ダンジョン編-39
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「私も行くわ」
フィッタから、打ち合わせに参加するかどうかの確認をされ、フィオレはそう答えた。
神々の黄昏団の簡易敷地の中である。
団員達は布を地面に敷き、その上で思い思いに休んでおり、その一番奥にフィオレはいた。
「ありがとうございます。それでは一時間後に」
フィッタが去るとオナシスが近寄ってきた。
「……逃げないのですか? 当然そうなさるものと思っておりましたが」
「そうねぇ、逃げれるなら逃げたいのはやまやまよね」
「スタンピードの危険性は想定を遥かに超えています。このまま残ってもじり貧。そして我々は傭兵団。この国に殉じる必要は無いのでは、と考えますが……」
「それもその通りね」
「契約についても強制労働ダンジョンは既に監獄として機能しておりません。従って私は契約上の仕事はすでに満了したと思っておりましたし、そもそもしばらくすれば契約について云々言う立場の人間がこの国ごと消え去っているのではないかと」
「あの怪物は少し無茶よね。で、逃げるとしてどこへ逃げるの?」
「……さて」
「確実な逃げ場はないわ。となるとどっちにしても賭け。私はあの王女が何とかする方に賭けてみたいのよ」
「ボランティアですか?」
「お金は追加でもらうよう交渉するわ」
「なるほど。お嬢様の考えは理解できました。強制はできないので各団員にはそれぞれ自由にさせます。我々に従うもよし、どこかに逃げるもよし。それでいいですか?」
「もちろん」
「それにしても、あの怪物どもを相手にするのはどう考えても割に合わない気がします。もしかして勇者であることにまだこだわっていらっしゃるのですか?」
「違うわ。そんなことじゃない」
フィオレはちらっとオナシスを見て、
「あいつ、腹が立つでしょう?」
「……あいつ?」
「あいつよ、あのすました顔の王女様」
「……なるほど。あいつというのはエレナ王女のことでしたか」
「そうよ。ただまぁ優秀なのは確か。この国が残ればこの国の実質的な運営は彼女がやるでしょう。逆に言えば彼女とうまくやらなければ神々の黄昏団はこの国でやっていくことはできないわ。だから、あいつの弱みを握っておきたいのよ」
「……ふむ」
「あいつ、どう考えてもヤジットとかいう強制労働ダンジョンに入れられていた囚人に惚れているみたい。一国の王女が、よ。これは得がたい機会よ。王女には手が出せなくても囚人として捕まっているような奴ならどうとでもしようがある。つまり、ヤジットとか言う奴を押さえれば、エレナ王女を、ひいてはこの国を押さえることができるーーこんな偶然を逃すのは馬鹿のやることよ」
「……理解いたしました。確かに賭けに出る意味があるように思われます」
「わかったのなら支度をしなさい。ダンジョンへの侵入は私と貴方だけでいいわ。それから説明しても残ってくれる愛すべき馬鹿どもは金が出るならガーディアンの足止めを手伝わせましょう」
「承りました」
突然、絞り出すような声が、
「俺も……俺も連れて行ってくれ」
「……意味がないわ」
フィオレが冷たい声を向けた相手は、すぐ近くに転がっているデルトナだった。
強制労働ダンジョン崩壊時に意識を失っていた彼を放っておくのも忍びなく、結局運んできたのだ。
だからといって、昔の知り合いと言うだけの男にこれ以上便宜を図る理由はない。
だが、デルトナは必死に上半身を起こし、
「意味はある……!」
オナシスがヒゲをしごき上げながら、
「……邪魔ですね。処分いたしましょうか?」
「まぁ、聞かせてもらうわ。その上で処分か連れて行くか決めましょう。で、その意味って何かしら? 命がかかっているから慎重に答えなさいな」
「先ほどの話を聞いていた。俺はヤジットという奴を知っている……そいつの情報だ!」
フィオレはオナシスと顔を見合わせた。
それから笑みを浮かべ、
「へぇ……詳しく聞かせてくださいな」
読んでいただいてありがとうございます。次回更新は、12日(水)の予定です。




