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ダンジョン編-25


 訊いては見たものの、もちろん痛いところなどないだろう。奇跡の乙女の呼び名は伊達ではないのだ。ユーインの治癒魔術はそれほど完成度が高い。

 

「あの……ここは……」


 男は不思議そうに周囲を見回す。状況がわかってないようだ。

 ザンエ司教は相手に不安を感じさせないため、笑みを浮かべたまま、

 

「お名前をお伺いしてもいいですか?」


 と訊ねた。


「シュタフと言います」


 状況がわかってないようだし、そうである以上隠す意図を持つ必要も無いだろうからおそらく本名だ、と思ってからザンエ司教は考え直した。冷静に考えてみればこの場所にいるのだから、目の前の愛想は悪いが整った顔立ちの青年はそうは見えなくても犯罪者なのである。しかも死刑に匹敵する場所に送られるような。絶対気を許さないようにしよう、とザンエ司教は心の中で考えた。

 シュタフと名乗った青年は、見知らぬ場所、見知らぬ人に不安を覚えた表情で、周囲を見回し、それから何となく、と言った雰囲気で隣に寝かされているこちらはどう見ても小悪党にしか見えないもう一人の治癒済み患者を見た。

 その瞬間、シュタフの表情が変わった。色々思い出したらしい。眠ったままのもう一人の患者に素早く近づいて状況を確認し、そのあと自分の身体も触って確認する。

 おそらく怪我が治っていることを確認しているのだろう。

 それから難しい顔をして、先ほどとはまるで違う厳しい顔で周囲を見回し、


「……ここはどこですか!?」


 改めてザンエ司教に訊いた。


「きょ、強制労働ダンジョンで作業部屋と呼ばれている場所のようです」


 思わず答えていた。シュタフは何度か頷き、それで納得したようだった。それから鋭い目でザンエ司教を見た。


「……あなたは?」


 ザンエ司教は慌てて、


「ザンエと言います。神聖教団のベレスティナ王国王都区の司教です」


 シュタフには不思議な威圧感があってつい答えてしまうのである。

 ザンエ司教の答えに、シュタフは少し驚いた顔で、ザンエ司教を上から下まで見た。ザンエ司教が祭服を着ていることを確認したようである。確かに罪を犯した司教であれば、立場を奪われるわけで、祭服を着ていることは筋が通らない。身分の証明になってよかったと心の底から思った。


「……現役の司教ですか?」

「はい。現役の司教です」

「そのような方がなぜここに?」

「私も聞きたいくらいです。視察のために来たはずなのですが……」


 シュタフがため息をついた。


「問題が発生したようですね。でも、安心してください。責任を持って必ず外へお連れします。申し遅れました。私は王国の監査官です。この強制労働ダンジョンには大きな問題がある。是正しなければなりません。その際、証人として証言を求めることもあるでしょうが、協力をお願いできますか?」

「は、はぁ」


 ここに問題あるのは間違いがない、とザンエ司教は内心で大きく頷いた。


「とにかくダンジョンを出てみましょう」


 そう言いながら立ちあがる。

 思わずザンエ司教も一緒に立ちあがり、自分に染みついた下っ端根性が少し情けなくなった。

 シュタフは立ちあがってすぐに立ち止まった。


「……振動がありましたね」


 何かを確かめるように床を見ながらシュタフが言った通り、足下から小さな振動が伝わってきたような気がした。

 とは言っても定期的にこの振動はある。


「なんですかね……上で戦闘が行われているようなのでが、それと関係があるのか……」

「……」

「そういえば、治癒魔術を使えるのですか?」

「……どういう意味です?」

「私もこの男も半死半生の怪我を負っていたはずです。それがきれいに治っていますから」

「ああ、いえ。私ではありません」

「それではどなたが……囚人達の中に治癒魔術の使い手がいるとは思えないのですが」

「ああ、はい。ここの囚人ではなくーー」


 そこへひょっこりまさしく治癒魔術の使い手が顔を出した。ダンジョン探索から戻ってきたらしい。


「ちょうどよかったです、ユーイン様、こちらシュタフ殿。王国の監査官とのことです。そしてシュタフさん、こちらは、あの(・・)勇者パーティの一員にして奇跡の巫女であるユーイン様です」


 少し自慢げになってしまった。ユーインはそれほどの有名人だ。魔王と戦って平和協定をもぎ取ってきた英雄の一人なのだから当然でもある。

 実際、シュタフは驚いた顔をした。

 ユーインは小さく頷いただけで、扉のところに立ったまま、


「ヤジットはまだ起きない?」

「まだMP切れからは目覚めてないようですが……」

「そっか」

「どうかされましたか?」

「この子がヤジットを探してた。おいで」


 そう言ってユーインが中に入ってくる。

 ユーインに続いて作業小屋に入ってきた『相手』を見て、ザンエ司教は固まった。

 現れたのはボロ切れを服のように身体に巻き付けているがどう見ても人間ではなく、だが人型で、そして全身が銀色で、というか色ではなく、全身が金属でできていて、つまり人ではない何かだった。

 その何かが流ちょうな言葉で言った。


「あの……そろそろやばそうなので、ヤジットさんに頼みたいことがあってきたんですけど……困ったなぁ、彼、寝てるんですって? ほんとは僕、第一層なんかに来ちゃ行けないのに……」

次回更新は22日(木)の予定です。

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