ダンジョン編-36
ビビっているマクダフ王子を笑顔のままエレナ王女は手招きした。
「……お兄様、こちらへ」
「お、おう……」
隅に連れて行かれ叱られた。
「うかつなことを言わないでください!」
「うかつ? いや、だが、実際スタンピードは勇者以外どうしようもないのではないのか?」
エレナ王女がため息をついた。
「……成長したというのは早計だったかも知れません。知識がないというのは困ったものです」
「む?」
「いいですか、お兄様。オーイガ卿と当代のグランフェディックさんはまるで異なる存在です。そのことも知らないなんて……」
「なんだと? どういう意味だ?」
「グランフェディックさんの『勇者』という称号はもともと『大いなる神々と力強き精霊に愛されし者』という意味です」
「そのくらい知っている! 古代語だろう」
「ええ。その効力はご存じの通り、通常一柱としか交わせない魔術契約を複数結ぶことが出来ると言うものです。実際その効果は破格と言えるでしょう。今回もそのおかげで普通はほぼほぼ効力がないから誰も契約を結ばない大地の精霊の魔術も使うことができるのですから。ともあれ、つまり、グランフェディックさんの『勇者』というのはそう言ったスキルです」
「うむ」
「それに対してオーイガ卿は、百二十八の称号を持っていたとされています」
「うえ????」
思わず変な声が出た。唖然としているマクダフ王子に妹が淡々と続ける。
「オーイガ卿にとって『大いなる神々と力強き精霊に愛されし者』という称号は数ある称号の一つに過ぎません。他の称号は『魔物のボス』とか『日本酒ソムリエ』とか『アルビオン王子応援団長』とか『竜のひよこ鑑定士』とか良く分からないものも多いのですが、オーイガ卿以外の人間に発生を確認できた称号が『大いなる神々と力強き精霊に愛されし者』だったので、その称号を持つ者を以後勇者と呼ぶようになった過ぎないのです。替わりがいない代用品に過ぎません」
「な、なんと……そうなのか。知れなかった。ちなみに好奇心から聞くのだがそのアルビオン王子というのは何者なのだ?」
「オーイガ卿が生きた時代の、ガーディン聖王国の第3王子で、当時十歳ですが大変かわいらしい容姿をされていたそうです。オーイガ卿は『ショタ』なる属性を持つと公言されていたとか……」
「……良く分からないな。知識がないせいですまぬ」
「いえ、大丈夫です。それは誰も良く分かっていません。私もわかりません。ですが、わかっていることはあります。オーイガ卿とグランフェディックさんはまるで違う存在だ、という事実です。そもそもそうでなければ私は初代勇者の隠れ里を探しに旅に出る必要など無かったでは無いですか。国民全員に教団でのステイタス確認を義務づけ、見つけたらその人間を確保すればいいだけです」
マクダフ王子は妹の言葉を受け入れた。
妹は口は悪いし自分には厳しいが、嘘は絶対言わない。
つまり現勇者ではスタンピードには対応出来ない、ということだ。
つまり打つ手がない。
背筋が寒くなった。
「そ、それでどうすればいい? 勇者がなにもできないのであれば、この世界は終わりではないか!?」
すがるように妹に訊くと、妹は冷たい目のまま微笑みを浮かべた。
「幸い、というか、皮肉にも、なんとかする手段があります。しかも近くに」
「なんだ……それを早く言え。全て俺の名において許す。用意しろ!」
「しかし、協力してくださるか……」
妹の表情にマクダフ王子は不安を感じた。
恐る恐る訊く。
「……どういう意味だ?」
「その手段とは、お兄様が罰だと称して強制労働ダンジョンに送り込んだオーイガ卿の子孫の方です」
「う゛……」
マクダフ王子は固まった。
今日の連続更新の最後は21時過ぎに行う予定です。




