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ダンジョン編-31


 剣の振り方を見ただけでフィオレはわかった。

 目の前のこの少女は剣を学んでいない。

 どちらかというと打撃武器の専門家だ。だが、そうであっても危険であることは変わりはない。剣は刃物である前に金属なのだ。つまり打撃武器として使うことができる。


「……名前を聞いておくわ」

「ユーイン」


 背後でため息の声が聞こえた。


「……何か言いたいことがあるの?」


 振り向きもせずに訊ねたフィオレに、ため息をついた張本人であるデルトナが逆に聞き返した。


「その人物が誰か知っているのですか?」

「知るわけないわ」

「少し世情にも目を向けた方がいいですよ。先日お目にかかりましたが、彼女は勇者パーティの一人で『奇跡の巫女』です」


 なるほど。それで魔王か。魔王と互角に戦った勇者パーティの一人。だが。


「それがどうかしたの?」

「強敵だ、ということですよ。そしてもし期待しているのなら言っておきますが、私のバオガイオーは事情があって出せません」

「だから?」


 次の瞬間、武器と武器の凄まじい交錯が起こった。

 一瞬で、三回切り結んだのだ。

 会話の途中のわずかな気の緩みを付いて仕掛けたフィオレの振り下ろし、切り返し、最後の突きを、ユーインが剣と剣の腹を使って弾いたのだが、一瞬過ぎて周りの誰も動きを把握できなかっただろう。

 直後にユーインがフィオレに向かって前蹴りを放つ。

 それをフィオレが躱した。

 ユーインは追撃しようとして、だがすぐに真横に大きく飛んだ。

 横からのデルトナの攻撃を察して避けたのだ。

 充分距離を取ったあと、


「……余計なことをしないで」

「それはこっちのセリフですよ。用事があるといったでしょう? 私は先に進みたいのです」

「殺すわよ」

「争いはあとにしませんか?」


 突っ立っていたユーインが、


「……面倒」


 そうつぶやくと剣を降ろして突然デルトナに向かって無造作に歩き出した。

 デルトナが少し慌てて切りつけるために剣を振りかぶる。

 そのデルトナの懐にすいっと入り込んだユーインは、デルトナの剣を持つ腕に軽く手を添えた。その瞬間、くるりとデルトナが回転し、


「グハッ!」


 デルトナが背中から床に叩きつけられた。

 その技を見て、フィオレは驚愕した。

 似ていた。

 武神の技に。

 デルトナが跳ねるように立ちあがる。

 だが立ち上がるとほぼ同時に再び、


「グハッ!!」


 足を払われ一回転し床に今度は顔面から叩きつけられた。

 それだけでなく、背中をどんと踏みつける。

 容赦がない追撃にデルトナが肺の呼気を全て吐き出してそのままあっさり意識を失ったようだ。

 弱い。デルトナは確かに自慢の魔甲に頼りっぱなしで冒険者の中ではさほど強くなかった。

 だが、それにしてもここまで弱かっただろうか。

 もしそうでなく、でもそのように見えるのだとしたら、ユーインが強い、と言うことだろうか。

 ユーインがこちらを向いた。


(来る……!)


 フィオレが身構えた瞬間、地面が揺れた。先ほどから続く原因不明の地震だ。


「あ……」


 建物に影響はなさそうなごくごく小さな地震になぜか驚いたように立ち止まったユーインがぽつりと、


「間に合わなかった」


 ユーインの言葉を最初フィオレは理解できなかった。わかっていることは目の前の勇者パーティの一人だという少女がデルトナというそれなりに強い相手を一蹴するだけの技術を持っていること。そしてその技は武神から習ったそれに近いこと。

 フィオレは強敵と相対していると言うしびれるような感覚の中、その強敵を蹂躙するために集中しそして、三十秒後にユーインの言葉を強制的に理解させられた。

 三十秒後にそれ(・・)が現れたからだった。

 それとは銀色の身体を持つ化け物。

 攻撃のみにしか使えない六本のカマキリの様な腕と、山羊のような足を持つ怪物。

 カマキリの鎌は捕食のためである。だが、銀色のそいつは口がなかった。従って、その腕は食べるためではない。

 殺すために存在する腕だ。

 奥に続く通路からヌッと姿を現したそいつは、全身が金属でできていた。武器を寄せ集めた様な、およそ生物らしいさを感じさせない姿形で、魔族でさえないが、フィオレはそれに近い存在を知っていた。

 ダンジョンに発生するガーディアンである。

 だが知っているガーディアンは全て人間とほぼほぼ同じサイズだった。

 一方、目の前にいるのは成人男性の三倍近い大きさである。

 腕の位置に付いている鈍色の鎌もその分大きく、一撃で家を破壊しそうな凶悪ささえ感じさせる。そもそも通常サイズのガーディアンも強い。金属であるため、斬撃や炎魔術に強い耐性を持ち、騎士が三人いてようやく互角に戦うことができるようになるほどだ。それがこの大きさになればそれはもはや魔物に等しいのではないか。

 魔物とは一軍が対応すべき存在だ。

 だが戦わなければならない。そもそも自分は強くなるために強敵を求めているのだ。その意味で、またとない相手ではないか。

 フィオレは剣を構える。

 巨大ガーディアンの銀色の頭部には小さな紅い光が一箇所輝いており、眼だと思われるその光が明滅し、そしてその直後、巨大ガーディアンは鎌を振りかぶった。

 その場にいた全員の動きが止まった。

 フィオレも瞬間迷った。

 自分は避けることができるだろう。避けてそのまま巨大ガーディアンに攻撃を加えることもできるかも知れない。

 だが、部下達はどうだ。この部屋にいるほとんどの人間はあの鎌の攻撃範囲に入っている。

 このまま鎌が振り下ろされれば、部下達に死人が出る可能性がある。

 ではどうすればーー。

 フィオレの迷いをあざ笑うように鎌が振り下ろされた。

 フィオレが舌打ちしその場にいたほとんどの人間が本能で死を覚悟したその瞬間、風のように飛び込んできた謎の影が、手にした剣でその鎌を受け止めた。

 金属と金属がぶつかり合う凄まじい音が響く。

 怪物の力で振り下ろされた鎌を、その影は細身でありながら、まるで根が生えているかのように、受け止め微動だにしなかった。

 さらに、出口の方から声が届いた。透明感がありひどく耳障りのよい女性の声だ。


「対ガーディアンは大地の精霊の支援が効果があります! むしろそれ以外は効果がありません」

「わかりました!」


 返事の直後に高速詠唱が行われ、巨大ガーディアンの攻撃を受け止めた影の背後に、ロックゴーレムに似た大地の精霊が浮かび、そして大地の力が剣に宿った。

 一閃。

 たったそれだけで巨大なガーディアンが上下に両断され、ガーディアンの巨大な上半身が地響きを立てて床に落ちたあと、残った下半身も力を失ったように頽れた。


読んでいただいてありがとうございます。次回更新は2日(日)の予定です。

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