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祝賀会場の隣の個室に二人の人物がいた。
個室と言ってもかなり広く、中の作りも贅沢だ。もともと身分が高い者用の控え室であり、今その部屋にいるのも祝賀会のもう一人の主役と言っていいエレナ王女である。パーティ用に着飾ったエレナ王女の背後にはエレナ王女のおつきの侍女であるフィッタも立っていた。部屋にいるのはその二人だけである。十七歳のエレナ王女に対してフィッタは二十一歳。七年前からエレナ王女つきであり、姉妹のように仲がよかった。
エレナ王女たちはその部屋で父であるザリューン二世を待っていた。そろってから会場に入る段取りなのだ。だが、一向に来る気配がなく、会場からは既にすっかり出来上がった気配がここまで届いてきていて、二人は何となく取り残されたような寂寞観を感じていた。
暇だから数えていたフィッタは十七回目の万歳のあと思わずつぶやいた。
「陛下は何をされているのでしょう……」
エレナ王女は行儀良く椅子に座ったまま、振り向いた。厳しく躾けられたエレナ王女は常に姿勢が良く、今も素晴らしく形がいい胸が前に突き出ている。
「……想像はついています」
「聞かせてください」
「ヤジット様の処遇を話し合っているのです。あろうことか私抜きで!」
最後のセリフは笑顔のまま凄みを感じさせるという王族らしい技であり、フィッタは思わずぶるっと震えた。
「な、なぜです? 姫様抜きでの話し合いなど今まで一度もなかったではないですか」
「それはもちろん、私がヤジット様への大公位の贈位を提案したからです」
フィッタは驚愕する。大公位は常設されてない貴族の最高位だ。名誉職であり、実際は極めて大きな功績があった王族にしか与えられていない。領地はないが莫大な年金がつく。
フィッタが固まっていると、エレナ王女は悪戯っぽい笑顔で、
「大公位だけではありませんよ。領地として直轄領からゼルディア東部を渡すことも提案しました」
「王国最大の穀倉地帯ではありませんか!」
「ええ。まず大公位で箔をつけ、それから実利をお渡ししませんと、貴族位もなく領地だけであれば領民になめられて、運営が大変ですから」
「そ、それにしても……」
「いいですか。人間というものは成果に対して適切な恩賞が与えられなければ働かぬものです。巷で色々言われていますが、私の改革の骨子はそこです。そして魔王と対等に渡り合えた成果が誰のものかと言えば、それはヤジット様以外あり得ません」
「……それは、そうかも知れませんが」
「あなたには伝えておきますが、勇者パーティは魔王と互角に戦ったのは間違いありません。ですが、あくまで互角。結果がどう転ぶかわかりませんでした。あとは体力次第ですが、三日三晩戦い続けてパーティの全員が疲労困憊に達したときに、あの方が提案されたのです。『魔王さんと話し合ってみようよ。きっとわかり合える。そんな気がするんだ』と。魔王と話し合いなど私は考えもしませんでしたが、確かに魔王と何らかの意思の疎通が出来れば、魔王の脅威がなくなったあとの世界を少しだけ安定させることが出来ると思い、その提案を許可しました。今も思い出します。勇者パーティは魔王と距離を取り、あの方はたった一人魔王のもとへ向かいました。あの時のあの方の背中……本当に優しさと自身と覚悟に溢れていました。そして見事に今の結果を得たのです。あの誰に対しても優しく魔王とさえ友情を交わすことが出来るあの方なしに今回のことはあり得ません」
フィッタの胸の内で前から燻っていた不安が大きく膨れあがっていく。
フィッタは咳払いをし、
「一つ、申し上げてよろしいでしょうか?」
「一つと言わずいくつでも」
「姫様は冷静さを欠いていらっしゃるように思えます。いつもの姫様とは違います」
フィッタの言葉にエレナ王女は首をかしげた。
「いたって冷静だと思いますが……」
「いえ」
フィッタは首を振り、
「……姫様は今恋する乙女の顔をしていらっしゃいます」




