ダンジョン編-13
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三の門を突破したケイモは、すべては神の導きだ、と思った。基本的に学がないケイモだったが、感謝を示すために伝え聞いた祈りの仕草を行った。つまり地面に座り、神がいるはずの方角に向かって拝礼。
ケイモを信頼し、ケイモの蜂起に付き合ってくれた囚人たちも一斉に同じ行動をとった。
ケイモは神に深く感謝を捧げ、それから立ち上がる。
振り向けばまだ皆は伏せたままだった。
仲間も皆理解しているのだ、と思った。神の導きがなければ、こんな風にはできないはずだ、と。
一の門も二の門も力尽くで開けることができた。人の力では開けられないように作られたはずの門なのに、あっさりと突破できた。一の門にいたってはケイモ一人の腕力だけで開いたのだ。まさしく奇蹟。三の門でようやく武装した看守たちと戦闘になったが、ボロボロの剣を振るうと面白いほど看守たちは吹っ飛んだ。恐ろしいはずの看守たちが全く敵ではなかった。
繰り返しになるがすべて神のおかげだ。
そもそも、この世界は暴力が全てだ、とケイモは思っている。
ケイモはスラット村の村長の長男だったが、甘やかされて育ったせいかかなり乱暴者だった自覚がある。
同じ年頃の村の子ども達を従え、村の畑から野菜を盗んだり女の子をからかったりといった悪戯は一通り行ったし、隣村の子ども達との死人が出るような暴力沙汰までやった。
おそらく人の上に立つこと、ということを学ぶ期間だったのではないか、と今は考えている。父親は必要と思い許していたのだ。実際、盗んだ野菜は父親が弁済し、からかった女の子の両親にも謝罪していたとあとで聞いた。
だから実感としてわかっている。
暴力は強い。
暴力を持つ者が、暴力を持たざる者を支配する。
今にして思えば村長であるケイモの父親も、複数の郎党を従え、常に暴力をちらつかせて村を支配していた。そして父親よりも強力な家士団という暴力装置を持つ領主は、その力で反抗を押さえ込み、自分に反抗的なケイモたちを捕らえここに強制的に送りつけた。これも暴力の力だ。強制労働ダンジョンではもっと露骨で、ピカピカの武装を手にした看守達が、ボロボロの錆が浮いた武装の囚人達を暴力で支配していた。
そしてケイモはその全てを当然のこととして受け入れた。
世界は暴力によって上下が分けられている。
暴力を跳ね返すのは暴力のみだ。
暴力によって強制される最終的な屈服は、死そのもの。
それが世界の真理だからだ。
だが、それが変わった。
世界の真理を変えるのは神である。
逆に言えば真理を変えた存在がいたら、それは神なのだ。
強制労働ダンジョンに現れた神はさえないおっさんの姿をしていた。
だが奇蹟の力を持っていた。
押しつけられたあらゆる不自由を、おっさんの姿をした神は排除した。死さえも。
紛う方なき神。
おっさんの姿を思い浮かべ、ケイモはもう一度深々と頭を垂れた。
神がついていれば自分は無敵である。
自然と溢れてくる自信を胸に、周囲を見回した。
ケイモたちは看守達が詰める詰め所にいた。
残る門はふたつ。
一気に突破しようかと瞬間思い、それからその行動を否定した。
何しろ神はまだダンジョンの中におられるのだ。これ以上、神と離れて万が一その神秘の力が途切れてしまえば元も子もない。
看守達は四の門の向こうに撤退した。
ここを拠点にして、いったん体勢を整えよう。
ここには詰め所があり、看守達が放棄していった武器も防具もある。
食料もわずかだがあるようだ。
ケイモはもう一度周りを見回した。
「……神様もここでお休みいただくかなぁ」
ダンジョンの中よりは良い気がする。
何より、前線に近い方が皆の士気も上がるだろう。
「……いいッスね」
と片腕のロルフがケイモの意見を肯定した。さらにその横でフゴも頷いている。
「よし。そうとなりゃ、地ならしだ。四の門の手前までを確実に俺たちの管理下に置くぞ。万が一にも看守達が隠れて残っていたら面倒だ。神様にみっともないところは見せらねぇ! 伏兵に注意しながら、しらみつぶしにしろい!!」
囚人達がケイモの方を見て、力強く頷いた。
そしていっせいに動き出す。
最初に決めたとおりに二人で一組。隣村のガキとの争いの中で気づき、ガーディアンとの終わりなき戦いの中で確立した基本戦術だ。それが役に立っている。
慣れた彼らの動きは迷いがない。
頼もしい奴らだ、とケイモは思った。
わずか六六人だがまるで全員伝説の英雄のようだ。
ふと思いつく。この強制労働ダンジョンを起点に、新しい国を作ったらどうだろうか。
思いついたら、素晴らしいアイディアに思えてきた。
ヤジット様を中心とした新しい国。
神と六六人の英雄によって序列が整えられた正しい国。
ケイモが領主に捕らえられたときにひどくショックを受けていた親父もそんな国が出来ればきっと喜んでくれるだろう。
いい。実にいい。
ケイモは国の名前を考えようとして、学がないため思いつかず、ちょっと悔しい思いをしながら、あとで神様に聞くことにした。神様ならきっと素敵な名前を付けてくれるだろう。その素敵な名前の国では誰もが幸せに暮らすのだ。塩のきいた肉入りのスープを毎日食べて、たまにはワインを楽しむのだ。
ケイモの夢想を破ったのは、向こうの部屋からケイモの足下に投げ込まれた囚人の姿だった。
床に落ちてうめき声を上げる。
確かニコラと言う名前の力自慢の人殺しだった。
その大男が人形のように部屋に投げ込まれたのだからケイモもひどく驚いていた。
床と鎧がこすれる騒々しい音を響かせたあと、ニコラは慌てて起き上がり、まず飛んできた先を見やり、それからケイモを見て、
「待ってくだせぇ。まだやれます! あんなガキに……!」
ニコラは取り落とした武器を持ち直し、再度扉の方に視線を向けた。
ニコラの視線の先にいたのは、見慣れない衣装を着た少女だった。その少女はなぜか酒樽を担いでいた。
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