ダンジョン編-33
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スタンピード発生。
その申し伝えで王宮に激震が走った。
王宮でエレナ王女からの指輪つきの伝言を受け取ったマクダフ王子は「あいつはなぜこう面倒しか持ってこないのか。もしかして疫病神かなんかではないのか……」と頭を抱えてひとしきりぼやいたあと、気を取り直して急ぎ行動を開始した。スタンピードはそれほどの一大事と言っていい。王国の存続を危ぶませるほどのものなのである。
まず、王都に常駐する周辺諸国の大使を王宮へ召喚した。スタンピードの発生を告げ、その対処のため軍を動かすことを伝え、さらに避難の勧告をするため、である。これをおろそかにすると周辺諸国との関係が悪化する可能性がある。幸い、スタンピードの危険性は諸外国も認識しており、すぐに状況に理解を示してくれた。援軍の派遣を提案する国もあった。
次にマクダフ王子は、王都の住民に避難を命じた。ただし、こちらの名目は訓練だった。もちろん疑問に思う人間もいるだろうが、真実を告げ大混乱が発生するよりはよいと考えたのだ。
準備期間がなかったためほとんど身一つで避難せざるを得なくなった王都の住人たちを誘導したのは、王都の警備を担当している鳳凰騎士団だった。これもマクダフ王子の指示だった。王都に住むもの達が日常的に目にする機会のある紋章を身につけた鳳凰騎士団の騎士たちのおかげで、混乱は最低限だった。ちなみに現王ザリューン二世は避難中の王都市民に同行している。
王都に残ったマクダフ王子は国境付近に配備されて動かせない騎士団以外の六つの騎士団に強制労働ダンジョン近辺への移動を命じた。同時に、王都の備蓄をまとめ、軍を送り込む先に集積させることも指示した。もちろん備蓄を分散させることも忘れない。備蓄は一箇所にまとめていると、そこが何らかの理由で失われたときに一気に飢餓が訪れるためだ。
これがわずか一日半の出来事である。
マクダフ王子の命令の下、強制労働ダンジョンの北五キロに集結することになった軍の総数は二万である。
内訳は、近衛騎士団1500、飛山羊騎士団4000、聖麒麟騎士団4000、巨狼騎士団4500、影象騎士団4000、魔轟騎士団2000。
これがベレスティナ王国が即座に動かせる軍のほぼ全てだ。ただし、近い場所にいる騎士団から順次到着する形になる。
すべての手配を終えたマクダフ王子自身が近衛騎士団を引き連れて強制労働ダンジョン前に着いたとき、すでにそこは戦場であった。
血と土煙と吶喊と苦鳴が強制労働ダンジョンの周辺に満ちていた。
マクダフ王子より先に着いていた騎士団は二つで、聖麒麟騎士団と影象騎士団の計8000である。
本来は総指揮官であるマクダフ王子の到着を待つべきだが、事情が事情なので今回はそれぞれの騎士団長に、開戦の判断は任せていた。そして彼らが直ちに戦闘が必要だ、と判断したのだろう。
その8000はただひたすらに満身創痍だった。
満身創痍のまま戦い続けていた。
戦うという言葉は既に正確ではないかも知れない。足止めのために食らいつき、巨大な敵の圧倒的な暴力によって粉砕され、それを治癒魔術によって治療して、再び食らいつく、と言うことの繰り返しである。
二つの騎士団がそうやって足止めしている対象は三体の見上げるほどの大きさの超巨大な金属生命体だった。おそらく高さは二十メートルはあるだろう。
四肢が刃物で作られたような銀色の巨人は、緩慢に見える動きで、攻撃肢を振り上げ、なぎ払う。大きさで緩慢に見えているだけで実際の動きは決して遅くない。そして、王国の誇る騎士達がその範囲から必死に逃げることしかできなかった。逃げ切れなかった者は吹き飛ばされる。身につけた金属の鎧のおかげで両断される者がいないのが唯一の救いだが、それでも鎧は一撃で大きくへこみ、骨折や内臓への損傷があるのは間違いなかった。治癒魔術がなければ死んでいるだろう。
一方、銀の巨人が攻撃したときは、巨人の攻撃対象以外の者にはチャンスのようで、背後から必死にあらゆる攻撃を加える。だが魔術も物理攻撃も基本的に通じている様子はなかった。
そして、決死の人類の攻撃をたかる蠅程度にしか思ってないような銀の巨人がゆっくりと振り向き攻撃肢を振り上げてなぎ払う、と言うことの繰り返しである。
マクダフ王子は呆然とつぶやいた。
「こ……これが……スタンピードなのか……」
それほど想像を絶する光景だった。
騎士団は他国との戦争以外にも魔物の駆除にも頻繁に狩り出されており、巨大な生物との戦いにも慣れている。そんな騎士団が足止めだけで精一杯だ。
だが、よく見れば既に残骸になっている銀の巨人が三体ほど転がっている。
つまり倒せるのだ。
今の光景からはとてもそんな風には見えないが、足止めだけでなく数を減らすことができるのだ。
わずかな期待とともに、マクダフ王子は後ろを振り返り、
「お前たちもすぐに参戦しろ!!」
あっけにとられていた近衛騎士団も動き始める。マクダフ王子の護衛二人を残して全員が戦いに向かう。
再び血みどろの足止め作戦が始まった。
ボロボロになりながら何とか銀の巨人を行動を封じることに成功し続ける。
手に汗握る半刻ほどが過ぎ、突然左手の丘の上から喜びをはらんだ声が上がった。
「グランフェディック殿のMPが回復したぞ! 離れろ!!」
必死に戦っていた騎士達の顔に精気が戻った。一方、参戦したばかりの近衛騎士団の面々は困惑を浮かべるだけだ。
騎士達が足止めをやめ、大急ぎで銀の巨人から走って離れる。
その動きに合わせるように左手の丘の上に人影が現れた。その影ーーグランフェディックが、呪文を唱えるとロックゴーレムに似た大地の精霊が召喚され、その加護が彼に与えられた。
オーラが全身から噴き出す。
マクダフ王子の二人の護衛騎士が、それを見ながら
「勇者殿だ! 来てくださっていたのか……!」
と感極まったようにつぶやいた。
人類の声援を背に受け勇者はただ一人銀の巨人に向かって駆け出す。
奇跡のような光景だ。
期せずして、その場にいる全員から歓声が上がった。
気づけばマクダフ王子も祈りとともに声を上げていた。
頼む。勇者よ、人々を救ってくれ!!
グランフェディックは銀の巨人に向かって剣を振り上げた。
半刻後、大地の精霊の加護を受けた勇者グランフェディックの剣がMP枯渇ギリギリで三体の銀の巨人を屠ることに成功した。
読んでいただいてありがとうございます。すみません……次回更新は少し空いて12月8日(土)の予定です。当日、何回か更新できたらな、と思っています。




