ダンジョン編-37
そうだった。ヤジットとか言う祝賀会で狼藉を働いた愚か者を、妹の反対を無視して強制労働ダンジョンに送り込んだのは他ならぬマクダフ王子自身だった。
冷や汗をかくマクダフ王子の前で、妹は冷たい笑顔のまま首をかしげる。
「もしヤジット様がお兄様に対してお怒りでなければ手を貸してくださるかも知れません……でも無実の罪でしかも人類を救った直後に王家の都合で一方的に牢に入れられたことが私にはないので、ヤジット様の今のお気持ちはわかりませんわ。普通なら……どうでしょう? お兄様はどう思われます?」
「……あ、頭を下げればいいのか? わ、わかった。恩赦だ! 罪はもちろん許すぞ! ……そ、それでどうだ?」
「それで許してくれるでしょうか。ヤジット様が暗く冷たい独房で薄いスープを飲みながら何を思っていらっしゃったのかはわかりませんが……そうだ。いいことを思いつきました。ヤジット様の前でお兄様の首を飛ばしてもらうのはどうでしょう? きっとお怒りを解いてくれますわ」
「………………マジで?」
「マジです。世界のためです。我慢してください。とはいうものの多分ヤジット様は優しいのでそんなことにはならないと思いますが、もう一つ問題があるのです」
「こ、今度は、な、なななななんだ? 俺の何を斬るつもりだ!?」
「……そのヤジット様がまだ中にいらっしゃるのです」
「中?」
「あの中です」
エレナ王女が遠くを指さした。
その指の先、緩やかな盆地の中央に、地面の中から半身を起こした巨人の姿があった。巨人の下半身は地中に埋もれたままだ。しかも頭に当たる部分がなく、代わりにぽっかりと巨大な穴が空いている。穴のサイズは二百メートルはあるように見えた。巨人の全長は一キロ近くはあるかも知れない。腕もよく見れば枯れた植物のような不気味な質感でねじれがあり指もない。植物が人間の形を真似ようとして真似しきれずに頭を作る前に途中でやめた、そんな雰囲気だ。
その頭のない巨人は今、身動きの仕方を忘れたように佇んでいる。
「実は気になっていた。あれは……あれはいったいなんだ?」
「強制労働ダンジョンと我々が呼んでいた『もの』です。スタンピードの直前、それまでの大人が三人並んで入れるくらいの大きさの入口が変化し、さらに大きく隆起してあのようになりました。あれはあくまで入口。本体はこれまで同様ほぼ地中にあるのでしょう。我々は封鎖のために外にいたのでギリギリ助かりました。ダンジョン周辺の建造物は全て破壊されましたが……」
「そ、そんなことが……」
「この有様です。今さら驚く必要はありません。ちなみにああなる直前までヤジット様と一緒にいたユーインさんによると、あの中の作業部屋と呼ばれる場所にヤジット様達はいて、まだ留まっているものと思われます」
「……」
「したがって我々がやるべき事はあそこに侵入し、そして作業部屋にいると思われるヤジット様を確保し、そしてそのお力を借りてスタンピードを収束させること、です」
「す、すでにスタンピードによって斃れていたらどうするのだ!?」
「その時はーー」
「その時は?」
「人類が滅ぶまで、です」
エレナ王女は凄惨な笑みを浮かべてそう言った。
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