ダンジョン編-14
見慣れぬ衣装を着て酒樽を担いだ少女は不機嫌そうな表情で立っている。
いや、確かあれは神聖教団の僧侶の服だったか。
だとしたら神聖教団の僧侶がなぜこんな場所にいるのだろう、とケイモは疑問に思った。さらに言えば酒樽を担いでいる理由もわからない。何もかもが分からない。
少女の背後には神聖教団の高位司教と思われる人物もいて、こちらは少女の影に隠れながら自分たちに怯えているように見えた。
司教の方が立場も年齢も上に見えたが、ニコラは高位司教の方は無視して、少女一人を怯えた目でにらみ付けている。
となると、ニコラを投げた敵は目の前のどこか据わった目をした美しい少女、ということになるのだが--。
そこでケイモは首をかしげる。
こんな少女にニコラは投げ飛ばされたのだろうか。
しかも樽を担いでいる以上、片手で、ということになる。
ニコラの半分ほどの体格で、大男のニコラを片手で投げ飛ばす、ということは可能とはとても思えなかった。
「……えーっと、あいつがやったのか?」
ニコラが驚愕の顔で振り返った。
「ケ、ケイモさん!? 見てただろうが! こいつは化け物なんだよ! 見た目通りじゃねー」
「そうは言ってもよ。信じられねーよ」
言い合うケイモとニコラに対して、少女はただ一言。
「ゴチャゴチャうるさい」
なんだかカチンときた。
考えてみれば、神聖教団は女神アリオンを信奉する集団だ。つまりヤジット様を信奉する自分たちの敵である。
ケイモは額に青筋を立て、少女に向かって武器を構えた。
「……てめぇ、今なら見逃してやるが、俺たちの邪魔するならぶっ殺すぞ」
少女は樽を抱えたままじろりとこちらを見て、
「できないことを言うな」
「じゃ、邪魔する気だな。なら勘弁しねぇ。あとで泣くんじゃねぇぞ!!」
ぶっ殺すといったものの、正直言ってケイモにもそこまでの気持ちは無く、単に脅せばいいだろう、と軽く考えていた。
ケイモは看守が放棄した武器の中から拾ってきた大剣を大きく振りかぶり、そのまま少女に叩きつける。
ギリギリで止めるつもりだった。だが勢い余った。
このままだと止まらない。
ヤバい。
冷や汗が一気に出る。
背筋が凍った。
殺してしまった凄惨な未来予想図が頭の中に浮かぶ。
だが、次の瞬間、少女の頭を割るはずだった剣は、少女の頭に触れる直前にもぎ取られた。
「……全然遅い」
ケイモは状況が理解できず、空っぽになった両手を見て、
「……は?」
少女は片手で奪い取った剣をそのまま木の枝でも折るように片手でへし折った。そして床に投げ捨てる。
剣であったものと床がぶつかって間が抜けた音が鳴った。
「な、なにしやがったてめぇ! さ、さてはてめぇ魔術師かなにかか!?」
「うるさい」
そこではじめてケイモは気づいた。
そうか。マジでこいつがニコラを片手で投げ飛ばしたのか。
恐ろしいほどの膂力である。見た目通りのただの女の子の訳がない。
ダンジョンの最終防衛機構か。
あるいは、ヤジット様に対抗する女神アリオンの刺客か。
「く、くそっ! ダメだ。俺だけじゃ無理だ。全員呼んでくれ!! あいつは多分、ここの最終兵器だ!! あいつを倒さなければ俺たちに未来はない!!」
「おう!」
ケイモの命令にニコラが大声で仲間を呼びかけながら走り出す。
少女の背後に隠れていた司教がおっかなびっくり、
「ユーイン殿、だ、大丈夫でしょうか?」
ユーインと呼ばれた少女が平然とした態度で答えた。
「大丈夫。何の問題も無い……雑魚」
「な、ならいいのですが……」
「ふぅ。これじゃあ、お酒を作ってもらうまでもうちょっとかかる」
そう言って、ユーインは酒樽をようやく床に降ろした。
余りに余裕の態度にケイモは震えた。
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