ダンジョン編-24
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ザンエ司教は今は何時くらいだろう、と思った。
ケイモたちが出て行っておそらく三十分ほどたっただろうか。
強制労働ダンジョン内の作業部屋、らしいところにいるのだが、実は何もやることがないのである。
ユーインは相変わらず壁際で哀しげに酒樽を撫でているだけであり、ユーインの目的であるヤジットという神だか人だかわからない相手も、それ以外の二人もまだ起きない。ヤジットはともかく、残りの二人は身体的には回復しているので、しばらくしたら目を覚ますだろうが、精神的なダメージもあり休息を必要としているのだろう。
なのでザンエ司教は一人ぼんやり待っているだけなのである。
実はザンエ司教は狭い場所が余り得意ではない。子供の頃、厳しい教育係に罰として納戸に閉じ込められて以来、狭く暗い場所にいると根源的な不安を覚えるのだ。だから出て行きたいのはやまやまだが、そういうわけにもいかない。なぜならばザンエ司教はエドゥアルト枢機卿からユーインの世話を頼まれているわけで、放り出して出て行けば何を思われるかわからない。さらにやむを得ない事情で囚人達と一緒にこんな場所にいるが、そもそもここは監獄である。全てが解決したとして、本当にここから出ることはできるのか。考えれば考えるほど不安は増してくる。
ザンエ司教にとって全ての元凶とも言えるユーインをちらっと見た。ちょうどユーインが酒樽を撫でるのに飽きたのか立ちあがったところだった。
何をするのかと思うと、作業部屋の奥に作られたヤジットのための『祭壇』に近づき、そっとその寝顔を覗き込む。しばらくそうしていたかと思うと、おもむろにヤジットの鼻を右手で鼻孔をふさぐようにつまんだ。
(……?)
息苦しくなったのか、先ほどまで閉じていたヤジットの口が開く。無意識の行動だろう。
その口もふさぐようにユーインが左手で押さえた。
ヤジットの呼吸が止まった。
「ちょ、ちょっと! 何をするんですか!?」
慌てて駆け寄ってユーインの手を外させた。ヤジットの呼吸が戻る。よかった。死んでない。
ユーインはキョトンとした顔で、
「起きるかもしれないのに」
「その前に死にます! MP切れはそんなことでは起きません!!」
「そうなの?」
「そうなのです!」
ずーんとショックを受けた顔でユーインがとぼとぼとヤジットから離れる。
そして、酒樽を素通りして、作業部屋の出入り口に向かう。
「ど、どこへ行くつもりです?」
「暇だからダンジョン探索」
「そ、それは……」
ザンエ司教は司教であり、戦闘力は皆無である。
そして強制労働ダンジョンは、それ自体が刑として使われるほど危険な場所だ。
とても同行はできない……。
ただ、ユーインは勇者パーティの一人であり、戦闘力には定評がある。
「あの……私はご一緒した方が?」
恐る恐る聞いてみた。
「いらない」
ユーインはそのまま振り返りもせずに出て行ってしまったが、ザンエ司教は心底ホッとしていた。
こんなところで何でこうなってしまったのか良く分からないような状況で死ぬのは御免被りたいのである。
生きている幸せを噛みしめていると、人の気配があって振り返った。
ちょうど、ユーインが治療魔術で治療した怪我人のうちの一人の意識が戻ったらしい。
ザンエ司教は聖職者の笑みを浮かべて、穏やかな口調で語りかけた。
「目が覚めたようですね。どうですか? どこか痛いところはありますか?」
目を覚ましたばかりの男がザンエ司教の方を向いた。
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