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夜でも白い空の下、リュカは彼と出会った。いつもなら、見捨てることもできたのにそうできなかったのは、彼の呟いた言葉のせいだ。
「……たい……空の色が、知りたい」
身なりの悪い少年。明らかに捨てられたのだろう。
「空の色は白だろ」
リュカは吐き捨てるようにいう。すると、少年は閉じていた目をカッと開いて黄金の瞳を露わにした。
「星があったんだ。その時は今と空の色は違ったらしい」
「……それは神話の話だよ」
少年は目に涙を浮かべ、駄々をこねた。
「嫌だ、俺はもういくところがないんだ」
「ホゥ」とどこからか竜の鳴き声が聞こえる。竜がなくのは、竜守りが動揺している証拠だ。「まずい」と思い、リュカは少年の頭を撫でる。
「いくところがないなら僕のところに来なさい」
「うん!」
少年は急に泣き止んだ。まるで、その言葉が発せられるのを知っていたみたいだ。
「俺、ミートパイが食べたいなー」
「図々しいな」
リュカは笑った。こんなふうに冗談を交わすのは、いつ以来だろう。数千年の時を生きた彼でも、思い出せないことはあった。
「君の名前は?」
「うーん。忘れちゃった」
少年は考えあぐねているようで、嘘はついていなさそうだ。
「じゃあ、自分で決めればいいよ」
少年は嬉しそうな顔をした。その後空を見つめて、ふと口に出す。
「わかった。今日から俺は、アズだ」
「いい名前だね」
(まるでそれは、『運命』を予感させるような――)
2人は森の中にある、リュカの小屋まで来た。
「意外と狭いねー」
「黙りなさい」
アズは堂々と床に眠り出した。リュカはそれを気にせず、料理をする。野菜と肉を細かく刻み、火で炒め、パイ生地で包んでオーブンで焼く。
「うわ、本当にミートパイ作ってくれたの?」
アズは、料理が出来上がった途端に起き出した。都合のいいやつである。
「熱いから、ゆっくり食べなさい」
リュカの忠告は無視し、吸い込むような勢いでアズは完食した。
「あ、ごめん。美味しくってつい」
申し訳なさそうに空っぽのお皿を眺める。
「いいよ。僕は何も食べなくても平気だ」
「なんで?」
アズは不思議そうに聞く。よっぽど、ご飯を食べないということが理解できないらしい。
「俺は、竜守りだ。この身は魔力でできている」
リュカの話を聞いて、アズは目を大きく開いた。
(やっぱりそうだよな――)
リュカは諦めたようにアズから目線を外す。「出て行きたいなら、出て行ってもいいよ」そう口を開く前にアズは、ガタンと音を立てて立ち上がった。
リュカは孤独に慣れている。だから、心が波立つこともない。
(いいんだ。欲望に塗れた竜守りなんて、軽蔑していい)
ガチャリと音が聞こえた。アズの手には包丁が握られている。
「ま、待てアズ、それはダメだ――」
アズはゴンと音を立てて、包丁を振り下ろした。
「あれ?」
アズは首を傾げる。
「……」
リュカは何も言わない。彼の周りには、包丁の刃と、野菜が散らばっていた。
「料理って、どうやってするんだ?」
アズは、野菜を切ろうとしていたのだ。
「包丁は、振り下ろしてはいけないよ」
リュカはバクバクと早鐘を鳴らす心臓を撫で下ろす。
(心を荒立てるなんて、竜守りとして在らぬべき失敗だ……)




