ダンジョン編-15
そこから始まったのは一方的な制圧だった。
ケイモの呼びかけでこの部屋に集まってきた囚人たち総勢六十四人がユーインに向かって行っては、人形のように投げられることの繰り返し。
二人でかかっても三人でかかっても結果は一緒である。
素手のユーインに対して囚人たちが振るった武器がユーインに当たる直前に何をどうやったのかくるりと視界が入れ替わって気づいたら床に叩けつけられているのである。
ケイモは二十五回投げられた。
囚人の中では一番数が多かった。
すでにまともに立っている囚人はいない。
全員、地べたに這いつくばるか、気を失っている。死屍累々と言った有様だ。
息を乱しもせずに立っているのはユーインただ一人。
ケイモも打ち身であちこちが痛く、身体全体がガタガタでまともに立っていることもできなくなっていたが、それでも震える足を拳で殴って無理矢理立ち上がった。
そして、ユーインを睨みながら叫んだ。
「お、お前なんかに! お前なんかに俺たちは負けるわけにはいかんのだ!!」
ケイモは恐れていた。
ここを突破されればあの凶悪な少女がヤジット様が寝ているところにたどり着いてしまう。
これほど強力なアリオン女神の使徒が、ヤジット様の存在を許すとは思えなかった。
ヤジット様が斃されること。
それは絶対に認められなかった。。
自分たちの夢のため、死ぬのは悪いことじゃない。
新しい神。そして新しい国。それらを脳裏に浮かべた。少しだけ力を取り戻した気がした。
多分、自分たちはこのときのために生まれてきたのだーー。
「野郎ども!! 俺たちは死んでもかまわねぇ! どうせゴミみたいな命だ! だがよ! それでも絶対にヤジット様を守るぜ!」
ケイモの魂の叫びに囚人たちもボロボロのままよろよろ動き始める。武器をつかみ、必死に立ち上がろうとする。
彼らもまたヤジットに対して信仰に近い思いを抱いていたのだ。学がない分、その思いは純粋だった。彼らは気力だけで動いていた。
絶対にヤジット様を護る。
彼らの想いは今、一つになった。
一方、ケイモの叫びを聞いたユーインは、
「……ん?」
と首をかしげた。
「ヤジット?」
ユーインのつぶやきに、ケイモは絶望と感動が入り交じった良く分からない涙を流しながら、
「気安く名を呼ぶんじゃねぇ!!」
「呼ぶんじゃねぇ!!」
囚人達も唱和する。
ユーインは気にした様子もなく、
「……ヤジットの知り合い?」
「様をつけろ!! ……ヤジット様はな! 俺たちを救うために来てくれた神様だ!! 馬鹿野郎!!」
ケイモの言葉にユーインは頷いた。
「なら友達」
「…………へ?」
「ヤジットは友達。その友達も友達ってヤジットが言ってた」
ユーインは無造作に近づくと、棒立ちになったケイモの手を握りぶんぶんと振って、
「はい。仲直り」
訳も分からずケイモは立ち尽くしている。
ユーインは話は終わったとでも言うように力尽きて倒れている囚人たちを見回し何事もなかったように
「殺さなくてよかった。危なかった。少し面倒になってた」
それから酒樽のところまで戻ってそれを担ぎ上げ、
「これをヤジットに作り直してもらう。あいつ、どこ?」
訳が分からねぇ。
呆然と立つケイモはそれだけを考えていた。
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