ダンジョン編-3
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ダンジョンの中に入るようになって一週間。
俺は感動していた。
ダンジョン、マジですごい。
俺が三十年以上住んでいた村の近くには残念ながら、ダンジョンはなかった。
ダンジョンとは本来、生き物であると言われている。ダンジョン核と呼ばれる特殊な秘石に知性が宿り、それが地中で鉱石を食べながら育ったあと、『閉じられた世界』という名の神秘を手に入れて変質したものだと。
『閉じられた世界』を手にしたダンジョンはその体内に不思議な種族を発生させる。ガーディアンと呼ばれる戦闘種族と、クラフターと呼ばれる職人種族だ。クラフターはダンジョンが食べた鉱石を様々な武器や美術品に加工する。なぜそんなことをするのかは分からない。わからないが、
「餌じゃないですか? 人間を呼び込むための」
というのがダンジョンについて俺に説明してくれたダンジョンに詳しい奴の推測だ。
俺は首をかしげ、
「あれ? でも進化ダンジョンも別に鉱石を食うんだろ? え? 人も食べるの?」
「食べないですよ。美味しくないし。でも『世界』ってのは別の『世界』とやりとりが必要なんです。そういうものなんです。おじさんの先祖もそういうことでこっちに来たんでしょ?」
「ん? んんん?」
「あー。その辺は引き継いでないんですね?」
「よくわからんなぁ。悪いね、どうも俺、頭悪くてさ」
「そんなことはないですよ……多分」
「多分って!」
「あ、そこガーディアンがいますよ」
「おう。三号、頼む」
「ヴ」
三号が右拳を振るう。赤い目を持つ鳥型のガーディアンが一撃で打ち落とされ、転がった。機能停止したのか目の赤い光が消える。
「……一撃ですか、すごいなぁ」
「そうなんだけど、これだけ立派な魔甲だからさ、元の持ち主が困っているんじゃないかって思ってさ」
「気にしなくていいんじゃないですか?」
「そうもいかないだろ。人のものは返さないと」
「まぁ、そうですよね。人のものは返さないと、ですよね」
「そうそう」
「あーっと、僕、そろそろ時間なのでまた今度」
「おう。またな」
いつものように出てきたときと同じようにダンジョンに詳しいそいつは去った。
その背中がダンジョンの壁の向こうに見えなくなったあと俺は首をかしげる。
俺がいるところはダンジョンの二十二層。
二層から下はダンジョンはがらりと様相を変え、大人が三人並んで歩くのがやっと言う通路によって構成された『迷路』から、犬を走り回らせられそうな広間や、それこそ街がすっぽり入りそうな広大な空間まで色々様変わりをする。さらに植生や気温まで階層ごとに変化し、複数の『世界』を無理矢理つなぎ合わせたような、実に不思議な場所だ。
ダンジョンにやたら詳しい彼ーーあるいは彼女はこの『世界』のどこかに棲んでいるののだろうか。いつも聞きそびれてしまうが、ふらりと現れてふらりと消えてしまうため良く分からない。気がつくと隣を歩いて話しかけてきて、俺も暇なものだからつい話をしてしまう。
まぁ、どこの誰だろうがどうでもいい。
とにかくダンジョンは面白い。
俺はもうちょっと先に進んで見るべく、再び歩き出した。
前を三号が歩く。右手には大きな袋を持っている。袋の中身はこれまで退治したガーディアンだ。
三号のサイズだと、一層、二層の主に通路で構成された空間では窮屈に歩かなければならなかったが、二十二層にもなると基本はまったく問題ない。むしろこれがダンジョンなのか、と思うくらいの広大さだ。
地上では見られない不思議な木々も生えており、森を歩いている感じだ。
木々をかき分け、崖を越えて進む。
そして突然襲ってくる蛇型のガーディアン。
それを左フックの一撃で仕留める三号。
三号は倒したガーディアンをいそいそとぶら下げた袋に入れ始める。階層が深くなるにつれてガーディアンの身体も大きくなってきた。
あと三体くらいで袋は一杯になってしまいそうだ。
そうなる前に一度帰らなくてはならない。
三号が俺の方を向いて、「ヴ」と言った。
「ああ、そうだな」
と俺も答えた。
俺も気づいていた。足の下に小さな震動があった。心臓の鼓動のような低周波だ。十五層くらいからまれに感じる。そしてここ二日ほどその頻度が増えてきている気がする。
震動は消えたが、胸の内に宿った不安は消えなかった。
やはり一度戻った方がいいかもしれない。
俺は少しだけ残念な思いで、先を見た。
実は出来れば最深部まで行きたいと思っていたのだ。
まあ、いつかは最深部に到達するだろう。
俺はきびすを返して来た道を戻り始めた。
風邪引いて書き溜めがなくなりました! 次回の更新は……もしかしたら二日後かも……。




