ダンジョン編-5
ダンジョンに作られた快適かつ安全な作業部屋から出てダンジョンの奥を眺めていた片腕のロルフが、扉を開けて作業部屋に向かって叫んだ。
「おーい、ヤジットさんが帰ってきたぜ! 出迎えろ!」
その言葉を合図に皆作業の手を止め立ちあがってぞろぞろと作業部屋を出る。
この一週間で何となくただ一人ガーディアン回収業務を行っているヤジットを皆で迎える習慣が出来ていた。
ヤジットはいつも第一層の通路には大きすぎる三号を二層の広間に置いて、袋に入ったガーディアンを一人で引きずってくるから、運ぶのを手伝う意味もあった。何しろガーディアンは金属だから重いのである。片腕のロルフは片腕というハンデのため仕分け作業がうまくできないため、ヤジットの帰還を知らせる役を買って出たのだ。
彼は基本的にヤジットがいつ帰ってきてもいいように作業部屋の外で待つ。盗賊だった片腕のロルフはダンジョンの薄暗がりの中でも、ヤジットを見逃さない。
今日もすぐにヤジットに気づいた。だが何となく様子がおかしかった。シルエットが違うのだ。
不安を感じながらも駆け出したロルフはある程度近づいてからギョッとした顔で立ち止まった。
ヤジットが背中に誰かを背負っていると気づいたからだった。
さらにその誰かがダンジョンの薄明かりの中でも血まみれだとわかり、
「っておい、大丈夫か?」
慌ててその血まみれの身体を受け取って、
「そこ空けろ!」
別の人間の手も借りて、急ぎ作業部屋にスペースを作り寝かせた。
怪我をした様子のそいつは、顔を見ると先日入獄したばかりのオーバンだった。ひどく弱々しい息をしている。
「助かったよ」
ヤジットは肩を鳴らしたあとすぐにオーバンの脇にしゃがみ、
「うーん」
とうなりだした。周りに囚人たちが集まってくる。
頬に傷がある囚人のリーダー格ケイモが難しい顔で、
「……どうしたんだ、こいつ?」
「三層くらいでガーディアンに襲われてたんだよね。なんとか間に合ったんだけど、怪我がひどくてさ。とりあえず応急処置だけして連れてきた」
ヤジットはケイモを振り返り、
「水と綺麗な布をもらっていいかな?」
すぐに渡された水と布で、オーバンの身体をぬぐう。
それで状況はさらにはっきりした。
ガーディアンは金属製の攻撃肢を持つ。それで刺されたり斬られたりしたのだろう。あちこちに傷があった。もっともその傷口自体はどういうわけか既に白く塞がっている。
一方、おそらく打撃で出来たと思われる複数の骨折。さらに口から血を吐いているから内臓にも損傷があるようだ。
あらゆる意味でとても助からないように見えた。
全員、その凄惨な様子に息を呑む。
彼らはもともと血なまぐさいことにも慣れているはずの死刑囚だが、この生活を続けなんとなく連帯感と人間らしさを取り戻しつつあり、そのことがよりこの状況を、仲間の一人が血まみれで倒れているという状況をなんとかしなければ、という気持ちにさせた。
ヤジットは首をひねり、
「うーん。傷がわからない状態で完全リセットだとMP足りるかな……」
良く分からないことを言う。
狐顔のトンミがハッとしたように周りを見た。
「仲良く……だよな。こいつも仲間だもんな! 俺、行ってくる! 薬とかもらってくる!」
「薬ってどこでだよ!?」
「看守なら持ってるだろ! 頼んでみる!!」
皆があっけにとられる中、狐顔のトンミは作業部屋を飛び出していった。
「行っちまったぞ?」
「……大丈夫か?」
「看守の連中が薬をくれるなんてないだろ……」
「でもまぁ試してみる価値はあるか」
ヤジット一人は首をかしげ、
「薬かぁ。薬でどうにかなるかなぁ。むしろ治療魔術とかだけど、無理だよなぁ。ここにユーインがいればいいんだけど……とにかくできるところまでやってみるか」
そう言ってヤジットは腕をまくった。




