ダンジョン編-30
それが囚人だったらフィオレはその声の主ごとなぎ払ったであろう。
だがどう見てもそれは少女だった。
何でこんなところにいるのか想像さえできない神聖教団の尼僧の服を身に纏った僧侶。
「って、なんでここにいるんだ!? おい来るな! ここは危険だ!!! オーバン、連れて行け!!」
少女の声に振り返った囚人のリーダー格が、慌ててそう言った。どうやら彼はケイモという名前らしい。さらに趣の違う青年の名はオーバンだとわかった。
とりあえず少女を巻き込んでしまう『鞭』をやめ、『剣』へと形状を変える。
一方、オーバンはケイモの命令に、キョトンとした顔で、
「危険……どこがですか?」
「って、あの巨乳おばさんに決まってんだろ!!」
巨乳おばさん呼ばわりにフィオレはイラッとするが、ケイモの言葉にもオーバンは当惑を深くするだけだ。
そして、一言。
「……魔王より?」
「あ」
何かを悟ったようにケイモが呆けた。
フィオレは訳がわからなかった。どういうことだ。なぜここで魔王が出てくる?
尼僧の服を着た少女は、フィオレをチラリと見た。頭部まで含めて全身が硬化された鎧に包まれた控えめに見ても怪物を明確に認識し、にもかかわらずそのまま何事もなかったように、
「ケイモ、ザンエが呼んでる。来て」
「ちょ、ちょっと待て」
イラッとした。なぜかはわからない。
「ちょっとお待ちなさい。いま大切な決闘の途中なの」
「そうなんだぜ!」
少女はもう一度フィオレをちらっと見た。
それだけだ。
それだけで、三度何事もなかったようにまたケイモの方を向いて、
「いいから来て」
「ブッッ殺す!!!!!!!!!!」
無視されてぶち切れたフィオレは叫ぶと同時に剣が速度のために歪んだように見える一撃。
いっさいの手加減はない。剣術ランク8でレベル62が放つ全力の一撃。
フィオレが放ったそれを少女は当たり前の様に弾いた。
高周波の衝撃音が建物内を吹き荒れる。
フィオレは驚愕しながらも大きく跳躍して距離を取った。
衝撃を受けているフィオレを前に、少女は手をぷらぷらさせながら、
「手がしびれた」
普通なら見えるはずのない速度の剣の腹の部分を叩いて軌道を変えた、と言うことだろう。
勘でやったのか、それとも恐ろしく動体視力がいいのか。
いずれにせよ、強い。
だが、武神様ほど圧倒的ではない。
手を伸ばせば届く距離だ。
「……面白いわね」
フィオレは剣を構え直した。
思わぬ強敵との遭遇。
人生はこれだから面白い。
少女は、ケイモに近づき、ケイモが持っていた剣をあっさりと奪い取ると、それを二度ほど振ってからフィオレの方を向いた。
「邪魔するなら相手する」
読んでいただいてありがとうございます。次回更新は30日(金)の予定です。




