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トリックアクターズ  作者: 光井テル
Act.2 五章 花、舞い上がる
100/102

2.5.3

 ◇   ◇   ◇

 A区画 森林公園入り口


 地上に上がった華恋達の前には、緑豊かな公園が広がっていた。


 A区画森林公園。そこには人工島に造られたとは思えない程の自然があり、街中にあるからこそ、周辺との対比で緑がより際立っていた。舞識島では人気スポットの一つとなっている。


 華恋たちが居るのは森林公園入口前に面した通りだ。この通りをそのまま進んでもすずのねには着くのだが、公園の外周を通る事になり、やや遠回りになる為、中を通っていく事になった。


 公園に入ると、その道の両脇には木と花壇が並んでいた。道の先には公園の中心に位置付く噴水広場があり、そこへ至るまでを色とりどりの花が案内してくれているようだった。


「良い雰囲気の公園ですね。良く手入れされていますし、ゴミが全然落ちてない。お花も綺麗で」


「そうですね。この公園は島内でもかなり人気の場所なので、気に入って頂けたなら嬉しいです」


「私、実は花が好きなんですよ。綺麗に咲いてくれてるとなんだか楽しい気持ちになれて、良いなぁって。凄い詳しいわけではないんですけどね。ただ、その中でも特に好きな花があって」


「それは、やっぱりガーベラですか?」


「わかります?」


「えぇ。その髪留め、綺麗で良く出来てますね」


 ミリアムの視線が、華恋が前髪を留めているヘアピンへ向く。それは白いガーベラを模したものだった。一目でガーベラと分かる程良く作り込まれている。ただ、特別高価なモノには見えなかった。華恋はヘアピンを褒められた事が嬉しかったのか、頬が少し緩んでいる。


「えへへ、ありがとうございます。実はこれ私の宝物で。ある人との思い出があるんです。とても大切な。それがガーベラを好きになったきっかけで、今の私があるのも全部そのお陰――」


 しかし、そこまで言ったところで、彼女の話を遮る声が割って入った。品のない男の声だった。


「ねえねぇ~そこの君たちィ~!」


 自分たちに対する呼びかけのようだ。華恋たちは足を止めて、声の方へ振り返る。

そこに居たのは、五、六人程で構成された男女の一団だった。


 先頭に立つのは耳にピアスを付けたモヒカン頭の男で、いかにも育ちが悪そうだった。どうやら声を掛けてきたのはこの男のようだ。その周りに居る者たちも個性的で、一先ず華恋の目に付いたのは、他のメンバーより少し歳が離れている少年と、日傘を射しているゴシック衣装の女性、あとは何故か全身を黒いローブで覆っている顔髭の凄いグラサンの男だった。


 そして、全員が赤い布を腕や手首に巻いていて、全体的に赤色が強い。妙な一団だった。


「良かったらぁ、これから俺たちとぉ~、お茶しなぁい?」


 続けてモヒカン男が話かけてくる。だが、華恋達は黙ったままだった。


 急すぎて状況が飲み込めず、内容が頭に入ってこない。加えて、モヒカン男のねっとりとした話し方も相まって印象が悪かった。静江の方は特に気にしていない様子だが、ミリアムと華恋は警戒の色を保ったまま、静江を守るように一歩後ろに下がった。


 距離をとられた事に、モヒカン男は首を傾げて仲間の方を向いた。


「……なんか通じてないみたいだ。よし、いけタスケ!」


「はい」


 タスケと呼ばれた男が前に出る。すると今度は、その男が先程の発言を何故か英語に翻訳し始めた。ネイティブな発音に加え、ジェスチャーも交えている。完璧な英会話だった。


 しかし、華恋達の方は益々意味が分からないといった表情で、変わらず目を細めたままだ。


 この空気に耐えかねたのか、集団の少年が、華恋たちに聞こえない声でモヒカン男に話しかける。


「ヨネさん。ヤバいっすよこの空気。どうすんすかコレ。マジでどうするんすかッ!」


「大丈夫だ。いける。俺の時代は近い」


「どの辺見てそう思ってんすかッ! あと、お茶ってなんです。洒落た店とか知ってんすか」


「んなわけねぇだろ。ナンパの常套句だから適当に言っただけっての。だが、そんな事はいいんだよ。とりあえず最初のハードルさえ越えられりゃ後はどうとでも……」

「それが越えれてないように見えるんすよッ」


 華恋達に彼らの会話は聞こえていない。一先ず、話に応じる為、ミリアムが代表して前に出た。


「私達に何かご用で?」


 相手が不良の類である事は見て分かる。だが、ミリアムは全く臆している様子がなかった。案内人として島の客人を守ろうと、華恋と静江の前に立って堂々としている。


 そして、彼女達からの返答に対し、最初に反応を示したのはタスケだった。


「日本語通じるみたいなので私要りませんね。下がります」


 華恋達の方に一礼すると、タスケは静かにグラサン男の横に戻っていった。その様子に、集団に居る少年がなんだかとても申し訳なさそうな表情をしていた。その後、役目を終えたタスケに代わり、モヒカン男が再び前に出た。モヒカン男は軽薄さを感じさせる笑顔で話し始める。


「君達ィすっごい可愛いねぇ~。よく美人って言われるでしょ? うんうん、わかるよ~わかる。それでさぁ、ここで会ったのも何かの縁って訳でェ、良かったら俺たちと一緒に遊ぼうぜぇ?」


 それを聞いて、ミリアムはようやく状況を理解した。下手すぎて全然気付けなかったが、どうやらナンパのつもりらしい。ミリアムは相手を刺激しないよう柔和な笑みを浮かべた。


「すみません。今、私達別の用がありまして」


「えーそんな事言わずにさぁ。あ、そうだ! 実はもう誘ってる子がいるんだ。ねぇ~ユッキー」


 モヒカン男は集団の最後方にいる女性を向いた。日傘を差しているゴシック衣装の女性だ。


「ん? あー……はいはい。そうねー。良かったわねー」


 ユッキーと呼ばれた女性は全く関心のない様子だった。この状況が始まってから日傘の下でずっとスマホを触っており、とてもノリ気には見えない。しかし、モヒカン男は諦めなかった。


「そ、そんな感じで~、皆で楽しい事しようぜぇ。コイツもお姉さん達と遊びたいって言ってるんすよぉ~。なぁシゲ」


「え、俺っすか⁉」


 隣に居る少年が肩を震わせる。話を振られた少年の方にミリアムの視線が向いた。ミリアムにじっと見つめられ、少年は目を泳がせている。


「あの、いや……はい、遊びたい……です」


 自分は言わされています、と言いたげな表情をしているが、そんな事はミリアム達の知った事ではない。少年の発言のせいで、モヒカン男のテンションは更に勢いづいた。


「ほーら! コイツもこう言ってる訳なんで、ここはどうか! コイツに免じて! ね!」


「いや、ですから……」


「分かった! じゃあ君達の用事に俺達も付き合うよー! その婆さんの事でしょ! もう何でも任せてくれていいんで。うん、それがいいな! とっとと用事片付けて皆で遊ぼうぜぇ!」


 ピアスの男はミリアムの話を全く聞いていなかった。引き下がる様子がない。


 丁寧に応対していたが、これ以上付き合うのは時間の無駄だ。ミリアムは次の言葉を最後にこの場を離れる事を決めた。


「私達だけで間に合っていますので結構です。それでは。……天宮さん、日野さん。行きましょう」


 ミリアム達が背を向ける。もう相手をするつもりはないという意思表示だった。

 だが、モヒカン男はそれでもまだ食い下がる。


「ちょっと待った! じゃあ連絡先交換しよう! また今度って事でさ。せめて名前だけでも!」


 モヒカン男がミリアムの手首を掴んだ。その勢いが強かったか、ミリアムから小さい声が零れた。


「イタッ」


 そして、次の瞬間——


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