ダンジョン編-18
ユーインの魔術によって呼び出された聖霊の大きさは成人男性の1.5倍程度。低い天井のせいで前屈みになっているが、上から下まで真っ白な姿は神秘に満ちている。おそらく中から発光しているのだろう、白よりも白く感じられた。女性を模したと思われる仮面を被り、鎧と布が組み合わされたような服を身につけている。
聖霊を従え、治癒魔術を使える人間は少ない。そして基本的にその術者は神聖教団内に限られる。したがって聖霊の姿を見る機会などない。ケイモも初めての経験だった。
初めて見る聖霊は圧倒的な神々しさだった。
聖霊は、精霊とは異なり「神」の代行者とされている。天使よりも上の存在だ。そのせいで生き物的に見える精霊とは異なり、魔甲のような姿なのだ、という。
聖霊がトンミと、よく知らないもう一人の上に覆い被さるようにして、息を吹きかけた。
ゆっくりと傷口が消え、か細かった息が徐々に普通に戻る。
仕事を終えた瞬間、聖霊は溶けるように消え始めた。
ユーインは消えゆく聖霊に向かって手を振った。周りはまだ固まったままだ。
聖霊は完全に異次元に帰還した。
「これでいい?」
ユーインの言葉にケイモは口をパクパクさせるだけで答えられなかった。
沈黙のあと、オーバンが絞り出すように言った。
「……その大きさの聖霊様を呼び出すとは……あ、あなたは……ま、まさか奇跡の巫女?」
「……」
「その通りです」
返事をしたのは先ほど傷ついていた様子だったザンエ司教がった。なんだか自慢げだ。
だがそれよりも……奇跡の巫女?
その名前はケイモも聞いたことがあった。確か治癒魔術の天才で、アリオン女神の生まれ変わりと喧伝されていた少女だ。そして、何よりあの勇者パーティの一人だったはずである。
ケイモは衝撃を受けた。
だが、なるほどと思った。だとしたらあの強さは納得がいく。勇者パーティはただの人類最高峰の戦力、というだけではない。突出した存在だ。人類の強さを山で表すとその頂上にいるのではなく、山のはるか上空に浮かぶ雲だ。魔王と戦う、というのはそれほど困難だ、ということだ。
すげぇ。さすが神様だ。すごい大物と知り合いだ。
改めてヤジット様に感動する。
くどくどと奇跡に巫女とを神聖教団について説明を始めたザンエ司教の袖をユーインが引っ張り、
「いいからヤジットを見て」
ケイモはユーインの言葉にイラッとする。
「だから様をつけろって言ってんだろうが!」
喧嘩に巻き込まれる前に、と思ったのだろうか、ザンエ司教は、
「あ、はい。すぐに」
といって、鑑定魔術を使った。天使バササエルが呼び出される。バササエルに限らず、天使の姿は異様な生物だ。昆虫と人間を混ぜたような造形をしている。
それが何を示したのかわからないが、
「あ、わかりました。この方はMP切れみたいですね」
「……もう一度聖霊を呼ぶ」
「え? 意味ありませんよ? MP切れは聖霊の治癒でも効果ないです」
ユーインがすごく驚いた顔をした。それから、
「……ほんとに?」
「ほんとに」
ザンエ司教が慰めるように、
「待つしかないのです」
ユーインが肩を落とす。
「そっか……どれくらい待てばいい?」
「さて……半日か丸一日か。MPの回復速度は一定でもMPの総量は人によって違いバラバラですので……」
ユーインがとぼとぼと作業部屋の隅に置かれた酒樽のところに行きそれを哀しそうに撫で始めた。その姿を痛ましそうにザンエ司教が見守り、そのザンエ司教に向かって恐る恐るオーバンが、嫌がるヒネクの腕を掴んだまま、
「あの……この人も鑑定していただけないですかね?」
「今それどころじゃありません。見てわかりませんか?」
またオーバンとザンエ司教の口論が始まってケイモはうんざりした。
次回更新は11月8日(木)の予定です。ただし、今朝起きたら鼻の奥が痛くて風邪を引いた予感……! 次回、更新ができるかできないかは……乞うご期待!




