろ?」

「仙人というのは人が人を超えた先に存在するステイタスだと言われています。一部、冒険者と呼ばれる人々はそれを目指し、さまざまなミッションをクリアしているとのことですが、仙人への進化に成功した人たちは世間に姿を見せないので詳細はわかりません。」


 俺のつぶやきにわざわざ教えてくれたエレナ王女の優しさのおかげで、俺はようやく何を言っているのか理解できた。そしてさらに驚いた。


「え? 種族って変更できるの?」

「?」

「人って確かステイタス上、種族だと思うんだけど。あれって変更できるの?」

「ちょっと何言っているのか分からないのですが……」

「でもそうか。変更できるのならフィオレさんに進化してもらってってのもありか……って人間相手のステイタス変更は死にかけてるくらい弱っているか術者の完全なる支配下に入らないと無理だよなぁ。俺も最初にステイタス変えてもらったの、母さんだったし……」


 と俺がブツブツ言っていると、


「できますわ! それ!」

「……へ?」


 言い争っていたオーバンを押しのけるようにして俺に向かってそう言ったのはフィオレさんだった。


「支配下に入って見せますわ! 師匠!! というか、師匠と弟子はもう支配されているも同じです。なんなら……師匠にだったら半殺しにしてもらっても構わないんですけど……」


 フィオレさんはなぜかうっとりとした顔でそう言った。

 ちょっと怖い。


「と、とりあえずステイタスを変更できるか確認していいかな?」


 俺がそう言うとフィオレさんはなぜか顔を真っ赤にしてもじもじしながら周りを見回し、そしてこう言った。


「こ……ここで……ですか? さ、さすがに初めてがみんなの前でしかもここというのはちょっと……」



読んでいただいてありがとうございます。今年もよろしくお願いします。次回更新は7日(月)の予定です。

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